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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第26話 バケモノ

 カゲロウはすぐに体を起こして、タクトの方に向かう。


 しかし……そこにいたのは、先ほどとはかけ離れた姿をしたタクトだった。近くにあの白髪で奇怪な男はいなかった。


「……なんだ、これ」


 タクトの背中から鱗の張りついた翼が広げられている。そして、頭からは悪魔のように鋭い角も生えていた。


 タクトはカゲロウが近づいてきたことに気づくと、話し出す。


「……()()()()()()()()……と言ったところか」


 彼の金色に輝く瞳がカゲロウを捉える。


「……っ!」


 そして、一瞬でカゲロウの前に現れる。


「二度も同じ手は」


「同じか……。お前にはそう見えるのか?」


 突然、後ろからタクトの声がした。そのことにカゲロウは恐怖を感じた。


「悪いが……俺の速度に着いてこれないお前に用は無い」


「なっ――」


 その直後、カゲロウの腹が蹴られる。そして、そのまま空中に飛ばされる。


「がはっ……」


 タクトはすでにカゲロウの目の前に移動していた。


「亜人になると……能力が弱くなると言われている」


「……何を」


「だからな」


 さらにタクトの拳がカゲロウに食い込む。


「完全に体が亜人になる前に……お前らを殺す。それだけだ」


 カゲロウは弾き飛ばされ、地面に打ちつけられる。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



――サクラザカ――


「…………」


 ……眠るサクラザカに誰かが声をかける。


――起きろ。サクラザカ――


「……ライリー……さん」


「起きろ! サクラザカ!」


「……?」


 そこには小さい体でサクラザカの手を引っ張るウィンの姿があった。


「頼む! このままでは、カゲロウが死んでしまう!」


「…………」


 遠くから激しい衝撃の音が伝わってくる。


「ウィンさん。カゲロウの場所はわかりますか」


「……ああ。わかる」


「…………」


 サクラザカは左手に噛みつきながら、立ち上がる。


「……案内をお願いできますか」


「……もちろんだ!」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「…………」


 タクトはカゲロウの首をつかむ。


「お前は、何のために戦っている?」


「……はっ……があっ」


「まったく……。救うべき者を選べないお前に」


 そして、カゲロウを地面に落とす。


「英雄になる資格は無い」


「…………」


 まったくもってその通りだと……カゲロウは思った。


 今回の戦いで、あの時何の躊躇も無く、メルメルを殺せたなら、こんなにも絶望的な状況に陥ってはいないだろう。


 ……いつだってそうだった。戦いの時に、迷った人間から死んでいく。


 …………。


 それでも……。


「この……迷いを……捨てるのは違う気がすんだ」


「……っ!?」


 瞬間、カゲロウの周りから光線が発せられる。


「ちっ……」


 タクトは一旦カゲロウを手放し、それらの光線を避けていく。


 しかし……。


 バシュウウっ!


「……!?」


 その頬を光線がかする。それを見て、タクトは自分の特殊能力が弱くなっているのに気づく。


 さらに……。


「……なんだ!?」


 日が沈むと同時に……激しい頭痛が彼を襲った。


「うっ……がああ!!」


 頭を抱え込み、うずくまる。


「なんだ……これは!」


 なんとか、意識を保とうと舌を噛む。


 そして、それから数分後に頭痛は収まった。


「…………いったい何が……。……っ!?」


 タクトは自身の体が変化していることに気づく。


「……男の体に戻っている……のか」


 なぜか性別が反転していた肉体は元に戻っていた。


「……っ!」


 そして、彼の目の前に……サクラザカが現れる。彼も同様に元の体に戻っていた。


 左手に噛みついていることから、気を失わないようにしていたのはサクラザカも同じらしい。


「…………」


「…………」


 タクトもサクラザカも黙ったままだった。


 ただ見つめ合い、互いの行動を予測しているだけだった。


 …………。


 ……バシュっ!


 瞬間。


 タクトとサクラザカは一気に距離を縮める。


 互いの拳が……互いの顔面を捉えていた。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


 サクラザカの瞳が赤く染まる。


 そして、向かってくるタクトと拳を避ける。


「……くっ!」


 攻撃を避けられたタクトは、その場から離れようとする。


 しかし……サクラザカはそれを逃がさない。


――まだだ! まだ、特殊能力が残って――


 サクラザカの拳が、タクトの顔面に激突する。


――なっ……! 特殊能力がうまく作用しない!――


 その拳は、タクトの体を遠くに吹き飛ばした。


「……うがっ!」


 地面に打ちつけられ、その場で倒れる。


 サクラザカも体力を消耗したからか、地面に膝をつく。


「……くっ!」


 タクトは必死に立ち上がろうとする。だが……。


「がはっ!」


 うまく力が入らず、ついには血を吐き出した。


「……これは」


 初めて亜人となった時、力を制御できずに体を傷つける。


 まさにその現象がタクトの体にも起こっていた。


「ちく……しょう……」


「兄……さん」


「!!」


 タクトは……その声のする方向を見る。


 そこには、やっとの思いでここにたどり着いたメルメルがいた。


「兄さん……その傷……。えっ? ……どうして、亜人に……」


 動揺するメルメル。


 それに対して、サクラザカは容赦なく光線を向ける。


「メルメル!! 早く離れろ!!」


「……えっ」


 光線は、メルメルに向かって放たれた。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……兄……さん」


 メルメルの目の前には光線で体を焼かれたタクトの姿があった。


「…………」


「……兄さん?」


「…………」


 タクトは無言のまま、その場に倒れた。


「兄さん!!」


 メルメルは必死にタクトの体を支える。


「兄さん!! しっかりして!! 兄さん!!」


 タクトは小さく瞳を見せる。


 だが……その瞳にはもう力が残っていなかった。


「メ……ル……メル」


「兄さん!」


「…………」


 そんな二人を前にサクラザカとカゲロウはお互いに回復魔法をかけながら、様子を伺う。


 そして、カゲロウは言う。


「……終わったな」


「…………」


 しかし、サクラザカは歩いていく。


「……いいえ」


「……えっ」


 そのサクラザカの言葉にカゲロウは驚きを隠せなかった。


「何……言ってんだ」


「まだ……あの少女を殺していない」


「……は?」


 カゲロウはサクラザカの腕をつかむ。


「……やめろよ」


「…………」


「おかしいじゃねえか!! なんで無抵抗の人間を殺そうとする! こいつ一人だったら、どう考えたって抵抗のしようが無いだろ」


「今は……そうかもしれません。しかし、体力が戻ったあと、僕らを殺そうとするでしょう。そうなった時に、面倒なので……」


 サクラザカはカゲロウの腕を引き離す。


「今のうちに殺しておきます」


「…………」


 瞬間。


「……っ!」


 サクラザカの目の前に光線が放たれる。


「……カゲロウ。どういうつもりですか?」


「悪いが……その意見には賛成できねえ」


 カゲロウは歯を剥き出しにしながら、サクラザカをにらみつける。


「俺たちの勝手な都合で! まだ幼いガキを殺すことなんて俺にはできねえんだよ!!」

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