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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第19話 それでも……私は子どもだったのだ

 サクラザカは変わらず、話を続ける。なぜだか、その表情には余裕が見られた。


「もしも僕が車両に入ったならば、その時扉を固定するために一人手前の車両にいる必要がある。扉を閉め、固定することなら彼女にもできる。魔法とは、レベルがあれば、誰でも使えるものなので」


『だからといって、あなたがそこから出ることに関係はないでしょう』


「……そうでしたね……。まあ出ることなんて簡単なので、うっかり説明し忘れていました」


『なに?』


 サクラザカは手を上にあげる。その手はある人形をつかんでいた。


「あなたたちの敗因は……自分たちの実力を過信しすぎて、相手の能力について考えなかったことです」


 その場からサクラザカは消え、代わりにカゲロウが現れる。


「よっ……と。おう……なんか良くわかんないが……。とりあえずここで待っていればいいのか?」


『そんな!』



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 私とリズは別の車両で待機していた。


「ねえ、ジェナ。これって大丈夫なの?」


「……わかんない。今、声が変わったの。急にもう一人の声に……」


 私は不安に思った。もしも、そのもう一人の男が瞬間移動のような能力を使ってきたとしたら、向こうの列車にいるレベッカが危ないのではないか。


 プルルルルルッ!


 やがて、レベッカの携帯から電話がかかってきた。


「もしもし?」


『こんにちは。ジェナちゃん……』


 この声はサクラザカさんの声だった。まさか!?


『こちらの少女は捕らえさせていただきました。殺されたくなかったら、この結界を解いてください』


「どうして……そんなことを……」


 彼はレベッカを人質に取っているのだ。まさか、あのレベッカが……。


「本当に人質に取っているなら、レベッカの声を聞かせてください! さもないと、交渉は成立しません」


『げほっげほっ。早く……私を……殺せ!』


「!?」


 それは紛れもなく、レベッカの声だった。本当に人質になっているのだ。しかも、この声からして、だいぶ負傷していることがわかる。


「レベッカ!」


『私のことはいい! だから、早くもう一人の男を殺して! がふっ!』


 携帯の向こうから、鈍い音が聞こえる。腹を蹴られたのだろうか。


『さあ? 早く選んでくださいよ。友達は……死んでほしくないですよね?』


「……サクラザカさん……」


 この人に狂気めいた物を感じた。団長が言っていたとおり、この人は目的のためなら、どんな手段も用いる。


 そういう人間だったのだ。


 だが、私にはもう悲しんでいる余裕は無い。


「……リズ……」


「……うん……」


 私たちは車両の扉を開けた。それと同時に携帯を切る。


 目の前には、あの赤い髪の男がいた。


「おっ。やっと空気がちゃんと吸える。どうやら、サクラザカのやつ。なかなかエグいことしたみたいだな」


 リズは怒りに燃えていた。それはサクラザカさんや、この男に対してではなく、考えの甘い自分自身にだった。


「あなたは……ここで倒す!」


 だが、私は彼女の前に進む。


「ジェナ?」


「リズはレベッカの方に行ってあげて。ここは私が引き止める」


 私はリズと目を合わせる。リズは私の考えを理解してくれた。


「わかった……。先に行ってるね」


「うん」


 リズは男を横切りながら、奥の車両に走り出す。男は彼女に何もしてこなかった。


「どうして止めたりしないんですか?」


「……まあ。サクラザカに任せて大丈夫だと思うしな……。それに、二体一はさすがにきついし……」


 その男は首をコキッコキッと鳴らしながら、歩いてくる。


「まあ……いい運動になるかな……」


「なめられたものですね。そんなに弱く見えますか? 私」


「……まあ。弱い弱くない以前に……たぶん今のお前じゃあ誰にも勝てないと思うぞ」


「……そう……ですか」


 私は近づいてくる男に光線を撃ち込む。男はそれを軽々かわす。


 だが…………。


「がはっ!」


 男の腹には小さく穴が空いていた。男はしゃがみ、回復魔法をかけ再生させる。


「……なるほど。『空気を操る能力』ってところか……。空気を薄くできたのも、特殊な器具を使わずにサクラザカに声を伝えられたのもそれのおかげか。そして今、光線に空気弾も混ぜていたってところだな……」


