第24話 蛇は彼を見つめる
サクラザカは目を覚ます。
そこには見たことのない天井が広がっていた。そして、サクラザカはベッドの上にいることに気がつく。
「あっ。起きた」
「……ベル……さん?」
彼女は微笑む。サクラザカはここが駅の地下であることを理解する。
横にカゲロウが爆睡しているのに気がつく。
「こら! 起きなさい!」
ベルはカゲロウを容赦なく叩き起こす。すると、サクラザカに事情を話し始める。
「サクラザカくん、実はまる1日寝てたんだよ。昨日の朝、カゲロウがサクラザカくんをつれて帰って来て、それからずっとだよ」
「えっ? そんなにですか?」
「うん。けっこう疲れていたんだね」
サクラザカは何か違和感を覚えていた。そんなに多く寝ていた実感が無いのだ。
ふと、サクラザカはあの鎧のことを思い出す。
「カゲロウ。鎧はどうしたんですか?」
「それなら……ほれっ」
カゲロウは新聞を投げてきた。そして、また寝ようとするが、ベルさんに叩き起こされる。
「これは……タロー新聞?」
「いや、そこじゃねえよ! 下の方の見出しを見てみ」
「『フレインタリア周辺で謎の首なしが出没』……『頭を抱えていて不気味』……これって」
「ああ。どうやらあの鎧……ユニギリムを出ているらしい。いったい何を考えているんだか……。フレインタリアっていったら帝国軍の監視が厳しいし、財団の本部がある街だぞ。そこに手がかりがあるのか……?」
サクラザカは悩んでいた。もちろん、手がかりがあるのなら、フレインタリアに行くべきだし、サクラザカ自身もそうするつもりだ。
だが、問題はカゲロウについてだった。
「まあ、俺もついていってやるよ」
「えっ?」
「お前……わりとわかりやすいんだよ! 表情以外に出すぎだぜ。考えてることくらいわかるわ!」
カゲロウはサクラザカの悩みを理解していた。そして、サクラザカにとってはそれが心強かった。
「……まあ。俺がこの街にいない間は……ベル。お前にガキどもを任せてもいいか」
「なーに言ってんの。今までだって頑張ってきたんだから、これからだって頑張れるよ」
ベルはカゲロウにむかって笑顔を見せる。
それを見たサクラザカはベッドから立ち上がる。
「……カゲロウ」
「ん? どうした?」
サクラザカはカゲロウに向けて手を出す。
「この街で君に出会えて良かったです。これからも一緒に戦ってくれますか?」
カゲロウはその手をがっしりとつかむ。
「当たり前だろ! 俺たちはもう仲間だからな!」
すると、ベルが間に入ってくる。
「さて、盛り上がってるところ悪いんだけど……カゲロウ? なんか忘れてない?」
「……ああ。そうだった」
カゲロウは苦い顔をしながら、サクラザカに言う。
「実は瓦礫の中からお前を助けた時、もう一人、女の子が巻き込まれてたんだよな。……で、その子がお前に話があるって……」
「……僕に……ですか?」
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サクラザカはその部屋の前に立つ。後ろでカゲロウが見守っている。
「カゲロウ? 本当に大丈夫ですよね? 何か要求されたりしないですよね?」
「お前、本当にわかりやすいな。そんなに焦らんでもいいわ」
そして、サクラザカは緊張をほぐし、扉を開ける。
「まあ、俺はきつい態度とられたけど……」
「えっ?」
もう扉を開けてしまった。
…………。
「こんにちは。サクラザカさん」
そこにはセミロングの白い髪と赤い瞳を持った少女がいた。
もちろんサクラザカは、会ったことなどなかった。
「君は誰だい?」
「何を言っているんですか? すでにわかっているでしょう?」
その少女は異様な雰囲気を放っていた。そして、笑みを浮かべながら、話し出す。
「ボクは……あなたの理想です」
「僕の……理想?」
サクラザカには少女の言っていることが理解できなかった。
「正確に言うと、あなたの理想に魂が宿ったもの……ですかね。まあ、あなたが考えているほど難しいものでは無いですよ」
「いや……えっ?」
余計ややこしくなっていた。そんなサクラザカに少女は言う。
「あなたは……無様ですね……」
「…………」
その言葉はサクラザカの勘にさわった。
「要するに、ボクはウィンさんと同じですよ。もともと魂が無いものに……魂が宿った。ファーストさんのおかげで……」
「でも……いつ、僕の理想に魂なんて宿ったんだい?」
「あなたが殴られた時ですよ。あの鎧に……。そして、瓦礫の中でボクが産まれた。それだけですよ」
しかし、サクラザカの中ではいまだに理解できない部分があった。
「君が僕の理想なのは認めるとして、どうして僕に関わろうとするんだ? 僕にかまわず自由に生きればいいんじゃないかな」
「あなたは冷たいですねえ。そんなにボクが嫌ですか?」
「いや……嫌ってわけじゃあないけど……」
「嘘ですね」
少女はそう断言した。
「あなたはボクが嫌いだ。だから……あの時ボクを捨てたんでしょ?」
「君を……捨てた?」
サクラザカは考え込む。その姿を見て、その少女は笑みを浮かべる。
「まあ。そんなことはどうでもいいです。とりあえず、ボクもあなたと一緒に行かせてください」
「一緒に……行く? フレインタリアにかい?」
「欲を言うとその先もですかね……。まあ、無理ならいいんですが……」
「いや、そんなことは無いよ。むしろ仲間は多い方がいいし」
そう言うと少女は笑顔を見せる。
「ありがとうございます。……ところで、ボクに名前をつけてくれませんか? まだ名前が無いので」
「名前かい? そうだな……。一応考えておくよ」
「コハル……とかどうですかね?」
その言葉を聞くと、サクラザカは少女を睨む。その表情を見ると少女はより笑みを強める。
「まあ。仮ですよ。仮。……そのうち決めてくださいね」
「……わかったよ……」
そう言うとコハルは部屋を出ていく。
「さあ。どうしますか? ボクはすぐにでもフレインタリアに行ってもいいですけど……」
サクラザカは考える。そして、コハルの前を通りすぎ、言葉を放つ。
「いや、一つだけやり残したことがある。だから、コハルはここで待っていてくれるかい?」
「ははっ。了解です」
サクラザカは歩く。そして、ある場所へ向かう。




