第3話 それでも、まっすぐ生きる
「……どうしたあ? サクラザカよお。団長から逃げれた実力を見せてくれよ」
瓦礫の中から、サクラザカは出てくる。そして、左手に噛みつく。
「……なるほど……その能力は……」
サクラザカはタクトの様子を伺い、かまえている。
「おいおい……」
ゴキッゴキッ。
タクトは首を鳴らし、サクラザカを目で捉える。
「来ないならこっちから行くぜ」
瞬間。
サクラザカの目の前にタクトが現れた。
「くっ!」
ふりかかる拳をサクラザカは避ける。そして、地面を蹴り、後ろにさがる。
だが…………。
「おせえなあ! そんなんじゃあすぐに追いつくぜ!」
その言葉の通り、タクトはサクラザカの近くに移動してくる。拳もサクラザカの顔面に近づいていた。
「死ねええ! サクラザカああああああああ!」
パシンッ
「…………あ?」
タクトの拳はサクラザカの顔に当たっていなかった。しかし、確かにその手には何かに触れた感触があった。
「……これは……」
そこには小さなお皿のようなシールドがあった。
サクラザカはタクトを瞳で捉えながら言う。
「……あなたの能力は『物体を移動させる能力』だ。物体を直線上に移動することができる能力。だが、それはあなたが触れることで発動する。触れるのが重要なんだ」
シールドはサクラザカの後ろに吹っ飛んでいく。
「なっ!」
「そして、あなたの能力は同時に一つの物しか物体を移動させることができない。だから、すでにシールドに能力を使ったあなたは、これから僕の拳を移動させ防ぐこともできない!」
ブギヂッ
タクトの顔面がサクラザカによって殴られる。その衝撃で、タクトは遠くに吹っ飛んでいった。
「うぐっ……」
あまりの損傷にサクラザカはその場に座り込む。
「サクラザカ!」
そこにカゲロウがかけつけた。
「……カゲロウ」
「やったのか? あの男を」
「いいえ。手応えはありましたが、おそらくわずかに能力を発動させていたのでしょう。死んではいません」
サクラザカは周りを確認する。そして、左手を噛み、傷を治す。
「ひとまず、ここは離れましょう。今の状態で戦うのはあまり良くはありません。すぐに食料を調達し、宿に戻るべきです」
カゲロウもあの少女との戦闘でこれ以上戦う力は残っていなかった。
「……わかった。すぐに戻ろう」
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「……タクト兄さん……」
「ああ? どうした?」
瓦礫に埋もれたタクトは問いかける。その問いに少女は小さな声で返答する。
「ごめんなさい……敵……逃がしちゃった」
「なに落ち込んでんだよ」
青年は立ち上がり、口元に笑みを浮かべる。
「むしろこっからだぜ。気い抜くなよ。メルメル」
「……うん」
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サクラザカさんとカゲロウさんを宿で待っている時のことだった。
「ジェナはどうしてサクラザカさんに着いていこうとしたのですか?」
「え?」
唐突にコハルちゃんが私に話しかけてくる。正直、これまでこんなことはあまり無かったので、驚いている。
「どうしてですか?」
「えっと……」
私は……なぜサクラザカさんに着いていこうとしたのか。それは簡単な答えだった。
「信念を見つけたいから……というのもあるんだけど……」
…………あるのだが……。
「……やっぱり、サクラザカさんともっとお話したいっていうのが大きいかな……」
「そうなんですか。ジェナは正直者ですね」
「へ?」
「つまり……いや、これはそのうち自分で気づくでしょうね。とにかく、その心を忘れないでください」
「……?」
コハルちゃんは一本のリボンを持って、私の方にやってくる。
「え? ちょっと」
「少し失礼しますね」
その少女は私の後ろにそのリボンをつける。さらに少し髪を整えてくれた。そして、鏡でその様子を見せる。
「……たぶんこれでどうですかね?」
「……へ?」
言葉の通り、これまでの私とは違い、その髪に明るさが感じられた。
「……ありがとう。コハルちゃん。それにしても、上手いね。髪を整えるの……」
「…………昔、姉によくやらされただけですよ……」
「……?」
その表情は少し笑みを持ちながら、なんだか悲しい表情をしていた。
だが、確かコハルちゃんはサクラザカさんの『理想』に魂が宿った者であるはず……。
姉がいるはずが無かった。
「それってどういう……?」
ガタッ
その時、出口の方から扉が開く音がした。
「……どうやら、帰って来たみたいですね」
「あ……うん」
私たちはサクラザカさんたちのもとに向かった。
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「ふうっ……」
俺はジェナとコハルが無事なことを確認すると、奥の部屋へ行き、ソファに寝転がる。
「おやおや、ずいぶん大変なことがあったんですね」
「ああ?」
その憎たらしい笑顔を向けながら、そいつは俺に話しかける。
「まあな。少なくともお前よりは働いたかな……」
「……まあ、今回は素直に誉めておきますよ。よく頑張りましたね」
そう言ってコーヒーを出してきた。
「……けっ。なんで今日はちゃんと話してくれるんだ?」
「フフっ。ただボクもお礼をしたいんですよ。サクラザカさんが死ぬとボクが困るので……」
「……そういうものか?」
俺は体を持ち上げ、そのコーヒーを飲む。
コハルも俺の横に座り、同じようにコーヒーを飲む。
「……結構苦いな……。これ、砂糖どんぐらい入れた?」
「入れてませんよ。ブラックです」
「……そうか……」
サクラザカには飲めなさそうだな。これ……。
「では、ボクは飲み終わったので、先に失礼しますね。そろそろジェナとお風呂に入らなければいけないので……」
「そうか……」
コハルが部屋を出ていった。
再び、一人になったソファで俺は寝そべる。すると、飲んでいたカップの裏に紙が貼ってあった。
「……『リボンを買うために少しお金をもらいました。byコハル』……あの野郎……」
勝手に金持っていきやがって……。
すると、奥の部屋から声が聞こえた。
「あの。サクラザカさん。これ……似合ってますかね」
「……リボンをつけたんですか。ええ。似合ってますよ」
そんな声を聞きながら、俺は目を閉じる。
「……まあ、いっか……」