「ええ。でも、本番はここからですよ!」


 私は大量の光線を作り出し、男に撃つ。


「おんなじ技が通用すると思うなよ!」


 男は紫の魔素を扱い、シールドを作りあげる。光線も空気弾もシールドで防がれる。


 瞬間、私は男の横から再度、光線と空気弾を撃つ。男は二枚目のシールドを作り、防御する。


 すかさず、さらに連続で攻撃をする。


「ちっ!」


 男は舌打ちをしながら、それをかわす。


 やっぱり……。この人の魔素吸収レベルはおおよそ150くらい。つまり、レベル60のシールドを三枚以上は使えない。


 つまり、次の一手で決まる。


「うおおおおお!」


 私は10本の光線と5本の空気弾を飛ばす。それを男は攻撃を受けた二枚のシールドで再び防御する。


 だが、そのシールドも割れ、粉砕される。まだ、光線は残っている。


「これで……私の勝ちだ!」


「そいつはどうかな?」


 男は光の槍を作り、それで光線を弾き返す。辺りに散った光線は汽車の壁を次々と壊していく。


「……レベルの低い魔法で防御ですか……。けっこう、テクニカルなことをしますね……」


「まあ、いつもは自信が無いからやらないけどな」


 男は次々と光の槍を作り出す。


「だが、わりとお前には通用しそうだな。……その空気弾……そんなに威力は強くないように見える」


 男はその槍を私に向かって発射する。私は飛んでくる槍に光線を当てて撃ち落とす。


「シールドは……使わないのか?」


「私は紫の魔素を使えないので……」


 そう……単に力量不足だ。だが、代わりはいくらでも作れる。


「やっぱ槍は慣れねえや。こっちの方が俺も好みだ」


 そう言うと、男は光線を作り、こっちに飛ばす。


 私はそれをいくつか光線で打ち消すが、すべては落としきれない。


 しかし、光線は私にたどり着かずに消滅する。男はその現象を理解したようだった。


「……こりゃめんどくさいな」


 空気の壁がそこにはあった。


「魔法では作れないけれど、空気を圧縮して、壁くらいは私にも作れる」


 そして、そのままその壁を男の方に飛ばす。男は天井に接着魔法で張りつき、それを避ける。


 空気の壁はいくつか座席を巻き込み、車両の後ろで消滅する。


「あっぶねえ。かわいい顔して、なかなかえげつないことしやがるな! あれに巻き込まれたなら、体が潰れちまってたぞ!」


 私はさらに光線を男に叩き込む。それを男はシールドで防御する。


 だが、もう一度光線を撃つと、男は反応が遅れたのか、光線が足を貫く。


「うおっ! いってえ!」


「どうですか? これでもまだ戦いますか?」


 男は床に座る。どうやら、足を負傷させたことは大きなダメージだったようだ。


「クックックックック!」


「っ!?」


 その男は急に笑いだした。


「はっはっはっはっは」


「何を……笑っているんですか?」


 男は腹を抱え、口を抑えて笑っている。いったい何がそんなにおかしいのだろうか。


「いやあ。お前……俺を誰だと思ってる? 腹に穴開けても生還したカゲロウさんだぞ!? そんな相手にすぐ攻撃しないとか……お人好しにも程があるぞ!」


「なっ!」


「言っておくぜ。だから、お前は俺に勝てないんだよ」


「くっ!」


 私は光線を男に放つ。すると、男はありえない速度で私の背後に回った。


「これは!?」


 身体強化の魔法だと!


「この!」


 私は再び光線と空気弾を男に撃ち込む。だが、すでに出していた男の光線と衝突し、消滅する。


 空気弾はというと、男に簡単に避けられてしまった。


 そして、男の手が私の目の前にあった。


「……やっぱりな! お前のその空気弾も空気を圧縮して作り上げた物。空気中の魔素をたくさん含んでいやがる。つまり、魔素探知である程度、位置がわかる!」


 男はニヤリと笑みを浮かべる。そして、男の腕が近づいていく。


 ああ……このまま私は殴られて、殺されるのかな。


 そういったネガティブな思想が私を埋め尽くす。


 パチンッ!


「いたいっ!」


 おでこに衝撃が走る。男は中指に身体強化をし、おでこを弾いたのだ。その威力はすさまじく、意識が沈んでいく。


「まったく……これじゃあ俺も大概だな……」


 私はそんな言葉を聞きながら、眠っていく。

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