第11話 弾け散る光
「あがっ……」
「サクラザカさん!」
彼の右足と腹に一つずつ弾丸を受けていた。
「大丈夫ですか!?」
「……ええ。先程、指を噛んだ時に、少し血を飲み込んでいたので、多少の攻撃はなんとかなります。ですがおそらくもう一人敵がいるのだろう。『浮かせる能力』とは別の能力を持った人間が……」
サクラザカは傷の形から、これが遠距離からの攻撃ではないことを理解していた。しかし、近くから撃ったとしても、その撃った場所がわからなかった。
近くにはサクラザカたち以外誰もいないからだ。
「…………これは!」
その時、地面に不可解なことが起きていた。
シュルルルルっ
数発の弾丸が地面を滑りながら近づいてきているのだ。
「ジェナちゃん! 僕から離れてください!」
弾丸の向かう方向から、それは確実にサクラザカを捉えていた。おそらく、さっきの攻撃で位置を特定されているのだろう。
「……くっ!」
サクラザカは向かってくる弾丸を避ける。
だが……。
ドシュンっ
「……っ!」
その弾丸は突然サクラザカの方向に向きを変えた。それはサクラザカの左手を貫いていく。
「……なんだ……これは……」
それは奇妙なことだった。弾丸はおそらく物体操作魔法で動かしている。
だが、その魔法を使うにしても、正確に敵を捉えていた。捉えすぎていた。
「……あり得ない。物体操作魔法は必要な魔素吸収レベルが相当高い。だから、数発も弾丸を飛ばすなんてできないはずだ」
敵はそれほど魔素吸収レベルが高いのか?
いや、その可能性は限りなくゼロに近い。
「……何か……能力でコストを低くしている?」
思えば、サクラザカは奇妙に感じていた。いくらなんでも、弾丸が簡単に体を貫いていた。
「……そこに秘密があるのか」
シュルルルルっ
再び弾丸がサクラザカに近づいていた。
――……滑っている?――
サクラザカはそこに疑問を持った。
――まさか! そういうことか!――
サクラザカは左手に噛みつき、血を吸い始める。
キュイイーン
黒い髪が灰色へ変化していく。
氷の剣を取り出し、かまえる。そして、剣を白く発光させる。
「はああっ!」
剣は白い軌跡を描きながら、地面の弾丸を弾き飛ばす。弾き飛ばされた弾丸は地面を削った。
その剣の素材も『氷結晶』でできており、弾丸にかかっていた能力を打ち消した。
それが敵の能力の答えだった。
「ジェナちゃん! コハル! もう一人の敵の能力は『摩擦を操る能力』です! それを使って物体操作魔法の威力が弱くても、うまく操作できるようにしているんだ」
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ピッ
グレーはタクトへかけていた携帯を切る。
「さて……」
持っていた拳銃に弾丸を入れる。そして銃口を地面に向ける。
ダアンっ! ダアンっ! ダアンっ!
撃ち込まれた弾丸は地面を滑り、複雑な路地に入り込んでいく。
「……まったく団長は面倒な命令を下すよ。ユニギリムの演説だって、わざわざ私の能力を使って射殺するなんて……。まあ、その用心深さが団長の魅力なのですが……」
そして、携帯をかける。
「グロウブ」
『どうした?』
「これから私の弾丸が奴らに向かう。それがそいつらを地面から離すように誘う。空に浮かんだ奴らを殺せるか?」
『ああ。任せろ』
ピッ
「さあ……」
再び銃に弾丸を入れる。
「始めようか」
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カゲロウは空中に浮かびながら、周りを確認する。そして、光の玉を大量に発生させる。
「おらあ! 俺はここだ! いくらでも攻撃しやがれ!」
すると、ある一点から光が発生した。
「さて……来やがったな」
そこから大量の光線がこちらに向かってくる。カゲロウはシールドを発生させ、それらを防ぐ。
「うおおおおお!」
シールドと接触した光線は光の破片となり、弾ける。だが、カゲロウのシールドも崩れてきた。
「おりゃ!」
カゲロウはもう一枚シールドを発生させ、赤く発光させる。
「爺さんゆずりのものだ! どっちが上か、比べてみるか?」
光線がシールドにぶつかり、弾け飛ぶ。攻撃はぎりぎり耐えられている。
「でも……こりゃあ魔素探知使ってたら完全にばれちまうな」
激しい光の破片は空を彩っていく。幸い、まだ昼のため、そこまで目立ってはいないが……。
「…………っ!」
その瞬間。
一つの弾丸がこちらに向かってきた。
「……くそっ!」
カゲロウはさらにシールドを展開させる。だが……。
バリバリっ!
「まさか、あの……!」
それはタクトの『移動させる能力』だった。それは完全にシールドを粉砕していった。
「……くっ!」
間一髪で弾丸を避ける。
「……3対1ってことか? ずいぶんハードじゃねえかよ!」
大量の光線と、タクトとメルメルの狙撃の両方を避け続けなければいけなかった。
「いいぜ! 避けきってやるぜ。その間に頼む。サクラザカ!」
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「次だ! メルメル」
「……りょー……」
メルメルは避けたカゲロウをスコープで追いかける。
「……かい!」
ダアンっ!
飛んでいく弾丸は流星のように空を進んでいく。
だが、カゲロウは橙色の魔石を使い、爆風で避ける。
「……むうう……なかなか……手強い……」
メルメルは瞳を鋭くする。
「……でも……」
ダアンっ!
その弾丸はカゲロウの右腕に命中し、弾き飛ばした。




