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第二話:ダチョウ肉のステーキ4
この男は「全て知らぬ存ぜぬ」で通してやるからお前も「数えまちがえただけで居なくなった駝鳥などなかった」ことにせい、と言っているのだ。
「わ、判った、こ、これは失礼をば……」
そう言って踵を返そうとする役人の手を、素浪人が掴んだ。
万力のような強さに思わず呻いて振り返る。
「そう言わずに、我らと一緒にどうか、どうか」
懇願している者の目ではなかった。
恫喝者の目であったが、役人はもう逃れられぬと観念した。
証拠隠滅を手伝え、ということなのだ。これは。
「…………とはいえ、タダの鍋では駝鳥はよろしくないのでまずは厚切りにした肉を焼いて『すてえき』を楽しもうと思うのだ」
素浪人はそう言って役人と小物達に手伝わせて駝鳥を街道から少々外れた場所へ持っていった。
空き家になって久しい農家の納屋が駝鳥解体の現場となった。
素浪人は鋭い担当でみるみるごつごつした駝鳥の皮をはぎ、脂身を削り落とすと腰肉の一部を切り取った。