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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第17話 血に焼かれた魂

「よかろう。その命。焼いて葬ってやる」


 その声と同時にグロウブの作り出した光の玉が、弾幕となりサクラザカの方へ向かっていく。


「うおおおおおお!」


 玉に剣を振るい、かき消す。そして、一気にグロウブとの距離をつめる。


「……ここまでくれば!」


「愚か……」


「っ!」


 グロウブは巨大なシールドを作り出す。そして、それをサクラザカの方向に押し出す。


「そんなもの!」


 サクラザカは氷結晶の剣を白く輝かせる。


 バリリリリっ!


 そして、シールドを破壊し、グロウブに向かう。


「……これで!」


 キュウウウーンっ。


「っ!?」


 シールドを壊した先でサクラザカは気づいた。


 目の前にサクラザカのいる一点に向けて、光線が放たれようとしていることに。


「ちっ!」


 すぐさま後ろにさがり、距離をとろうとする。しかし……。


「……っ!?」


 壊したはずのシールドがすでに直り、サクラザカの退路を消滅させていた。


「まずい!」


 向かってくる光線がサクラザカの体を貫く。


「くっ!」


 すぐにサクラザカは横に避ける。


 しかし……避けた先にも光線が向かっていた。


――完全に……読まれている――


 サクラザカは氷の剣を振るい、いくらか光線をかき消しながら進む。それでも、消しきれない光線がサクラザカの体を貫く。


「まだ!」


「……もう少し……潔くなれないものか。もう勝負はついている。この魔素吸収レベルの差。いくらお前が吸血鬼で、氷結晶の武器を持っていたとしても、圧倒的に実力が違いすぎる」


 グロウブは眉間にしわを寄せる。


「……しかし、本当に愚かだ。そこまで図々しく、誰かを殺すことに命をかけるなど……」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「お兄ちゃん!」


 とある少年のところに少女がやってくる。


「どうした?」


「私ね。今度、有名なカフェでね。働けることになったんだよ。すごいでしょ」


「そうだったのか」


 彼らは幼い頃に両親を失っていた。


 それでも、兄は一人で妹の面倒を見て、生計を立ててきた。そんな生活に兄は疲れなど感じず、むしろ幸せだった。


 すると、ある時、妹が自分も働くと言った。妹のことが心配だった兄は、その提案に初めの頃は反対していた。


 しかし、自分が妹を縛りすぎているのではないか。兄にはそんな気持ちが芽生え始めていた。


 結果的にこうやって、妹が働くのを許した。そのおかげか、だんだんと生活は豊かになっていった。


 兄も妹もすごく嬉しかった。兄も妹が働き始めたのは良いことだったと考えた。


 そう。あの日までは……。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 その後、妹は職場で知り合った男性と付き合い始めた。やがて、結婚するという話を兄は聞いた。


 今まで幼かった妹がそんなことをするなど、兄は思いもしなかった。


「……おめでとう。幸せになれよ」


「ありがとう! お兄ちゃん」


 心の底から嬉しかった。


 兄は一人で育ててきた妹が、立派に成長していたと感じた。


「……あれ」


 気づくと彼は涙を流していた。止めようにも、流れる川のようにその涙は止まらなかった。


 そして……妹は家を出ていった。


「…………」


 兄は数ヶ月間、一人で家にいた。


「……会いたい……なあ」


 寂しさに耐えきれなくなったのか、兄は家を出て、妹のもとへ向かった。


「……?」


 妹が住む家に向かうと、まだ夕方だというのに妙に静かだった。


 試しに門の扉を叩いてみるも、返事がない。


「……どうしたんだ?」


 少し気が引けたが、兄は無断で家に入った。


 そこには……。


「……!」


 血まみれで地面に倒れる妹の旦那がいた。


「……おい! どうした! 何が……」


 兄は彼に触れると……その体が冷たいことに気づく。


「……死んでいる」


 兄は恐怖した。もしや、妹ももう……。


「っ!」


 歯を食い縛り、兄はすぐに家の中に入っていった。その直後……。


 ブシュっ!


「……っ!」


 何かに首を引っ掛かれた。血が溢れるのを感じた。


 そして、目の前には首に傷を負わせた張本人がいた。暗くてよく見えなかったが……飢えた獣のような目付きでこちらを見つめているのがわかった。


「……やるしか……ない」


 日頃からゴロツキに襲われた時のために、携えているナイフを手に持つ。


「うおおおおおおお!」


 そして、その戦いは次の日の朝まで続いた。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「…………」


 兄は自分が不思議な力を使っていることに気づいた。


 自分から一定の距離の物体が、地面から離れると、その物体は宙に浮いていくのだ。


 それが彼の特殊能力だった。


 また、自分に魔法の才能があることも、この時知った。


 しかし、それらは今の彼にとって()()()()()()ことだった。


 彼は家の中で謎の生き物との戦いに勝利した。首にナイフを刺し込み、半分ほどねじ切ったことが勝利へ導いた。


 その謎の生き物というのは、背中に翼が生え、そして異様に鋭い牙というのを持っていた。


 その他はほとんど普通の人となんら変わりが無かった。


 そう……普通の人と……。


「……なんで」


 その謎の生き物は、妹だった。


「……あ」


 その妹というのも、一人ではなかった。妹の腹は大きく膨れていた。


「……あああああああああ」


 わからなかった。


 何もかもがわからなくなった。


 彼は必死に妹の体を抱き寄せた。


「……っ!?」


 不意に、後ろに気配を感じた。家の外からとある女が彼をじっと見つめていることに気づいた。


 その女は笑みを浮かべながら、彼に語りかける。


「……うふふ。可愛い坊や。……あなた、とても不憫ね」


 その女は桃色の髪を持ち、今の妹同様、鋭い牙を持っていた。


「自分の妹を殺してしまうなんて……」


「……何が……不憫だよ」


「……?」


 直感で、彼はその女が妹をこんな姿に変えたのだと理解した。


「お前のせいだろ! お前が妹をこんな……」


「尊い犠牲よ。私だって食事をしなければ死ぬ。そのための……ね」


「……何が……尊い犠牲だ」


 兄は堪えきれずに、すべてのものをぶちまける。


「なんでだよ! なんで、今まで苦しい思いをして、あともう少しで幸せになれそうだった人間を殺すんだよ! もう少し殺す人間は選べなかったのかよ! その辺のどうでもいいゴロツキとかさあ! なんで……なんで妹なんだよ! 頼むから、今からその辺の人間を殺しまくって、妹をよみがえらせてくれよ! なあ!」


「……殺す人を……選ぶ?」


 女はその言葉を聞くと、突然顔が青ざめる。


「私は……私は!」


 そして、その場から去ってしまった。


「……待てよ。まだ……話は終わってないじゃないか!」


 女が消えたその家の扉から、日の光が差し込む。それが……妹の体に照らされる。


 すると……たちまち、その体は砂に変わっていった。


「ああ……あああああああああ!」


 妹の体を抱こうとするが、もう全体が砂に変わってしまい、妹はその場から消滅した。


「……なんで」


 兄はその場で一人座り込み……この世界を呪った。


「なんで……なんだよ」

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