第二話:ダチョウ肉のステーキ5
「うむ、やはり駝鳥ともなると大きい」
そう言うと素浪人は懐から黄色みがかった白い岩を取りだしてガリガリと短刀で削り始めた。
「岩塩か、それは」
「うむ、良い物だぞ、何しろ最初から固まっておるから扱いが楽だ」
さらに褐色の粉を振りかける。
いくらかが役人の口元まで漂い、鼻の奥をくすぐってくしゃみを出させた。
「なんじゃこれは!」
「いや失礼、これは黒胡椒というものだ。なかなか日本では手に入りにくい。こういう美味い部位になら使ってもよいと思うのだ」
そう言いながら素浪人は手早く岩塩と胡椒を肉にすり込んだ。
岩塩はさらに削って叩くように、撫でるように他の肉にもこすりつけていく。
そしてまた短刀を握り、一刻ほどで解体を終えた。
「ワタナベ様、これぐらいでよろしゅうございますでしょうか」
すっかり主であるはずの役人の代わりにこき使われた小物達が、納屋の外に石で作った即席の竈の点検を頼んだ。
「うむ、これぐらいしっかりしていればよい。あとは鍋釜の類いだな。焦げ目が大事なのだ、『すてえき』には」
「一体、なんなのだその料理は」
「単純明快にして奥の深い料理、西洋では肉料理はすてえきに始まり、すてぇきに終わると言われておるらしい」
「まるで料理道だな」
「何事も道を見つければ道となる、ないと思えば無い。それはそれで楽だから道楽という」
判ったような分からない様な発言をしながら素浪人は他の肉も細かく切り分けて、さらに岩塩と山椒を振りかけて馴染ませる。
「まあ、明日の朝になれば確実に美味くなる……さて、火をおこせ。米の飯もある。おいお前、これで近所の百姓から大根を購って参れ。太いのが二本もあればよかろう」
そう言って素浪人は懐からびた銭数十枚を取りだして放った。
「え?こ、こんなに?」
「お前たちも喰うのだ」
にやりと素浪人は笑う。