プロローグ 『敗北者の行方』
「……ちく……しょう……」
地面の暑さに俺は目を覚ます。
「ここは……砂漠か……?」
あの吸血鬼野郎……くそ遠いところまで吹っ飛ばしやがって……。
「うっ……」
立ち上がろうとするも……うまく脚が動かなかった。地面と太陽の両方から熱を受ける。
「がはっ!」
口から血も出た。こんなところで俺は死ぬのだろうか……。
俺は……最強だ……。だが、無敵じゃあない。
砂漠の中で……俺に……助かるすべなど無いのだ。
「くくくっ……これも……罰か……。誰かを引きずり下ろしてでも……強くなりたいと思った……俺の……」
俺は再び目を閉じる。あの吸血鬼には殺意を持ったままだったが、そんなことはあまり重要ではなかった。
最強の……能力か……。それを扱うには、俺は器ではなかったってことか……。
「……ル!」
不意に、俺の近くに声が聞こえる。
「……アルタイル! しっかりして!」
誰かが……俺を呼んでいるのか……。
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「ごめんよお……」
泣いている声でそいつは話す。
「僕も……もう止められないんだ……」
そいつは何かを食べていた。むしゃむしゃと……何かを……。
それは脚だった。そいつは誰かの脚を食べていた。
「ごめん。……ごめんよお」
そして……ようやく俺は気づく。
食べられていたのは、俺の脚だった。
「……ッ!」
そいつはもう片方の脚も引きちぎる。俺はその痛みに身悶えそうになった。
やがて、そいつの正体を理解する。
その顔は……俺自身だったのだ。
「うう……」
そいつは俺の体を食らう。だんだんと俺は感覚が無くなってきた。
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…………。
…………あ?
「ここ……どこだ?」
そこは砂岩や石でできた家だった。慌てて俺は体を起こすが、辺りには誰もいない。
同じく砂岩でできたベッドから立ち上がり、その建物を出る。そこには、あの砂漠が広がっていた。
「……どれだけ飛んできたんだ? ここはどこなんだ?」
すると、突然横から来る気配に気づく。
「……アルタイル?」
「は?」
そこには一人の少女がいた。少女はピンクの髪を持っていた。そいつは俺を見るやいなや、飛びついてきた。
「あ? なんなんだよ!?」
「良かった! アルタイル! 本当に生きていて!」
アルタイル? なんで俺のことをそう呼ぶんだ?
「とにかく! 離れろ!」
「え? どうしたの? アルタイル? いつもと全然口調が違うけど……」
奥から、ある女性がやってくる。
「……ベガ。その人から離れてあげて……」
その女性は白く長い髪を持ち、ずっと目を閉じていた。
「私はエリン。あなたとは話があるわ。少しこっちに来てもらっていいかしら?」
「……ちっ」
俺は舌打ちをする。突如こんなところに来て、状況がつかめないからだ。
本当にイライラする。だが……。
「まあ話すしかねえわな。仕方ねえ。ついてってやる」




