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異世界の執行人  作者: Kyou
第3章 最強は叫ぶ
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第9話 死神の光が照らす

「……クククッ」


 男は不適な笑みを浮かべ少女に近づく。


「まったく……こんな娘を殺してはいけないなんて、あいつは本当にお人好しだな……。さて……」


 ベガを脇に抱え、部屋を出ようとする。だが、何か感じたのか、倒れている少年の方を見つめる。


「……念のため、頭を破壊しておくか……。我の『相手を即死させる能力』は絶対だが、念のためだ……。後で生きていたなんて言ったら洒落にならないからな」


 男は少女を床におろし、少年に近づく。そして、拳を上げ、赤く発光させる。


「悪く思うなよ。少年」


 拳を頭に振りかざす。


 ガキンッ!


「…………なっ!」


 その時、少年の首が横に動き、拳は右肩の上の地面を直撃した。


「クククッ。そっちこそ悪く思うなよ。くそ野郎」


 肩から黒い光が発生し、辺りを包む。


「なんだ。これは! 魔法が発動できないだと!」


「ここは俺の世界だ!」


 ドグシュッ!


 アルタイルの拳が男の顔面を直撃する。


「ぐあっ!」


 男はアルタイルから離れた位置まで吹っ飛び倒れる。


「クククッ。てめえの能力は……どうやら心臓を麻痺させることで、相手を殺すらしいなあ……。だがよお、あいにくだが、俺の心臓はとっくに手動で動かしてるから、麻痺されても変わんねえんだよ」


 アルタイルの心臓は黒い魔素で動かしている。つまり、それは無意識に自動で心臓が動いているのではなく、アルタイルが意識的に心臓を動かしているのである。


「……なんだと……」


「自慢の即死能力が効かなくて残念だったな」


 男が立ち上がる。


「この我の能力が効かなかったのは初めてだ。お前は我の実力で殺すとしよう……」


「へえ。お前に実力があるのか……。ならば見せてもらおうじゃねえか……」


「……我が名はハドリアヌス。かつて、ユニギリムという国を治めた王よ!」


「……ああ? ユニギリムだあ?」


 瞬間。


 男が足に身体強化をかけ、一気に近づいてきた。


「ちっ」


 アルタイルは『アマノガワ』を使い、身体強化を打ち消す。だが……。


「もう遅い! お前に近づければいいんだからな!」


「ごはあっ!」


 アルタイルの腹に男の拳が炸裂する。そして、彼は飛ばされるが、その先に身体強化をし回り込んだ男がいた。


「くそっ!」


 アルタイルは再び殴り飛ばされる。


「かつては……ユニギリムで何千、何万もの民に慕われていた。だが、敵国の侵略で国は滅んだ。そのせいで、我は民も、土地も、友人も、家族も失った。我はやつらを絶対に許しはしない。いつかはこの遺跡も出て、新たに国を作り、復讐してやるのだ」


 男の拳は想像を絶するほどの痛みだった。きっと彼は身体強化に頼らず、日々鍛練にはげんでいるのだろう。


「そして、今の皇帝は我の国を滅ぼした敵国の王の子孫だ! まずは手始めに帝国を滅ぼす」


 アルタイルは顔面を思いっきり殴られる。遺跡の石柱にぶつかり、座り込む。


「さらに言うと……お前に重要なことを教えてやろう……」


 男はベガを指さしながら、言う。


「あの娘は! 今の皇帝の娘だ!」


「……あ?」


 それはアルタイルにはまったく予想ができない言葉だった。


 様々なことがアルタイルの頭の中を飛び交う。だが、そんなことよりも意識が朦朧としていることの方が重要だった。


 アルタイルにとって意識を失うことは、心臓を動かすことができなくなる。つまり、死を意味していた。


 そんな中、男は話し出す。


「この娘を殺して、皇帝に見せつけるというのは良いものだな。くはははっ! まさか、都合よくこんなところに手頃なやつがいるなんてな」


――……殺……す……?――


「人質にして、帝国を脅すのも良いかもしれんな! ははははっ!」


――……人……質……?――


「とにかく! この娘は絶対に我らが所持し」


「……ふざ……けんな」


 アルタイルは柱から立ち上がる。


 ゆらゆらと揺れるその体に男は言葉を放つ。


「そんな体でどうやって我に戦うというのだ? もう無理に決まっているだろう」


「……うる……せえよ」


 アルタイルは男の方に歩き始める。


 男はそんなアルタイルに向かって走り出す。


「くはははっ。死ぬがいい!」


 拳がアルタイルに向かう。


「……なに!」


 アルタイルはそれを避け、その腕はアルタイルの右肩の上に向かう。


 ガシッ!


