第9話 実技試験
実技試験のため、学園の外にあるラプノス大平原で、生徒たちは各々の課題を与えられた。
それはこの平原に生息する魔物から得られる素材を入手することだ。魔物の種類もそれほど多くなく、強さも訓練を受けた人間なら苦労せずに倒せるレベルだ。
そのこともあり、例年は試験中はチームを組むことを禁止となっているが、今年は異変魔物の対処のため解禁となっていた。
試験としてはどうかと思うが、交渉能力やチームをまとめる能力・連携も見ると言うのであれば、話は変わるのだろう。
「GRUUUU!」
シャルロットの目の前には以前にも襲い掛かってきた凶暴な目つきをした白銀の狼が一匹。目の前に居る獲物を狩るため、じりじりと詰め寄ってくる。
(課題の一つはシルバーウルフの牙を集めること。あの機動力は厄介だから……)
「まずは動きを封じ込める。アースバインド!」
動きを封じ込めようと、地面から鎖を生やし、シルバーウルフの足に巻きつけようとする。だが、前方から向かってくる鎖を左へ右へとかわしながら、その距離をどんどん詰めてくる。
「食らいなさい、ライトニング・ウェブ!」
シャルロットが放ったのは電撃の網。左右への移動を鎖で封じ込められていた狼はそれをかわすため、唯一開いている上空へと跳躍する。
「もうこれで機動力は生かせない。サンダー・バレット!」
電撃の弾が跳躍したことで見せたシルバーウルフの腹を打ち抜いていく。ピクリとも動かなくなったシルバーウルフの牙をナイフではぎ取っていく。
「ふう、これで5体目。レオナ、オリヴィア、そっちはどう?」
「あたしはこの子の面倒をみていたこともあって、ようやく4体目よ」
「牙が1本折れてしまいましたが、3体倒せました。レオナさん、ありがとうございます」
「まだ素材は足りないでしょう。感謝するのはその後よ!あなたは狙いをつけるのが遅すぎる!あとその場に居る目標を狙い撃つのではなく、相手の動きを予想して未来位置に撃ちなさい!!」
「は、はい!」
オリヴィアがシルバーウルフに向かって魔法の弾を放っていく。一発目は軽々避けられたが、続けて撃たれた2発目、3発目の弾がシルバーウルフの逃げ道を防ぐように撃たれ、本命である4発目の弾がシルバーウルフにクリーンヒットする。
「まだ無駄弾が多い。あと1発は減らせる」
「はい!」
(彼のスパルタ振り……まるで悪役令嬢ね)
少し前まで魔法もろくに扱えなかった少女にとっては厳しい指導ではあるが、魔法の腕が上達していることもあり、オリヴィアからはさほど嫌われていない。シャルロットほど好かれてはいないが。
指定数の牙を集めきったところで、ヴィンデル卿と数名の男子生徒によるパーティーがシャルロットたちの下にやってくる。
(指定された素材はそこまで入手難易度が高くないものばかり。ヴィンデル卿の実力ならば、1人でも集められるはずよね)
不思議に思ったシャルロットはその理由を問い尋ねることにした。
「あら、ヴィンデル卿。どうしましたの?」
「実はだな。俺たちの課題に幻覚草が入っていてな。俺たちのパーティーだと全滅しかねん」
幻覚草はその名の通り、周囲に幻覚を引き起こす毒をまき散らす植物だ。名高いパーティーもこの植物の対策を怠っていると、仲間割れを誘発させられ、弱ったところに種を植え付けられ苗床にさせられてしまうケースがある。
改めて、ヴィンデル卿のパーティーをみると、魔法よりも物理に偏重してそうな筋肉質な男性が多く、幻覚草を恐れるのは無理が無いものであった。
「なるほどね。確かに私たちの課題にも幻覚草はありますが、こちらは魔法で対策は可能。しかも、オリヴィアには毒耐性があるから、仲間割れも危機もない。貴方と手を組むメリットはありませんが?」
「メリットならあるさ。こっちはアーマーリザードの鱗が3人分余っているんでね。それと取引ってのはどうだ?」
(魔法耐性の高いアーマーリザードを倒せないことはないけど、時間がかかる。幻覚草自体は平原近くの森の中を調べれば、見つけやすい分類。試験時間のことを考えれば、妥当と言える取引ともいえるわ)
「いいでしょう。その取引させて頂きましょう」
パーティーから成功報酬分を持ったヴィンデル卿と共に、オリエンテーションと同じメンバーで森の中へと入っていた。毒の花粉を吸わないようにシャルロットが風を起こし、自分たちを常に風上にしている。
「風の魔法って凄いですね」
「気候操作の魔法は制御は難しいけど、使いこなせば便利なものよ。光魔法ならうす暗い洞窟でも火を使わずに灯りをともせて利便性が高いわ」
「そうなんですか? 松明でもいい気がします」
「松明だと中の空気が足りなくなって窒息死する事故が起こりうるからな。その点、光魔法は都合が良いというわけさ」
「無駄話もそこまで。あたしたちは試験中なんだから……見つけましたわ」
レオナが指さしたのは赤紫色の花を咲かしている植物。いくら毒の花粉を受けないためとはいえ、近づければ幻覚作用から逃げるのは困難だろう。
「正攻法なら、遠距離攻撃で花を斬って、魔法で運びながら花粉を吸わないようにするのでしょうけど、こちらにはオリヴィアがいるわ」
