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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第10話 絶望の始まり

 サクラザカたちは翌日、フレインタリアの南地区に向かっていた。


「カゲロウ。これを見てください」


「……こいつは……」


 そこには一部欠けている街灯があった。それは首なしの鎧が自らの体を強化する時に、起きた現象に近かった。


「あの鎧がここを通ったのでしょう。ひとまず、この周囲を探してみるべきです」


「……そうだな」


 その地区は路地が入り組んでいて、複雑な作りをしていた。そのため、いつどこから財団や帝国の人間が近づいてきてもおかしくない。


「……気を引き締めて行きましょうか」


「ああ」


 サクラザカたちは皆、あらかじめ魔素探知を発動させる。


 ある程度歩き、道路に出た時だった。


「…………なんだ? これ」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「メルメル、その銃の調子はどうだ?」


「……うん……使えそう……」


 そこは高い建物の屋上だった。フレインタリアの多くの建物に帝国騎士団の偵察隊がいる。


 タクトは気絶させた偵察隊から狙撃銃を取り上げ、それをメルメルに持たせた。


「さて……」


 タクトとメルメルは街を見下ろす。そして、携帯を使い、連絡を取る。


「……おい。グレー」


『どうした? まだ命令は出していないぞ?』


「もちろん、直接は戦わねえよ。だが、さすがにグロウブの能力に対して、サポートするぐらいはできるだろ? 任せっきりは俺のプライドが許さねえしな」


『……わかった』


 ブツっ


「……メルメル。浮かび上がったサクラザカたちを狙撃するぞ」


「……りょー……かい……」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「なんなんだよ!?」


 そこには空に浮かんだ街の住民たちがいた。


「早く助けねえと!」


 その時、後ろの欠けた街灯から崩れた破片が、空に向かっていった。その光景をサクラザカは目撃していた。


「待ってください。カゲロウ!」


 その言葉を聞く前にカゲロウは地面を蹴り、飛び跳ねた。


 瞬間。


「え?」


 カゲロウは自分の体が空に引っ張られるのを感じた。その現象にカゲロウは驚きを隠せなかった。


「うおおおおお!」


 サクラザカはすばやく、カゲロウの手をつかむ。


 ドスンッ!


「ぐへっ!」


 つかんだと同時にカゲロウは再び地面に落ちてきた。


「なんだってんだ? これは……」


 サクラザカは自分の左手の指を噛みちぎる。そして、そこから流れる血を見せた。


 その血は手から離れると同時に、空に向かっていった。いや……空に落ちているという方が正しいだろう。


「おそらく敵の特殊能力でしょう。地面から離れたものの重力を逆向きにし、空高くまで連れていく能力。いわば、『浮かせる能力』といったところでしょうか……。あえて、一定の高さで浮かせているのは、僕らを狙いやすくするためです」


 サクラザカの瞳は状況の厳しさを捉えていた。


「つまり……僕らが、うっかり地面を離れた時点で敗北が決定するということ……」


「……やばすぎだろ。それ……」


「なかなか広範囲で強力な能力ですね」


 それを聞くと圧倒的にこちらが不利であった。状況は絶望的である。


「ひとまず、ここを離れましょう。それから、対策を練ればいい」


 サクラザカの言ったことは確かに合理的であった。


 だが……。


「悪いが、それはできない」


「…………え?」


 その言葉が、サクラザカには理解ができなかった。だが、すぐにカゲロウは理由を説明をする。


「ここを離れて、浮かんでいる街の人々が無事である保障は無い。もしかしたら、敵が非人道的なやつで簡単に殺すかもしれない。もちろん、殺さないかもしれない。だが、どちらにしても、俺がそいつらを助けない理由にはならない。だから、俺は今、ここで戦う」


「ですが、それは無謀だ」


「いいや違う。……俺には考えがある」


 その時、カゲロウは突然地面を跳ねた。


「カゲロウ!」


「この中で一番遠距離から対応ができるのは俺だ。だから、俺がおとりになって攻撃を受ける。どんな攻撃も、使ったやつの場所は予想しやすい。お前らは攻撃のある方向に向かえ!」


 カゲロウはそう言い放つと、空高くへ飛んでいった。


「……カゲロウ」


 サクラザカにとって、街の住民など眼中に無かった。だが、カゲロウはすべての人間を助けようとしていた。


 それはかつてサクラザカが捨てた思いだった。


「……あなたはすごい人です」


 そして、サクラザカは走り出す。


「ジェナちゃん。コハル。行きましょう。敵を一刻も早く叩き潰すために……」


「……わかりました!」


 二人も後に続いた。


 しかし!


「…………っ! ジェナちゃん!」


「……え?」


 サクラザカはジェナの体を押し飛ばす。


 ドシュンっ!


「……サクラザカさん?」


 二発の弾丸がサクラザカの体を貫いた。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……おっ。出てきたぜ」


 タクトが屋上から双眼鏡を使って眺めていると、遠くにカゲロウの姿が見えた。


 メルメルはスコープを覗く。だが、表情が険しくなる。


「どうした?」


「……射程……足りない……」


「……そうか」


 タクトには予想がついていた。街に大量にいる偵察隊が、わざわざ射程の長い銃を使うよりも、他の連中に連絡した方が早い。


 そのため、射程の短い銃を使っているのだ。


「だが……」


 それでも、タクトには考えがあった。


「……兄さん?」


 タクトの大きな手がメルメルの小さな手を支える。


「俺が能力で弾丸の軌道を作る。俺の能力で作った直線の軌道は、お前の能力以外で変えることなんかできねえ」


「うん……。それ……絶対……」


「だから、弾丸は絶対に直線にしか進まない。当てられるか?」


「……楽勝……」


 メルメルは銃の引き金に指を触れる。タクトはメルメルを信じていた。


「0から1に変えるっていう基礎的な仕事は俺の役目だ」


「…………?」


「だが、1から無限に変えるのはお前の仕事だ! メルメル!」


「……りょーかい……」


 ダアンっ!


 弾丸はカゲロウの方へ向かった。

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