 『アマノガワ』が男の腕をアルタイルの肩に固定する。


「帝国……? 復讐……? そんなくだらねえことに何も知らないガキを巻き込んでんじゃねえよ。あいつの都合も考えないで、糞みたいな事情に振り回してんじゃねえよ」


 バゴンっ!


「ぶあっはあっ!」


 アルタイルが男の腹を殴る。だが、固定されているため、男はそのままの位置にいる。


「何千? 何万? ……それだけの民がいて、なんでてめえはこんなところでみすぼらしいことしてんだよ!」


「ぐへあっ!」


 ドゴンっ!


 また一発、アルタイルの拳が叩き込まれる。そして、固定が解かれる。


「てめえ自身が権威にそぐわないことをして、民に申し訳ねえって思わねえのかよ!」


 アルタイルは再度拳を握りしめる。


「てめえがユニギリムの王なら、最後まで! 国が滅んでからも! ユニギリムの王として、自慢できるような存在でいろよ!」


 男の顔面に硬い拳がぶち当たる。男は遺跡の壁に叩きつけられる。


「ぐっ……はっ……」


「……それができねえなら……もう……王なんてやめちまえよ……」


 アルタイルの体はもう限界を迎えていた。


 そのため、アルタイルはその場に倒れる。だんだんと意識が無くなっていく。


――ああ。俺はここで死ぬのか……。偉そうなこと言っといて、俺は自分のすることを何もできてねえじゃねえか――


 そして、少年は目を閉じる。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「アルタイル! アルタイル!」


 声が……聞こえる……。


「アルタイル! しっかりして!」


「……ピン……ク頭か……」


 目を覚ますと、心臓が治っていた。


「……お前が治してくれたのか。ありがとうな。ベガ」


「…………」


「ああ? どうした?」


 ベガは黙り込んでいる。もしかして、怒っているのだろうか。


 すると、突然ベガが笑い出す。


「あはははっ。あはははははっ」


「何がおかしいんだ?」


「だって……アルタイルが素直にほめるから……」


「…………あ?」


「それに初めてちゃんと名前で呼んでくれたし……嬉しかったんだよ」


「…………」


 ……やっぱり……こいつの感覚はわかんねえな……。何が嬉しいんだか……。


「ううっ……」


 近くからうめき声が聞こえる。そこにはあのユニギリムの王がいた。


「……ベガ……ここで待ってろ」


 俺はそいつに近づく。すると、そいつは立ち上がろうとする。


 バタッ!


 だが、うまく立てずに、また座り込む。


「……ふ……ふふふっ。よもや、この我がこんな若者に負けるなんてな……」


「…………てめえ……。他の仲間について話せ。能力さえわかれば、こっちのもんだからな」


 すると、男は口に笑みを浮かべながら、話す。


「他の者は関係ない。すべては我が勝手に娘を連れていき、帝国に復讐しようとしただけなのだ」


「……てめえらは、いったい何者だ? ユニギリム王国は30年ほど前に滅んだはずだ。王のお前はその時死んだと聞いている。だが……なぜ、ここで生きている。お前は……いやお前らはいったい何者だ?」


「……我々は『ゼロズ』……それ以上は下の層にいるやつに聞くが良い」


「……っ! てめえ!」


 男は胸を押さえていた。


「自分に即死能力をかけてやがるのか? 何の真似だ!?」


「ふふふっ。この世界に生きること自体が……我にとって民への裏切りだったのだ。だから……あるべきところに帰るだけなのだ」


 男は自分の髪飾りを取り、俺に向ける。


「……受け取れ、我に勝った褒美だ」


 俺はその青色の髪飾りを手に取る。


「それで……良いのだ。少年。…………ところで、あの魔法を使える英雄はどうしているのだろうか。まあ……歳を考えると、すでに死んでいると考えるのが良いか……」


「てめえ……」


「お前にはその英雄と似た物を感じた。どうか……我とは違う道を進む……が…………よ……い………………」


 男は目を閉じ、安らかに眠った。


 その時のそいつは……ユニギリムの王としての威厳を感じられた。

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