第22話 はずれた者
「……来ないなあ」
すでに0時を過ぎ、日付は変わっていた。それでもサクラザカくんたちは来なかった。
「何か……トラブルでもあったのかな?」
私は自然公園で待っていた。だが、1時間経っても彼らは来ない。
「…………まあ。好きなだけ付き合ってあげるか……」
私は公園のベンチに座る。すると、横に黒い縁のある帽子を被った男も座り、話しかけてきた。
「……こんな夜中になんでここにいるんだ?」
「少し待ち合わせをしてるだけですよ」
「そうかい……」
その男は帽子を上げ、こちらに顔を見せる。
「じゃあそれまで私と話でもしないかい?」
「あなたは……イマニュエル!」
私はすぐにそのベンチから距離を取る。すると、男は口に笑みを浮かべながら、立ち上がる。
「おいおい。今の私はブラックだ。もう昔の名前は捨てたよ。お前と同じくな……。フランチェスカ。確か……今はファーストと呼ばれているんだったか?」
「…………」
男は帽子を投げ捨て、言葉を発する。
「まあ、そう警戒するなって。かつては同じ吸血鬼の作った帝国に仕えた騎士だろうが……。久しぶりの再開だぜ?」
「だけど……財団を作った人間を信用するわけにはいかないわよ」
「そりゃそうだな。さすがに、楽しい楽しい同窓会とかにはならないわな……」
すると、急にブラックの表情から笑みが消える。
「ただ、お前がどうしてこんなところにいる? いまさら、出てきてサクラザカに何を教える気だ?」
「それをあなたに教える義務は無いわ!」
「……そうか。だが、俺にとってはお前がここで死んでくれればそれでいい。お前のカルマを発動できなければ、帝国や財団を滅ぼすことも無いんだからな」
突如、ブラックは私に向かって走り出す。その速さは異常なほどだった。
だが……。
「なに!」
急にベンチが動き出し、ブラックにぶち当たった。
「ベンチに魂を与えた。そして、10秒後に横に移動する指示を出した!」
男はベンチを抑える。
「……くっ。なるほど、さすがだな。フランチェスカ。だが!」
ブラックは移動するベンチに立つ。
「やはり、その能力は危険だ! 下手したら、軍隊すらも作りかねないからな!」
そして、ブラックは足を赤く発光させ、私に向かってきた。それに対し、私は光線を発生させる。
動きを封じるために光線はやつの脚を貫く。
しかし、ブラックの脚はいまだに止まらず、跳ねるように近づいてきた。
地面に設置したバネを利用して移動してきたのだ。
私は近づいてくるブラックの拳を避け、さらに距離を取る。
「……あなたのカルマもいまだに健在のようね……。その『バネを発生させる能力』は……」
「まあな……。最近は戦うのが日常だからな……」
私は地面に手をかざし、魂を与える。すると、その地面が一部動き出し、目の前に壁を作る。
「さあ。行ってきなさい!」
壁は速い速度でブラックに向かっていく。だが……。
ボガシュッ!
ブラックはその壁を殴り、壊した。
私は次々と地面を触り、同じ攻撃を繰り返す。ブラックも同じように壁を破壊する。
「……どうした? そんな攻撃をしたところで無意味だぞ?」
その時だった。
「んっ?」
ブラックの腕に土がくっついていた。
「これは……接着魔法か……」
腕は今まで壁を壊した分、重くなっている。
「俺を攻撃するためではなく、俺の動きを封じるため……というわけか……」
「そう。あなたのバネは何かしら動くことによって力を発揮する。だから、動きが鈍くなったあなたでは戦うことはできない」
私は黄色の魔素と赤い魔素を集め、光線を3本作る。
「さあ! 食らいなさい!」
光線は一直線にブラックの方向に向かう。
しかし…………。
「動けなくなると言ったな……。だが、一つの方向だけ……動きやすいところがある。それは……」
彼は大きく跳び、能力で作ったバネに乗る。
「下方向へ動くのは楽なんだぜ!」
そして、さらに大きく跳ね、光線を避けていく。そのまま、私のところに殴りかかる。
私は後ろに下がり、ブラックの攻撃を避ける。ブラックの腕は地面にぶつかり、くっついていた土が地面から受ける衝撃で剥がれる。
「くっ!」
私は近くの木の枝を取る。そして、それに魂を与え、ブラックの方向に投げる。枝にはやつの体に突き刺すように命令した。
枝は加速していき、ブラックの肩を貫く。だが、妙なことに肩を貫いたまま、止まった。
「……言っておくが、俺の能力の脅威はお前がよく知っているよな?」
「……なにを!?」
ブラックの肩にはバネがあり、それが枝を止めていた。バネは受けた力をそのまま枝にこめる。
「チェックメイトだ……」
枝は目にも止まらぬ速さで私の肩を貫いた。
「うぐっ」
私はお互いの戦力を考えた。考えた末に今の私ではこの男に勝てないことを理解した。
ダッ!
私は地面を蹴り、後ろに走り出す。そして、踏んだ位置からまた土の壁を作り出し、ブラックに飛ばした。
「無駄だというのにな……。まったく愚かだよ……」
ブラックは光線を作り出し、撃つ。それは壁を次々と貫き、私の腹を撃ち抜いた。
「がはっ!」
私は口から血を吐き、倒れ込んだ。その時ブラックは、すかさず光線を脚に撃ち込む。
「うぐっ!」
「まったく……残念だよ……。かつての盟友を殺さなければならないなんて……」
私は傷に回復魔法をかける。だが……。
「ぐはっ!」
やつは拳銃を取り出し、私の胸に弾丸を撃ち込む。弾丸が体の中に残ってうまく治癒ができなかった。
「くっ!」
私は最後の力を振り絞り、動こうと手を伸ばす。だが、その手をやつは踏みつける。
「お前はもう終わりだ……。安らかに眠れ……」
終わり……だと。
…………。
…………駄目だ!
今……ここで私は死んだとしても……私のカルマだけは生かして、サクラザカくんたちに託さなければならない!
そのために、私は賭ける。私自身を生け贄に捧げて。
「覚え……てろ……」
「ははっ。負け惜しみか? フランチェスカ?」
この賭けは……正直言って成功するか、わからない。成功したのはまだ私が完全に人間だった頃の話だからだ。
今は亜人になってしまって、能力も弱体化している。
でも……やらなくちゃいけないんだ。
「……さらばだ。……亡霊……」
瞬間……私の首が切断された。
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どんなことがあっても……私は生きていけた。
それは彼との約束があったからだ。
――私が君にしてあげられた分、今度は君が誰かに何かをしてあげてほしい。だからせめて、言葉という文化だけは後の時代の人々にも受け継がせてくれないか――
「それが……人と人を……繋ぐ希望だから……」
その言葉が私の根幹を作っていた。
私は……そんな人間として生きられたのだろうか……。




