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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第14話 醜さ

「……これは……」


 突然、サクラザカのところにやってくる弾丸が止んだ。


「……ジェナちゃんとコハルが足止めをしてくれている。ならば……」


 サクラザカは宙に浮かぶカゲロウを見て、受けている攻撃の発生源を確認する。


「……行こう」


 すぐさま、氷の剣を片手に持ち、走り出す。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「ああ……なんて醜い子」


 生まれた時……母親から言われた最初の言葉はそれだった。


 その時、私はすごく悲しかったのを覚えている。しかしまあ、目が鋭く、白い翼の生えた赤ん坊が生まれれば無理もないのだろう。


 ……両親はいたって普通の人間だった。しかし、私は彼らの亜人である部分を色濃く受け継いでしまった。


 タカの亜人である私は……彼らからすると醜かった。


 そんな醜い子だったため、私は生まれてすぐに道に捨てられた。


 やがて、時が経ち、わずか八歳でフレインタリアでは有名な盗人になっていた。道の屋台で金を払う人間から財布を奪い取るのが得意だった。


 その頃から私は特殊能力が開花していた。財布のようなものの摩擦を無くし、相手から奪っていたのだ。


 そんな中……ある日、多くの財布を盗み、アジトに帰ろうとした時のことだった。


「……よお。ずいぶん儲けているじゃないか」


「…………」


 突然、見知らぬ男から声をかけられた。彼は聖人のような笑顔を持っていた。


「その能力を生かして、もっと面白いことをしないか? ……ちょうど財団っていう組織を作ろうと思っていてな」


 その出会いが私の運命を変えた。


 人の物を盗むことでしか生きていけなかった醜い私に……本来幸せになるべき人間を救う場所を与えてくれた。


 やっと……やっと私は……綺麗な存在になれるのだった。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……ああ」


 グレーは腹の傷を押さえ、回復魔法をかける。しかし、流れる血は止まらない。


「グレーさん。先ほど斬りつけた時に、あなたの体に紫の魔素で作った結晶を埋め込んでおきました。だから……あなたの傷が治ることはない」


 コハルがそう言うと、彼はブツブツ何かを言っていた。コハルが注意深くそれを聞いてみると……。


「……まだ……綺麗になりきれてないんだ。……私は……醜いままなんだ……だから……」


「……何を……」


「……自分を……犠牲にしてでも、任務は遂行する!」


 瞬間。


 グレーは自分の後方に橙色の魔石を投げる。


 バギュンっ!


 そして……その魔石をグレーの撃ち込んだ銃弾が貫く。


「……それが私の……使命だから」


 グレーは自らの背中から白い翼を大きく広げ、その翼を赤く染める。


 やっと、何をしようとしたのか理解できたコハルは、後ろに叫ぶ。


「ジェナ! さがって!!」


「……えっ……」


 刹那。


 グレーの背中の羽が四方八方に弾け飛んだ。


 ズシャっ!


「うぐっ」


 コハルは羽に斬りつけられて声を漏らす。


 その羽を捉えることは難しく、コハルやジェナの体を次々と斬りつけていった。


「まだ……まだ!」


「……コハル……ちゃん?」


 コハルはジェナの前に立ち、ナイフを振るう。そのナイフはいくつか羽を弾くが、弾ききれないものはさらにコハルの体を傷つける。


「コハルちゃん!」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 …………。


 …………あ。


「…………ここ……は」


 私は……気がつくと路上に倒れていた。背中の翼はずたぼろに崩れ、もう使い物にならなくなっていた。


 とはいえ、その翼が盾となり、自分自身の体を守った。結果的に命が助かったのだ。


 爆破を受けた時に、腹に埋め込まれた魔素の結晶も外に飛び出していた。


「……ジェナ……たちは」


「コハルちゃん! コハルちゃん!」


「……っ!」


 目の前には、意識を失った少女と、それを抱えるジェナがいた。どうやら、その少女がジェナに向かっていく羽を防いでいたらしい。


 だが、不幸にも、私は生き残ってしまった。少女の守った意味は無く、虚しくここで二人とも私に殺されるのが最後だった……というわけだ。


「…………」


 私は何も喋らずに、再度片手に拳銃を握りしめる。翼を失った今、残された武器はこれしか無かった。


 しかし、目の前の少女たちを殺すには、それで十分だった。


「……悪く思うなよ。ジェナ」


「…………ゆる……さない」


「…………?」


 異様だった。ジェナから感じられるのは絶望でも悲嘆でもなかった。


 その少女は依然として無表情だった。ただ、その瞳には……何か狂気めいたものが……。


「……私の……大切な友達に……」


 そして、そんな瞳で私を見つめてくる。


 鳥肌が立った。嫌な汗をかいた。


 その瞳をどこかで見たような気がしたからだ。


――グレー。私は、自分の仲間に手を出したやつにうまく怒りを表現できない――


「……手を出したやつは」


――ただできるのは、相手に対して殺意を放つことと……――


「……絶対に」


――相手を殺した後に、虚しさを感じることだけだった――


「……地の果てまで追いかけて、殺してやる!」


 信じられなかった。


「……団長」


 その時の彼女の表情は……敵に対する団長の表情とまったく同じものだった。


「うっ……」


 私は……恐怖を通り越して、胃の中のものが溢れ出そうになった。


 それを堪え、再度状況を確認する。やはりその瞳は……敵意を表した団長にそっくりだった。


「……どういう……ことだ」


 ジェナは抱えていた少女を地面に寝かせる。その途中も……私をずっと見つめていた。


 狼のように殺気をあらわにしたその少女の姿が……目に焼きついて仕方がなかった。

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