「はい、お姉さま」
オリヴィアが何の警戒もせずに花に近づき、あろうことかその匂いまで嗅いでいる。そして、目標の数まで幻覚草を根元から引っこ抜いていき、採れましたよと嬉しそうに跳ねながらシャルロットのところに戻ってくる。
そんな彼女たちを茂みに隠れながら見ている者がいた。
立食会でシャルロットに恥をかかされたアランとその取り巻きだ。彼らからすれば、この試験で彼女たちが順当に好成績を残すのは面白くない。
「よし、ここで魔物寄せのお香をたくぞ」
「大丈夫なんですかね。あんな怪しげな男から買ったものなんて」
「昔から言うだろう。高ければ高いほど良いモノだと。それに森の中で魔物と出会うのは自然な流れだ。俺たちの仕業だなんて露とも思わない」
「これで制限時間内までずっと魔物と戦わせれば、あいつらは試験に落ちて落第というわけですね」
そして、アランがお香を焚いた後、自分らがまきこまれないようそそくさと森の中から出ていく。もし、シャルロットが花粉対策で風を起こしていなかったら異常なにおいに気づいたかもしれないが、残念ながら天は味方をしなかった。
アーマーリザードの鱗を受け取ったシャルロットたちは、森から出ていこうと踵を返した時、どすんどすんと大きな地響きが聞こえる。その異常事態に振り向いた彼女たちの目の前にはこん棒を持ったゴブリンの群れがあった。
緑色の肌で子供と大差のない身体だが、数は軽く10は超えている。しかも幻覚草のせいか目の焦点があっておらず、まっすぐ彼女たちに向かわず近くの草木などにも無秩序に攻撃をしてくる。
「GOB!GOBGOB!!」
「ええい。こちらに向かってくるものだけ攻撃しながら撤退するぞ」
「同感!あれだけの数、まともに戦うのはごめんよ。幻覚草のことがあるから私は風の制御しないといけない。バインドくらいなら支援できるかもしれないけど、あまりアテにはしないでね」
「了解。ここは遠距離からのヒット&アウェイで逃げるわ」
「わかりました。ホーリー・ショット!」
「氷の槍よ、敵を貫きなさい!アイス・ジャベリン!」
「紅蓮の炎よ、敵を燃やし尽くせ!フレイム・バーナー!」
光の弾が、氷の槍が、火炎放射がゴブリンを蹂躙していく。だが、あとから湧いてくるゴブリンたちが失った数を補うかのように出てくるため、見た目の数はほとんど変わらない。
「おかしい。いくら何でもおかしいぞ、これは!」
「ええ。誰かが意図的に仕掛けないとここまでの数のゴブリンは出ないわ」
「探すにしても、幻覚草の花粉が舞う森の中は調べるのは自殺行為。どういたしますの?」
「まずは森の外に出る。何らかの魔道具を使っているにしてもその効力は永続ではないはず。その効力が切れるまで、私たちのクラス全員で防衛戦をするしかないわ!」
「なんで実技試験が総力戦になるんですか!」
「こんなことになるなんて私も知らないわよ!あらかじめ知っていたら対策くらいしてくるわ」
予定にない戦いに怒りのこもった声でシャルロットは叫んでいる。試験なんてゲーム内では簡単にできるお使いイベントでしかない。ガチ戦闘なんて、ゲーム内でもほとんどないのだ。それゆえ、シャルロットはこの試験を甘く見ていた。
急いで森の外に出た彼らは反転し、身構える。
ピリピリした空気が彼女たちから流れ、それに気づいた近くの生徒たちが何事かとみると、そこには緑色の群れ。あからさまな異常事態に、慌てふためきながら逃げていく。
「一気に片を付ける。吹きすさべ嵐よ、雷神の裁きを下せ!サンダー・ストーム!!」
雷をもとった嵐がゴブリンを上空へと巻き上げられる。万が一、高電圧に耐えられた個体が居たとしても、上空から叩きつけられれば、ひとたまりもない。
「これが今の私の全力です!ホーリー・バスター!」
覚醒オリヴィアが放ったセイクリッド・バスターよりも火力も範囲も小さいが、それでも身体の小さなゴブリンを飲み込み、消滅させるには十分な火力であった。
「俺は遠距離攻撃よりも、こっちのほうが性に合っているんでね。ファイアーソード!」
「ならば、あたしは援護しておきましょう。氷の刀身よ、踊り狂い切り刻め!アイス・ブレイクダンス!」
空中の水蒸気を凝固させ、作り出した無数の氷の刀や槍を敵に向けて放っていく。様々な方向から作り出されたそれを躱すことができず、ヴィンデル卿を取り囲もうとしているゴブリンは切断されていくだけとなった。
たった4人で大多数のゴブリンを葬っていくも、他の生徒まで狙うゴブリンを食い止めることはできない。その中には当然、アランの姿もあるわけだが……
「くそ、こっちに来るな!」
「しつけぇ!いい加減にしろよな」
魔法で対抗しているあたり、さすがは貴族だろう。アランが周りを見渡すと、多かれ少なかれゴブリンの相手をしている。肝心の先生は生徒の安否と戦力が乏しいパーティーのフォローで手一杯といった様子だ。応援を呼んでいるのかもしれないが、致命的なほどに手が足りない。
「なんでこうなったんだ!」
一番の元凶であるアランの悲痛な声は戦場の音にかき消されるのであった。




