第二話:ダチョウ肉のステーキ6
「しかし鍋釜などないぞ?」
「鍋はどうにかなる…………ほれ、そこに竹林があるだろう、そこで太い竹を数本切ってこい」
「なるほど、竹飯盒か」
「ほう、お役人、しっておるのか」
「こう見えてもお鷹狩りの時は野山を駆け巡るのだ、それぐらいの知恵はある」
言って役人はトコトコと近くの竹藪に入っていった。
もう自分が素性も判らぬ浪人者に指図されているということは忘れている。
それぐらいこの素浪人、妙な威圧感と威厳がある。
それでいて、どこか飄々としていた。
三寸ほどの太さの竹が取れたので、それを節ごとに切り、役人と小物たち、そして素浪人本人を含めた五人分の竹筒を作り、井戸の水でといだ米と、多めの水を上の節を抜いて流しこむ。あとはそれをたき火の周囲の地面に埋める。
もちろん、抜いた節の部分は上になるようにする。
あとは表面が焦げてきたらくるくると竹筒を回す。
真っ黒焦げになるあたりでたき火の火を竈に移してしばらく放置。
「まあ、少々青臭く思うものもおるかもしれんが、それはそれで風流と考えて貰おうか」
素浪人、そういいながら少々平たい石を水で洗い、竈の上に置いた。
そして皮を剥ぐ時に削ぎ落とした脂身を並べる。
やがて石に火が通って脂身が溶け始めた。
ジュウジュウと獣臭い脂の弾ける音と匂いが蔓延する。
「よし、では始めるとするか」
そう言うと、素浪人は腰肉の一部をそのまま塊で石の上に乗せた。
いっそう激しい脂の弾ける音と共に、肉が焼けていく。