第8話 復活する世界
俺は立ち上がる。その様子に男は驚いていた。
「……お前……人間じゃないのか。いや……だが、感じる魔素の量から亜人では無い……。なのに、なぜ心臓が治っている」
「ああ? 何いってやがんだ?」
ゴキッゴキッ
俺は首を鳴らし、状況を確認する。
「……俺はまぎれもなく人間だ」
右肩が熱くなり、弾けるそうなほどに震える。
「始めるぜ!」
肩から黒い光が発生し、レーザーのように伸びていく。それは昆虫の翼のようだった。
「これは……まずい!」
男は光の槍をこちらに撃つ。
「クククッ。へなちょこだな! そんな攻撃よお!」
黒い光を槍にぶつける。すると、その槍は一瞬で消滅した。
男はその現象に見覚えがあった。
「まさか……黒い魔素……魔素を無力化する魔素を使う人間がいるとはな。これも、お前の『対応する能力』の一部か……」
「……俺だけじゃねえよ。これはアルタイルの分の能力だ。だが、こっからは俺の力を使わせてもらうぜ!」
俺は地面を蹴り、男に近づく。男は拳を赤く発光させ、殴りかかってくる。
だが……。
「クソッ!」
黒い光が赤い光を弾き飛ばす。そして、俺の腕にその黒い光が巻きつく。
だが、その男はまだ諦めていなかった。
「まだだ!」
反対の拳が向かってくる。だが…………。
「なに!」
その拳は俺には当たらず、通り過ぎていく。『小さくなる能力』を使い、命中しづらくしたのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
光が巻きついた拳を男の顔面に叩き込む。
ドグシュッ!
そのまま、男は遺跡の壁に飛ばされ叩きつけられた。
「がはっ!」
男は壁にもたれ、ぐったりしていた。
そいつに俺はとどめを刺そうとする。
だが…………。
「なんだ……これは……」
その男の体が薄く、色が無くなっていく。
「てめえ。何をしてやがるんだ!?」
「ああ…………終わりが来たんだ。我輩にも……」
「……なんだと?」
終わり……と言ったのだろうか……。この男は……。
「我輩は本来3000年も昔に死んでいる存在だ。だが、魂だけがこの遺跡に残った。まだ、戦い足りなかったのだ。それが悔いとして、我輩の中に残っていたのだ」
「……つまり、お前は幽霊ってことか? だから、俺はお前に触れることができなかったのか……?」
男は小さくうなずき、話し続ける。
「幽霊……死んでいるのにこう言うのはおかしいが、いわゆる『はずれた者』として生きていたのだ。だが、お前という名の強敵と戦えたことが……どうやら、私の後悔を消してくれたのだ。私にこの世界に残る意志は無い。これで、やっとあの世で家臣たちに会えるであろう」
「そうか…………」
「だが、最後に私がこの世界に生きた証を残させてくれ」
「……何をするつもりだ?」
「その肩の黒い光に名前をつけさせてくれ」
「……はあ」
大きくため息をつきながらも、男の前に座る。
「なんて名前をつけるんだ?」
「……そうだな。…………『アマノガワ』という名前はどうだ?」
正直、どういう意図があってその名前にしたのかはわからないが、俺にとってその名前はしっくりきた。
「……ああ。わかった。それにしよう」
「ありがとう……。その『アマノガワ』から出る黒い魔素……それを使って一時的に心臓を修復しているのか……」
「そうだ」
「ずいぶんと……器用なやつだ。そこまで精密に魔素を操れるなんて……。お前……名前は何と言う?」
俺は男に向かって言い放つ。
「アルタイル……または、大鷲ナツキ……。好きな方で呼べ」
「……そうか。アルタイル……大鷲ナツキか……。ありがとう。最後に我輩と戦ってくれて……」
そう言い残し、男は消えていった。その場にはあの灰色の髪飾りが落ちていた。
俺はそれを拾い上げ、眺める。
「てめえのことは……忘れねえよ……」
髪飾りを服のポケットに入れ、遺跡の中に入る。
「早くあのピンクを助けに行かねえとな」
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その遺跡の中は様々な石像が壁に付けられていた。その像は、まるで古代のエジプトの文明のようなものを想起させる装飾がされていた。
「なんだ……この文字は……」
今とは違う文体で書かれていたが、それは読める物だった。
俺にはアルタイルとしての記憶があるからか、文字はすらすら読めた。
「……『メディテ王国』……『ネロ王』……『全盛期』……」
どうやら、あの王は本当にメディテ王国を支配していたやつだったらしい。
「……と、こんなことしてる暇はねえな。さっさと、あいつを助けて村に帰らねえと……」
「その必要は無い……。お前はここで殺すのだから……」
「ああ?」
奥の部屋からその男が現れた。そいつも豪華な服装をしていて、頭に青色の髪飾りをしていた。
そして、その脇にはベガが抱えられていた。
「てめえ。そいつを今すぐ放せ!」
「いいだろう。こいつはくれてやる。おらよ!」
そいつはベガをこちらに投げつける。俺は受け止め、安全を確認する。どうやら気絶しているが、無事らしい。
俺はベガを石像の横に寝かせる。そして、男をにらみつける。
「てめえ……。なぜ、攻撃してこなかった」
「そこまでお前を敵として見ていないからだ。我がお前に負けることなど無いからな」
「……よほど自信があるみてえじゃねえか……」
俺はそいつに向かって走り出す。
「今引き返すなら、見逃してやるぞ?」
「悪いが、諦めきれないのが俺でね。お前をここで潰させてもらう」
「無駄だな……。ここでお前は死ぬ。それは決定事項だ」
「な!」
突然、俺はその場に座り込み、胸をおさえる。
「うぐっ……まさか……」
「我はお前ごときに負ける器ではないわ……」
まさか……こいつの能力は……。
そして、俺はその場で倒れる。
「『相手を即死させる能力』……だ。まあ、すでに死んでしまったお前には聞こえもしないがな……」




