第1話 ここはメディテ村
「んで? 何を話してくれるんだ?」
俺とその女は砂岩で囲まれた密室にいた。
「そうだね。まず君のことを聞こうか」
「俺のことか? 覚えてねえよ。俺は異世界から来たが、あるのはその世界の一般常識くらいで、自分が誰なのかはわからねえ」
俺は口を噛み締めながら言う。
「……だが、その世界に興味はねえ。むしろ、俺はこの世界で最強になることを望んでる」
そして、俺は頬の腫れを指さす。
「そもそも、この傷をつけたやつに負けさえしなければ、今頃は財団や帝国をつぶして、この世界のトップに君臨している」
「へえ。でも、その人に負けたから、こんな砂漠でのたれ死んでたってことね」
「……嫌みか?」
「いいえ。尊敬してるわ。あなたの強さを」
「フッ」
俺は鼻で笑いながら、拳を握りしめる。
「んで? そっちは何を話してくれるんだ? 言っとくが、つまらねえ話だったら、殺すぞ」
「そうね。これもあなたに関わる話なんだけど……」
そう言うと女は一枚の写真を取り出し、俺に見せつける。その写真に俺は驚く。
「これは……!?」
それには明らかに俺が写っていた。だが、その写真の俺はなにやら平和そうな顔をしていた。
「何の……つもりだ……。ドッキリにしてはずいぶん手が込んでるじゃねえか……」
「それはこの村にいた子よ。もっとも、数日前に行方不明になってしまったのだけれど」
こいつが……この村に……。
「その子は消える前は何日も頭痛を訴えていたわ。なにか良くないことが起こるとも言っていた」
「…………で、そんなことか? まあ、そっくりさんなら何の問題も無いわな……」
唐突に俺は気を失う前のことを思い出す。
「……俺を助けたのはあのピンク野郎か?」
「ええ。そうよ。よくわかったわね」
やっぱりそうだったのか。意識が無くなる前に聞いた声はあいつの声だった。
俺は出口に向かう。
「待って! まだ話があるの……」
「ああ? 言っとくが、俺は暇じゃあねえ。要件なら手短に話せ」
すると、女は話しだす。
「できれば、あなたのことは記憶喪失ってことにしてくれる? あなたが外部の人間だって知られるとまずいことがあるの……」
「なんでだ……?」
「…………」
その女は黙っていた。けっ……。話したい時は話して、話したくない時は話さないってか……。
虫酸が走る。そういう身勝手な行動は……。
「……わかった。仕方ねえから言うこと聞いてやるよ。俺もこの村から追い出されたら、今度こそ死ぬからな……」
そうして、俺はその部屋から出ていく。だが……扉を閉める前にあることを聞いた。
「……お前……。目が見えねえのか……」
「……ええ、そうよ。昔、ちょっとやんちゃしててね……」
女は微笑みながら答える。その時の女の表情は少し悲しさを含んでいたようにも見えた。
「……そうか」
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俺はそこを出た後、村を歩いた。そこはわりと栄えた村だった。
立てられた看板を眺める。
「……メディテ村ねえ。聞いたことねえ村だな。まあ、当たり前か……。ここは異世界だからな」
俺は自分に対して呆れる。
「……あ?」
ふと、今の俺自身の行動が不思議だった。
「……なんで……看板の字が……」
「あーるたーいるー!!」
突然、視界を手で覆い隠される。俺は無言でその手を弾き飛ばす。
そこにはあのピンク頭がいた。そいつは俺に近づき、問いかける。
「……どうだった? なにかわかった?」
「ああ? ただの記憶喪失だ」
そいつはそれを聞くと、心配そうな顔で見つめる。
「じゃあ、私のことも忘れちゃったの?」
「ああ。きれいさっぱり跡形も無くなあ……」
すると、ピンク髪は笑顔になり、話し始める。
「じゃあ、またお友達になろうよ。アルタイル」
「お前……頭、ハッピーセットか?」
そう言うと、そいつは頬を膨らませる。
「なによ! いいじゃない。私はベガ。よろしくね」
「……まあ。……アルタイル……らしいな。俺の名前……」
