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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第24話 動き出す魂

 タクトは地面を蹴り、建物から高く飛ぶ。


「……あ?」


 遠くには、白髪の男が傘をさして、タクトを見つめていた。


「……なんだ。あいつ……」


 すると、彼は空に向かって手をかざす。その手から大量の魔素が送り込まれ、空に大きな紋章を描き始めた。


「は!? まさか……あれで一つの魔素の配列なのか!?」


 あまりに巨大で複雑すぎるその魔法の発動は、何か不穏な雰囲気を漂わせていた。


「……っ!?」


 その紋章から、大量の光線が発せられる。それらは直線などという単純な動きではなく、螺旋状に回転しながら落ちてくる。


「ちくしょお……」


 その複雑な攻撃を避け続け、男のもとにたどり着く。帝国騎士団特有の白い隊服を着ていることから、その男が帝国騎士団所属ということは一目瞭然である。


 そんな彼にタクトは問いかける。


「てめえ……何者だ!? この孤児院とどういう関係がある?」


「……ほう。なかなかの者だな」


 タクトは突然の男の発言に対し、眉間にシワを寄せる。


「お前のように優れた肉体、精神、技能を持つ者は、あまり目にすることができない。まったく……こんなところで出会えるとは、俺様の運もまだまだ捨てたものじゃないな」


 男は奇怪な笑みを浮かべながら、話を続ける。


「どうだ? 俺様の家臣になるのは。お前と俺様の力を合わせれば、世界を征服することも容易だろう」


「……けっ」


 すると、男に対して、タクトも笑みで返す。


「笑わせるぜ。帝国に従っているてめえから、まさか世界征服だなんて言葉が出てくるとは思わなかった」


「ほう……。その態度、どうやら家臣になるつもりは無いらしいな。残念だが……」


「当たり前だ。糞野郎」


 タクトはいっそう笑みを深め、嘲笑うかのように言う。


「そもそも、この孤児院で……ガキがあの野郎しか残っていない状況でやってくるてめえは、ガキどもがただ殺されるのを見過ごしていたクズだったってことだろ。そんなやつの下につくほど落ちぶれちゃいねえよ」


「……なるほど。俺様がクズ……か。……ふふふっ……はははっ」


 瞬間、男の背後に、先ほどのものと似た形の紋章が浮かび上がる。


「フレインタリアの王であったこの俺様に、そんなことを言った人間は初めてだ」


「……フレインタリアの……王?」


「まあ、いい。昔の話だ。ここの孤児院には、亜人と思われる子どもを置いていた。しかし……奴隷の取引が行われていると知れ渡った以上……」


 男は再び紋章を展開する。


「取り壊すしかなかろう……ということだ」


 タクトはその紋章を警戒する。


 だが……。


 バシュウっ!


