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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第23話 壊れかけの歯車

「……まずいぞ」


 突然、カゲロウの服からウィンが飛び出す。


「どうした?」


「なにか……おかしいんだ。カゲロウ。サクラザカ」


 ウィンは焦った顔で考え込む。


「何がおかしいんだよ?」


「ファースト様に電話をしても……出ないんだ……」


「なんだって!?」


 カゲロウとサクラザカは不穏な空気を感じた。


 サクラザカはある考えにたどり着く。


「……もしかしたら、あちらも陽動を使ってきたのでは……」


「は? どういうことだよ」


「つまり、さっきまで僕らと戦っていた少女たちはただのおとりで……本当は自然公園の方にも財団の刺客がいるのではないでしょうか……」


 それを聞いてカゲロウの顔は青ざめる。


「カゲロウ。ここは急いだ方がいいですよ」


「ああ。どうやらそうらしいな」


 三人は道を走る。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……そんな……」


 そこには首を切断された女性の姿があった。その光景を見たウィンは慌てて彼女のもとに向かう。


「ファースト様! ファースト様ああああああああああああ!」


 そのひよこは涙を流していた。


「どうして! どうしてこんなことに!」


 サクラザカとカゲロウは周りを警戒する。そこにはもう財団のメンバーはいないようだった。


 そのことを確認すると、サクラザカは問う。


「その人が……ファーストさんで間違いないですね」


「ああ。ワタシは魂だけの頃から一緒だったからわかる。くっ!いったい誰がこんなひどいことを……」


 カゲロウは彼女の前に座る。彼女からは魔素が感じなかった。


「……間に合わなかった。クソッ!」


 地面に拳を叩きつける。その拳から血が流れ出た。


 その様子を見たサクラザカはカゲロウに話しかける。


「少し落ち着いてください。おそらく、彼女は強い能力者だ。それなのに、やられてしまった。つまり、僕らが間に合っていたとしても、その敵に皆やられた可能性の方が高い。だから……」


「……だがよ!」


「間に合わなくてよかったんだ。……ポジティブに捉えて行きましょう……」


 カゲロウはサクラザカの言葉を聞き、冷静さを取り戻す。


「……すまねえ。サクラザカ」


「いえ。いいんです」


 サクラザカは彼女の手を握る。その手は冷たかった。


「……あなたの思いは僕らが必ず受け継ぎます。まだ、特殊能力……カルマについては、わからないことだらけですが……それでも手がかりを見つけていこうと思います」


 サクラザカは手を離し、地面にゆっくりと置く。そして、辺りを見回す。


「……少し、周りを確認しておきましょう。もしかしたら、手がかりが残っているかもしれません」


「ああ。わかった……」


 三人は戦いの跡を見る。自然公園は破壊されていて、もはや改修する他ないだろう。


「サクラザカ……これはどうだ?」


 破壊された地面の中で丸く跡がついたものを見つけた。


「これは……バネの跡ですかね。地面にバネを押し当ててできたものでしょう」


「バネか?」


「……つまり、ここに来たのはあの団長ということですね」


「……そうか」


 サクラザカの中では納得がいった。あの団長の実力ならある程度強い能力でも敵わないことはあり得る


 そのまま、サクラザカたちは公園をまわる。だが、特に何かは見つからなかった。


「……そろそろ危険ですね。ここで引き上げましょう」


「ああ。わかった」


 そして、公園の出口へ向かう。


 その時だった。


「カゲロウ……」


「どうした?」


「……まずいことが……起きました」


「あ?」


 サクラザカは指をさす。そこには本来あるべきものが無くなっていた。


 それに気づいたカゲロウは鳥肌がたった。


「なんでだよ!」


「これは……奇妙だ!」


 彼女の死体が無くなっていた。


「おいおい! どういうことだよ!」


「わからない! いったい何が起きたんだ!?」


 ふと、サクラザカの耳にある音が届いた。自然公園には人がまったくいないからか、その音ははっきり聞こえた。


「何か……足音が聞こえる……」


「……なんだって?」


 サクラザカは走り出す。カゲロウとウィンを置いて。


 公園を出て、その先にある人影があった。


「なんだ! これは!」


 さすがのサクラザカも、これには驚いた。


「どうしたんだ! サクラザカ! …………なんなんだよ!? これ!」


 そこには……首の無い鎧が動いていた。その脇にはファーストの頭が抱えられていた。


 そして、鎧は街灯の鉄でできた部分に触れる。それはたちまち鎧に組み込まれ、ますます鎧を頑丈にした。


「……まさか……そんなこともあるのか!?」


 サクラザカは口を押さえ、仮説を立てる。


「彼女自身が死ぬ前に……自分自身に魂を与えたなら……生き返るのも納得がいく」


「だがよお! 首が無いのに動いてるなんて人間じゃねえぜ!」


「ああ。何か……異常です!」


 サクラザカはその鎧に近づく。すると、鎧は頭を上へ投げ、サクラザカの方に振り返る。


「えっ?」


 鎧の動きが速かった。よく見ると足に身体強化の魔法をかけていた。


 そして、サクラザカは鎧に腹を殴られる。


「がはっ!」


 サクラザカは勢いをつけて吹っ飛んだ。彼は廃墟の建物に突っ込み、瓦礫に埋もれる。


 投げた頭を鎧は受け取り、再び歩き出す。


「サクラザカ! ……くそっ!」


 カゲロウはサクラザカの代わりに鎧を止めようとする。


 パクっ!


「えっ?」


 カゲロウの服をウィンが咥えて引っ張っていた。


「ウィン。何やってんだ!」


「カゲロウ! 今のファースト様の体は能力も含めて暴走状態に入っている。だから、一人で近づかない方がいい! 今はサクラザカを助けることを優先するんだ!」


 カゲロウは頭を冷静にする。そして、ウィンの言っていることが正しいと理解する。


「……わかった。サクラザカを助けに行こう」


「ありがとう。カゲロウ」


 カゲロウは廃墟の近くに寄り、瓦礫の中を漁る。


 鎧は光沢を放ちながら、夜の中へ消えていく。

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