第2話 サソリ狩りに行こう
「なるほど。サソリが村の人間を襲ってるねえ。面倒な連中だな」
俺は村からそう離れていない程度の砂漠を歩く。
「……で? なんでついてきてんだ?」
後ろのピンク頭にその言葉を放つ。
「お手伝いが必要かと思って……」
「いらねえよ。それに足手まといになるだろうが……」
「それに、あなたは武器も何も持っていないでしょ? だから、私が持ってきてあげたんだよ……」
「そいつもいらねえよ。俺は俺自身の力で片づける」
村からある程度離れた場所を俺たちは歩く。すると、なにやら奥に動く物が見えた。
「クククッ。どうやらお目当ての奴らがいたようだな」
そいつらは尾に毒針を携えている。どうやら、獲物を待っている様子だった。
「じゃあ少し遊んでくるか!」
「あっ! ちょっと!」
俺は地面の砂を蹴り飛ばし、勢いよくサソリたちの目の前に現れる。
「おらおら! かかってこいよ!」
すると、背後から別の大きなサソリが毒針を向けてくる。
だが……。
バシャッ!
サソリの尾が宙を舞う。
「『硬いものほど壊しやすくなる能力』だ。最初からわかってんだぜ。見せてたやつが囮ってことはよお!」
これはユニギリムとかいう街で会ったクソガキに対応した能力だ。こいつのおかげでサソリの硬い皮膚は壊せるみたいだ。
「んじゃ! さっさと、10体……いや! 100体でもいいから駆ってやるかあ!」
俺は囮だったサソリが向かってくるのに気づく。
「悪いがっ! それがてめえの敗因だぜ!」
突如、サソリの前から俺は姿を消す。そしてサソリの背中に乗っている。
「クククッ。『移動したやつの背後に移動する能力』だ。ひゃはははっ!」
最初にサソリの尾を殴り、弾き飛ばす。そして、胴体の皮膚を剥がしていく。
「ふひひひっ! 苦しいか? なあ! たぶん襲われた連中はもっと苦しかったと思うぜ!」
最後に脚で踏み潰す。サソリの体液が顔にかかる。
周りを見ると、尾を吹っ飛ばしたサソリも含めて、数匹のサソリが囲んでいた。
「クククククッ! ふひひひゃははっ! いいねえ! おもちゃがいっぱい向こうからやってきやがった。いいぜえ。遊んでやるよ。ただし、使い捨てだがなあ! ひゃははっ!」
俺は『軽くする能力』を使い、サソリの死体を持ち上げ、大群に投げる。他のサソリたちは空中に浮く死体に注目する。
「クククッ。やっぱり単純だなあ? ええ? 動く物の方に目がいくなんてよお!」
俺の方に警戒が緩んだサソリの一体の胴体を貫く。そして、そいつのハサミの部分を引きちぎり、別のサソリに刺し込む。
ズシャア!
「これで三体だ!」
サソリたちは俺の動きを警戒してか、向かってこない。だが、俺はハサミを再度引きちぎり、かまえる。
「おいおい! 来ねえのか? ならこっちから行くぜ!」
地面を蹴る。自分の体を軽くしたからか、すぐにサソリの前まで行く。
もちろんサソリも毒針を刺そうとしてくるが、それをハサミで防御し地面にハサミごと突き刺し固定する。
「おらあ!」
サソリの胴体を脚で踏み潰し、やがてサソリは動かなくなる。
「さあて! ここにいるのは残り3匹ってところか……。全部駆って残りも潰しにいってやらあ!」
「もお! 待ってよお!」
「なっ!」
そこにはあのピンク髪がいた。そして、サソリの一体が襲いかかろうとしている。
「来てんじゃねえよ! 馬鹿野郎!」
「えっ?」
まさに毒針がベガに向かおうとしていた。
「くっ!」
俺は能力を使い、サソリの背中に移動する。
バシュッ! ドシュッ!
そして、サソリの尾を弾き飛ばし、頭部を蹴り潰す。
だが……。
ブシュッ!
「うぐっ!」
背後から来るサソリの毒針が俺の腕をえぐる。赤い血が砂に染みつく。
「うおおおお!」
俺はそいつの頭部を殴る。すると、豆腐みたいに頭は弾き飛んだ。
やがて、そいつも動かなくなった。
「はあっ。はあっ。はあっ」
「……アルタイル?」
俺は残りの一体を睨みつける。そのおかげかはわからないが、そいつは砂漠の奥に逃げていった。
そこで俺は膝をつく。血が流れる腕を押さえながら、ベガに言う。
「……てめえ。ふざけてんのか? 弱いくせに危険なことしてんじゃねえよ!」
「…………」
少女は自分のしたことに後悔をしていたようだった。それを見ると俺は説教をする気がなくなった。
「……俺に仲間はいらねえよ。いるのは俺自身の力だけだ。……だから……」
俺は目を閉じて言う。
「もう……俺に関わるな」
「嫌だ!」
「は?」
俺はこいつの言ってることに困惑した。
なに関わろうとしてんだよ。現にお前は俺に迷惑しかかけてねえじゃねえか。
「アルタイル……いなくなる前の日も……同じこと言ってた。……関わるなって。……一緒にいると、ろくなことがないって……」
「…………」
「だから! お願い! 私にもできることをさせて! 一緒に働かせて!」
「お前みたいなやつに何ができるってんだよ!?」
「できるよ! 役に立てるよ!」
そう言うと、ベガは俺の腕をつかむ。
「おい! 何やってんだ!」
「いいから! 見せて!」
ベガは俺の腕に手をかざす。すると、その周りに水色の光と青色の光が舞う。
「何をやってんだ。お前」
「浄化魔法と、回復魔法をかけてるんだよ。毒も無くさないとね……」
俺の腕の傷はたちまち消えていった。
「てめえ。……魔法が使えんのか?」
「うん。昔、ちょっと教わっててね」
俺は小さく舌打ちをする。魔法って物はあまり好きじゃない。
とはいえ、今はそれのおかげで助かったのは事実だ。サソリの毒は人間にあまり効果が無いといっても、あの大きさなら話は別だ。
俺はベガの状態を確かめる。
「……怪我は……してねえのか?」
「うん……」
「……そうか……」
俺は再び歩き出す。
「…………行くぞ」
そう言うとそいつは笑顔になる。
「うん!」
そして、勢いよく返事をする。
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しばらく歩いた時、遠くに砂ぼこりが舞っていた。
「……なんだありゃ」
奥から大量のサソリがやってくる。そいつらは一心不乱に俺の方へ向かってきた。
「まるで軍隊のように統率をとってやがる。さっき逃げたサソリが呼び寄せたのかあ? ずいぶん人間らしい動きをするじゃねえか……」
そう。あまりに人間味がありすぎる。まさか……そういうことか?
俺はベガを隠すように後ろにまわす。サソリの大群は目の前で止まり、こちらを見つめる。
「……なんだ? 攻撃してこねえのか?」
サソリたちは後ろから、なにやら道を空けていく。そこからある人物が歩いてくる。
「……なるほど。どうやら、黒幕ってところかあ? お前は?」
「ええ。そうよ」
そこには黒く長い髪で、腰にサソリの尾のついた女がいた。
「私はサソリの亜人のパメラよ。フフフッ。よくも私の仲間を殺してくれたわね」