「……っ!」


 突然、タクトの肩が切り裂かれる。弾け飛ぶ血が地面に斑点を描く。


「……てめえ」


 タクトの能力、『物体を移動させる能力』はほとんどの物理攻撃に対して無敵である。


 しかし、決して弱点が無いわけではなかった。


「速すぎる……な」


 タクト自身が触れ、その物体がどういう物体なのかを把握していなければ、能力がうまく作用しない。


 目の前の男の放った魔法攻撃がタクトの目では捉えられないほど速かった。すなわち、それはタクトにとっては非常に厄介なものなのである。


「……めんどくせえ」


「ははっ。どうした? 若僧。お前の実力はこの程度か?」


「んなわけ……」


 タクトは脚に力を込める。


「ねえだろ!」


「っ!?」


 瞬間、タクトはいっきにその男との距離を詰める。


「なにっ。急に……」


 タクトの能力を知らない男は、その動きの速さに驚いていた。


 だが、男の判断も速く、すぐに細かいシールドを無数に展開する。


 タクトが殴った部分のシールドは弾け飛んだが、攻撃は男までは通らない。


「お前の能力……潰すには惜しいな」


「っ!」


 男はタクトの腹を蹴り飛ばす。


 タクトはその脚に能力をかけ、その攻撃を止めようとする。


「……!?」


 しかし、攻撃を止めることができなかった。


――まさか、氷結晶を組み込んでいるのか。こいつの服は――


 タクトはそのまま、蹴り飛ばされ、建物の壁に叩きつけられる。


「うぐっ」


「……よかろう」


 男は奇妙な笑みを浮かべ、言う。


「お前は()()()()に忠実な(しもべ)になるよう洗脳してもらう。そうすれば、帝国軍はより戦力が増すだろう」


「なん……だと……」


 何が……帝国だよ。


 俺から両親や妹を奪っておいて、それで俺の心まで奪おうってのか。


「……ふざけんな」


 そんなんだから……誰かが悲しむ世界になっちまってんじゃねえか。


「ふざけんじゃねえ!!」


 タクトはその場に持ち合わせていた拳銃を取り出し、引き金を引く。


 弾丸は男の方へ向かっていく。


「…………」


 男は黙りながら、横を通りすぎる弾丸を見つめる。


――やっぱり……な――


 タクトは銃のような精密な動作を問われる攻撃方法が苦手だった。だから、拳銃などを使ったとしても、当たらないのだ。


「……あいつは」


――あの糞ガキは……もう遠くまで逃げれたのだろうか――


 タクトの心残りはそれだけだった。


 グロウブやグレーなど、財団のメンバーはみんな心強い仲間だった。だから、きっと……。


――きっと、俺が洗脳されても、ちゃんと殺してくれる――


 財団のメンバーは……そういった人間の集まりだからだ。


「さらばだ。少年」


 男は数々の光線をこちらに向け、撃とうとする。


 その時だった。


 ブシュウウっ!


「……!?」


 弾丸が、その男の頬をかすった。先ほど当たらずに通りすぎていった弾丸が……。


「どういう……」


「……約束」


 建物の上に、あの少女がいた。彼女は狙撃銃を持ち、こちらを見下ろす。


「何やってんだ! 早く逃げろ!」


「約束……した」


「は!?」


 少女は狙撃銃を男に向け、言う。


「二人で……生き残るって」


「…………」


 バギュウウンっ!


 放たれた弾丸は確実に男に向かっていた。


 だが……。


「……っ!」


 男の後ろに魔素によって描かれた紋章が浮かび上がる。それらはある魔法を発動するものだった。


――反射魔法!――


 このままでは、弾丸が弾き返され、その少女が殺されてしまう。


「……ちくしょお!」


 タクトは、弾丸が男にたどり着く前に、跳ね返される弾丸の軌道に入る。


 弾丸が男に触れた瞬間、逆方向に進み始めたのがわかった。


「うおおおおおお!!」


 跳ね返ってきた弾丸に手をふれる。その弾丸はタクトの能力が与えられ、またもや逆向きに跳ね返る。


 だが、能力を与えて跳ね返したのはタクトであり、正確に弾丸を男に撃ち込むことができなかった。


 現に今、弾丸の軌道がずれている。


「……くそっ」


「……シータ……じゅうにぶんのπ(ぱい)


「……!?」


 タクトの後ろから、そんな声が聞こえた。


 それと同時に、はずれた軌道を取っていた弾丸が突然、男の方に向かっていく。


「なにっ!」


 この突然の弾丸の動きは、男にも予想できなかったようだった。


 バシュウっ!


「ぐっ……」


 弾丸が男の脚に食い込む。


 タクトはそのタイミングを逃さない。


「おい! 糞ガキ!」


 能力を自分の体に与え、少女のところまで行く。


「逃げるぞ。捕まれ!」


「……りょーかい」


 男の魔法による攻撃が続いたが、それを抜け、タクトとその少女は逃げていった。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……はあ、はあ、はあ」


 あまりにも能力を使いすぎたことでタクトはだいぶ疲労が溜まっていた。


「……だいじょうぶ?」


「大丈夫に……見えるか?」


「ぜんぜん……」


「……だろう……な」


――異様なほど脚が痛い。……というか、能力で負荷をかけすぎたせいで右脚の骨が折れている――


 ……タクトはその痛みに耐えながら、歩こうとする。


 だが……。


「……あ?」


 そんなタクトの腕を少女がつかむ。


「なんだよ」


「無理しちゃ……だめ」


「…………」


 この少女に、タクトは不思議な思いを感じていた。


「お前、名前は?」


「……メルメル」


「…………」


 突然、この少女はタクトの能力に干渉していた。


 タクト自身、彼の能力に関しては誰にも変えられることが無いと考えていたのに。


 彼は……何か運命のようなものを感じた。


「……なあ、メルメル」


「……?」


「もしもさ……行くところがねえなら……」


 タクトはそれを言うのをためらった。それを言えば、メルメルを再び危険な世界へと引きずり戻すことになるからだ。


「……行く」


「……は?」


 しかし、そのあとの言葉を言わないで、メルメルは返答する。


「だって……」


 その時、メルメルは小さく笑みを見せた。


()()()と一緒なら……なんでも乗り越えられそうな気がするから」


「…………」


 タクトは、メルメルという少女に、自身の妹という存在を重ねた。


「……そうか」


 彼は……考えた。


――なあ、神様。……俺はまた……守るべきものを作ってもいいのかな――


 タクトとメルメルは、互いの体を支え合い、歩いていった。

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