表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
89/119

第25話 何だって捨てられる

「……メルメル」


 その名前を呼ぶだけでも、心が豊かになった。


 その少女の笑顔を見るだけで、俺も笑顔になれた。


 そいつと手を繋いでいくだけで、世界が明るく見えた。


「だから……」


 タクトは目の前にいるサクラザカに言う。


「ここでお前を殺して、俺の守りたいものを守る。ただ……それだけだ」


「……僕も……同じです」


 サクラザカは、じっとタクトを見つめながら言う。


「人は、何かを守るために戦っている。みんな同じ。だから……強い方で決める。それしか、解決のしようが無い悲しい生き物だから……」


 そして、彼は自分の持つ剣に手をかける。


「だから……ここで決めましょう」


「ああ。わかっている」


 瞬間。


 二人は真ん中で激突する。風圧が周りの砂ぼこりを激しく飛ばす。


 サクラザカの剣をタクトがつかみ、押さえていた。


「…………」


 サクラザカは無言でタクトに向かって蹴りを向かわせる。しかし、それを予測し、その剣を離して、距離を取る。


 同時に、サクラザカに向かって小石を蹴る。その小石をサクラザカは斬って跳ね返し、タクトに向かう。


「……っ!!」


 サクラザカはタクトと共に浮かび上がるのに気づく。


 どうやら、地面の石板にタクトの能力が与えられているようだった。


 そして、タクトの蹴りがサクラザカを弾き飛ばした。空高くまで飛んだ石板からサクラザカは落とされる。


 がぶりっ!


 サクラザカは自らの左手に噛みつく。すると、その背中から黒い翼を羽ばたかせる。


 同時に翼が夕日により、赤く燃え上がるが、飛ぶのには大して影響が無かった。


「……まだだぜ!」


 タクトはその浮いた石板を、今度はサクラザカの方に向かわせる。


「……くっ」


 氷の剣を白く発光させ、石板を叩き折る。


 そして、翼を広げ、タクトに向かう。


 だが……。


「言っとくが……能力だけが俺の特技じゃねえんだぜ」


「……!?」


 タクトは拳銃を取り出し、サクラザカに撃ち込む。


「……うぐっ!」


 サクラザカの肩にその弾丸が食い込む。


 そんな彼をタクトは見上げる。


「悪いな。苦手なことをそのままにしておくほど……俺は怠け者じゃないんだ」


「まだだ!」


「……っ!」


 サクラザカは剣をタクトに突き立てたまま、落ちていく。


「くそっ!」


 タクトは自らの肉体に能力をかけ、避けようとする。


 しかし……。


 バシュンっ!


「なっ……」


 タクトの脚が魔素で作られたロープに捕まる。魔法を発動するほど、サクラザカに余裕は無かったはずだった。


 ……よく見ると、それは地面の方から伸びていた。


「まさか……」


 カゲロウが意識を取り戻し、それを作っていたのだ。


「お前!!」


「さっきやられた分、思いっきり受けるがいいぜ。もっとも……お釣が出ちまうかもしれねえがな……」


 瞬間。


 サクラザカの剣がタクトの腹に突き刺さる。


「うがあああああああああああああああああああああ!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 タクトを貫いたサクラザカは、彗星のごとく加速する。そして、地面に落ち、激しくひび割れを起こした。


「がはっ……」


 サクラザカは地面に達するやいなや、弾き飛ばされ、地面に倒れる。そして、そのまま意識を失った。


「サクラザカ!」


 地面に戻ってきたサクラザカのそばにカゲロウは向かう。


「……大丈夫だ。まだ生きてる」


 とはいえ、体の損傷は激しかった。しかも、太陽の光をじかに浴びたことで吸血鬼としての力も弱っていた。


「だが、もうじき日が沈む。そうすれば、すぐに回復できるはずだ」


 ふと、カゲロウはタクトの方を見る。


 タクトは真っ白に輝く氷の剣ごと地面に固定されていた。


「がっ……はあっ……」


 血を吐き出すタクト。その姿を見て、カゲロウはタクトがもう戦えないことを察した。


 それでも、タクトは突き刺さった剣を抜こうとする。


「……やめろ。もう勝負はついている。お前はもう戦えない」


「いいや、まだだ。まだ俺にはメルメルを守るっていう使命がある。それを達成しない限りは戦う! そうしねえと、あの世にいるグロウブに顔向けできねえからな」


「……自分で殺しておいて……何を……」


 カゲロウには理解できなかった。


 誰かを殺してまで、誰かを救いたいなど。


「…………」


 だが、カゲロウ自身も今までそれをやってきていたことに気づく。


 だから……タクトに強く反対することなどできなかった。


「なあ……頼むから、もう戦わないでくれ。そうしなければ、お前は……」


 カゲロウにはただ願うことしかできなかった。


 だが、その言葉に対して、形相を変えて返答する。


「無理に……」


 タクトはその剣を抜き、地面に投げ捨てる。


「決まってるだろ!」


「さすがですねえ」


 突然だった。


 タクトの目の前に、その男が現れたのは。


「……なっ!」


 そいつは、真っ白な髪で常に醜い笑顔を浮かべている男だった。


 思わずタクトはそいつから離れようとする。しかし、体力の消耗が激しいのか、うまく立ち上がることができなかった。


 そんなタクトの様子を見て、男は言う。


「そこまで警戒しなくても、いいんですよ。私はあなたの敵ではない」


「なん……だと……」


「そうですねえ。証拠を見せてあげましょう」


 男はカゲロウの方を指差す。その指からは光が発した。


 すると、その光は光線となり、カゲロウの方へ向かう。


「くっ!」


 必死にシールドを展開し、防御するが、体を吹き飛ばされる。


 そんな中、男はタクトに話し続ける。


「どうですか? これでも信用してもらえないですかねえ」


「ああ。信用できないね」


 タクトは男をにらみつけ、言う。


「だいたい……お前は俺と同じように、最初からサクラザカたちを殺すために近づいてきたんだろ? 俺と同じ目的だから……協力しようとしている。だから、決して俺とお前は味方じゃない。違うか?」


「……そうですか。少し残念です。あなたのその死にかけの体を、新しいものへと変えることができるのに……」


「……どういうことだ?」


 タクトが聞き返すと、男はさらに笑みを強めて言う。


「人間を()()()()()()薬……というのを私は持っていまして……どうです? 興味がありませんか?」


「……人間を……亜人に変える?」


 タクトはしばらく考え込み、その男に言う。


「もしも、亜人になれたら、俺の体はより特殊能力を受けて大丈夫なものになるのか?」


「ええ。もちろんです」


 男は液体の入ったちいさな瓶を見せる。


「どうです? 寿命の半分を私にくれるなら……これをあなたに譲ってもいいですよ」


「寿命の……半分……」


 すると、タクトは男に対して、嘲笑うかのような笑みを返す。


「上等じゃねえか。それで妹を助けられるなら……」


 男からその薬品を奪い取る。


「俺は人間だってやめてやる!」


 そして、その液体を飲み干した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