第15話 運命という名の鎖
俺らはその女の話を聞いていた。
『特殊能力【カルマ】……それは君たちの宿命を表しているんだ』
「僕らの宿命ですか……」
思えば、俺の特殊能力、『人形と自分の位置を入れかえる能力』も俺の、誰かの代わりに戦える英雄になりたいという願いから生まれたものなのかもしれない。
『……だから、君たちはその宿命を乗り越えることで、カルマの先を行くことができるんだ』
特殊能力の先……。そんなものを今まで聞いたことが無かった。
「宿命を乗り越える……と言われても、具体的に何をすればいいんでしょうか?」
『それは私にもわからないよ。なんせ、特殊能力は人によって違うからね。君たちしだいさ』
「…………」
俺たちはしばらく黙っていた。さすがに急に特殊能力の強化について話されても、どうしようもなかった。
『そうだね。……できれば、君たちに会いたい。アトル湖前の自然公園に集合でいいかな? 時間は三日後から四日後に日付が変わる時。それでどうかな?』
「はい。わかりました。念のため聞きたいのですが、なぜ夜に?」
『その方が……民間人を巻き込まずに住むからだよ。どうせ、財団の誰かが邪魔をしてくるからね。では、電話を切るよ』
「プツッ……プープープープー」
空気が重くなってしまった。そのことにベルは耐えられなくなったのか、外に向かう。
「ちょっと買い物に行ってくるね。何か欲しいものはある?」
「特に無いな……」
「そう……。じゃあ行ってくるね」
そう言って彼女は扉の向こうに行った。
すると、サクラザカはそのひよこに話しかける。
「そういえば、名前を聞いていませんでしたね」
「そうだな。ワタシの名前はウィン。よろしく頼む」
「はい。よろしくお願いします」
ウィンは羽を突き出し、サクラザカと握手をする。そして、あることを言い出した。
「さて、男だけになって、することがあるだろ?」
「……何でしょうか?」
「下着探しだ」
「………………は?」
俺とサクラザカは同じように驚く。何を言っているんだ。このクソバードは……。
「そうと決まれば……早くあの女の部屋に行くぞ!」
「おい! 馬鹿! やめろ!」
とっさに俺はウィンに言う。しかし、そいつはやめる気はない。
ウィンはサクラザカの手から離れ、飛んでいく。なんでこいつ飛べるんだ?
「だいたい、なんでそんなことしなくちゃいけないんだ? リスクがでかすぎるんだよ!」
隣でサクラザカも、うなづいている。
「そもそも、この家にはガキどもとベルしか……」
「…………」
「…………」
「…………カゲロウ?」
ベルの下着が……あるのか……。
俺の頭をそれがよぎった。
「おい。ウィンって言ったか?」
「ん? どうした? 坊主」
「お前、天才かよ」
五年以上ここに通っていて、その発想にたどり着かない方がおかしかったのだ。ここには、ベルの下着がある。それが俺のやる気を満たしてくれた。
後ろで、サクラザカが椅子に座る。そして、頭を抱えている。
「やめた方がいいと思いますよ……」
まるで、苦い思い出があるかのようにサクラザカは説得する。
「何言ってんだ。今がチャンスなんだ。あいつの下着を見る絶好のチャンスなんだ」
罪悪感はある……。恐れもある……。だが、俺はやらなければならない。
ここまでの覚悟が無いと、この決断にはたどり着けなかった。それにすぐにたどり着いたこのひよこを改めて勇敢だと思う。
「俺、お前のこと誤解してたよ……。初めは何考えてるかわかんないし、意味不明なクソバードだと思ってたけど、お前っていいやつだったんだな」
「はっはっはっはっは…………………………埋めるぞ?」
そして、俺たちは扉を開ける。そこにはきっちりとした女の部屋があった。俺はウィンに合図をする。
「行くぜ。相棒」
「オーケー。任せな」
俺はふとんなどの下を漁る。しかし、目標の物は見当たらない。しっかりとしたベルのことだから、もちろんこんなところには無い。
「やはり……そこか」
俺はタンスを眺める。もうそこにしかないと思った。
キイイ
ゆっくりとそれを開ける。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
しばらくして、サクラザカのもとにカゲロウが戻ってきた。
「あったぞ! 宝があったぞ! 見ろ! パンツだ」
「……カゲロウ……」
そこには黄色のパンツを片手に握るカゲロウの姿があった。
ガチャリッ
「ただいまー。元気にして…………」
外から帰ってきたベルの目にそれは映る。
カゲロウはというと、魂がどこかへ行ったような顔をしていた。
「……どうした? 坊主。……あっ……」
ウィンもテーブルの上に乗った時、状況に気づく。
「……ちょっとこっち来て……」
カゲロウはベルに腕をつかまれながら、部屋に向かう。
ドスっ!
ベルはウィンの目の前に勢いよく、から揚げを置く。
「ひよこちゃんは、お客さんだから今回は許すよ……。次やったら……その時はよろしくお願いします」
ウィンの顔が青ざめ、体は震えていた。あえて、どうするか言わなかったところが逆に恐怖だった。
そして、その出来事をこれから受けるカゲロウ。
部屋に入る直前で自我を取り戻した。
「サクラザカ! 頼む! 助けてくれ! 俺、まだ死にたくない!」
サクラザカは椅子に座りながら、お茶を飲む。
「サクラザカあああああああああああああああああああああ!」
バタン。
部屋の扉は閉まり、中から物騒な音が聴こえる。
「…………」
「…………」
二人は次に出てきたカゲロウを明るく迎えることに決めた。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
サクラザカが外で待っていると、カゲロウが戻ってきた。
「大丈夫ですか?」
「…………女って怖い……」
カゲロウはもう今回のようなことをしないように見えた。
「……さて」
サクラザカにはこれから2日間何をするか、決まっていなかった。
「カゲロウ……」
「……どうした?」
「おすすめのカフェでも教えてください。何があったかはそこで聞きますから……」
「……おう。……わかった」
そして、二人は道を歩く。空は澄んでいて、鮮やかな青一色だった。
太陽が街を照らす。