本当は確実に違う名前なのだが、記憶喪失を演じるにはこれが一番いいだろう……。
俺はまた歩き出す。
「……どこへ行くの?」
「ただの散歩だ。バカ」
「バカじゃないもん! バカって言う方がバカなんだもん!」
「……ブーメラン刺さってんぞ……」
絶対、漫才ではツッコミできねえな。こいつ。
俺が歩くと、なぜかそのピンク髪はついてくる。俺はそんなこいつがうっとおしく感じてきた。
「……なんだよ?」
「いやあ。せっかくだから、案内しようと思って……」
できんのか? こいつに……。
とはいえ、案内役がいると、助かる面も多い。ここは利用しておくか……。
俺は頭をポリポリかきながら、立ち止まる。
「んで? どこに連れてってくれんだ?」
「そうだねえ……。じゃあ、あそことかどうかな?」
そいつは指をさす。その先にはピラミッドに似ているが頂点に丸い物がついた遺跡があった。
「あそこは昔からあるすごい遺跡なんだよ! どう? 行ってみない?」
「…………」
その少女は、瞳を輝かせながら見てくる。そして、俺は再び歩き始める。
「……てめえが行きてえだけだろ。バカか? 勝手に一人で行ってろ」
「ええー? 行こうよ。アルタイルー」
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「なんだ? ……ここ」
それは、おそらく村で一番大きい建物だろう。屋根は砂が積もっていて長い間整備されてないようだった。
「ここは集会所だよ。ただ、やっぱり村の人たちは仕事がちゃんとあるから、ほとんど人が来ないんだよねえ」
要は、ハローワークみたいなもんか……。
俺はその建物の扉を思いっきり開ける。
「へーい。……らっしゃーい」
受付の女はやる気が無さそうに返事をする。そいつに俺は問いかける。
「おい。仕事するにはどうすればいい?」
やはり、金というものは持っていて損は無い。それに、戦うことで、俺の特殊能力、『対応する能力』は強くなっていく。
だから、まずは仕事をした方が手っ取り早いだろう。
「……仕事? そんなもんやって何になるんですか? バカなんですか? 死ぬんですか?」
やべえ。殴りてえ。
受付嬢は横にある掲示板を指さし、話し出す。
「仕事なら、そこの依頼状を取ってって、早く達成すればいいでしょ。……あなた何なんですか? バカなんですか? 死ぬんですか?」
同じことを二回言いやがって……。
俺が拳を握りながら、片方の口角が上がり、キレそうになっているところ、ベガが話し出す。
「この人は記憶ソーシツってやつなんだよ。だから、この世界のことはあまりわかんないんだよ」
「ああ……。やっぱりバカなんですね、死ぬんですね。お疲れ様です」
マジでムカつくな。この受付、大丈夫か? もうだんだん慣れてきたけど……。
すると、ベガは俺の様子を見て、あることを言い出す。
「まあ、集会所で働いてるってことは、ほとんどニーt」
「それは違ああう!」
おお。急に元気になったな……。この受付嬢。
そんなこいつに改めて仕事について聞き直す。
「まあ。とりあえず、そこの紙を取っていけばいいんだな……」
「ええ。まあ、そうです。それよりも誰が何と言おうと、私はニートではなああい!」
まあ、ここは異世界だし、ニートがたくさんいても珍しくは無いだろうな。そう考えといてやるか……。
そして、俺は依頼状を眺め、確認する。だが……。
「なんて書いてあるんだ?」
先ほどは無意識に看板の字が読めたが、改めて見ると訳のわからない字ばかりだ。
「そうだね。これとかどう?」
ベガは一枚の依頼状を取り、それを見せつける。そこにはあの遺跡が描かれていた。
「ふん!」
バシッ!
「ああ!」
その紙を奪い取り、掲示板に戻す。
「行くわけねえだろ。こんな意味不明な場所。それよりも、こっちの方がいいだろ」
それは巨大なサソリが描いてある依頼状だった。
「ええー。『巨大サソリの討伐』……『合計10匹』……。それって危険じゃん。大丈夫なの?」
「危険ぐれえがちょうどいいんだよ」
きっとあの吸血鬼に比べたらぬるいもんだ。
「実力を試してみるか……」




