第二話:ダチョウ肉のステーキ7
「さて、あとは…………と」
小物達が近所の農家で数十枚のびた銭で購入してきた大根を取り出すと、別の石の上で素浪人は大根を刻み、そして木の椀の上で握りつぶした。
恐ろしい握力で、あっという間に大根汁が出来上がり、残り滓をその中に沈めて手で散らすと、大根おろしめいたものになる。
さてこれに持っていた小さな小瓶の栓を抜いて醤油を注いで手早くかき回す。
「よっこらせ」
ひょい、と肉の塊をどかすと、肉じたいがせき止めていた油がどっと石から流れるのを先ほどの大根おろしと醤油の混ざったものが入った木の椀で受け止める。
「さて、ではこれから食べるとしようか」
素浪人はそう言うと小刀で肉の塊をひっくり返し、焦げ目の付いたところを分厚く削いだ。
「おのおの、好きな分だけ切り落とせ。役人殿に遠慮はするな、食卓では早い者勝ちだぞ」
そう言うと石の上で手早く肉を切り分け、素浪人は先ほどの竹を削って作った箸で肉をつまみ上げ、ちょんと木の椀のつけ汁につけて口に放り込んだ。
「おほう、これはこれは!」
声を上げて目を細める。
「うむ、牛のような歯ごたえだがそれよりも柔らかい感じがするのぅ。ひと噛みごとに甘い肉汁が溢れる感じがするわい……もう少し塩加減を強めにするべきだったかもしれんが、それがまた醤油のこくと大根おろしのさっぱりさで! いや、欣快欣快!」
そう言いながらほくほくと口の中に肉を放り込んでいく。
ごくり。
役人の喉が鳴った。