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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第14話 新たな朝が世界を照らす

「本当に大したやつだ」


 俺は目の前に寝ているサクラザカを見る。今は回復魔法のおかげで、こいつに異常は無い。


 ここに来た時、こいつは既に敵を倒していた。いくら吸血鬼とはいえ、さすがに疲労が溜まったのだろう。


「…………ん?」


 サクラザカは目を覚ます。そして、俺に話しかける。


「カゲロウ。……来ていたんですか」


「まあな。で? その袋が何かの手がかりなのか?」


 二人はそれを眺め、中身を取り出す。それは卵だった。


「……何でしょうね? これ……」


「まあ……ずっとここにいるのも危険だ。すぐに駅に戻ろう」


「そうですね……。ちょっと待っててください」


 そう言うとサクラザカは建物から伸びた鉄骨に脚をかけて、逆さまになる。


 グワワアーン


 そして、能力を発動し、髪の毛が黒く変色する。それに加えて眼鏡をかける。


「……そういう原理だったんだな。最初の変装って」


「まあ、最低限の変装はすべきですよ。むしろ、財団に狙われているのに変装をしないカゲロウの方がすごいです」


「確かにな……」


 そして、俺たちは駅に帰った。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「おかえりー」


 俺たちが帰ると、ベルが出迎えてくれた。俺はベルにあることを聞く。


「そういえば、迷子の子どもは大丈夫だったか?」


「うん。その子はちゃんとお母さんに会えたから……」


 サクラザカは唐突に疑問が浮かぶ。


「ベルさんは、会わなかったんですか?」


「まあ……私たちみたいな奴隷が……貴族や平民と関わらない方がいいのよ……」


 ベルは苦笑いをしながら言う。そんな表情を見て俺は言葉を返す。


「……どんな子どもだって……初めは同じなのに……。なんで心ってのは汚れちまうんだろうな……」


 サクラザカはさっきその質問をしたことを後悔しているようだった。


「……少し、台所を借りてもいいですか?」


「えっ? いいけど……」


 ベルは急なサクラザカの行動に驚く。


「少し……二人にお礼をしたいんです」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 ある程度の時間が経った時、サクラザカは台所から戻ってきた。その手にはポットとカップの乗ったおぼんが握られていた。


「……何をするつもりだ?」


「ぜひ、飲んでいただきたい物があるんです」


 そう言って、俺とベルの前にカップを置き、何かを注ぎ始める。その飲み物は緑色をした奇妙な飲み物だった。


「なあ、これって本当に飲んで大丈夫なのか?」


「はい。いつも持ち歩いている茶葉で作っているので、ちゃんとした物は作れませんが……」


 俺はそれを口に含む。ベルも俺が飲んだのを見ると、後から飲み始める。


「うまいな……」


「おいしい!」


「ありがとうございます」


 サクラザカの顔は依然無表情だったが、その声は喜びを含んでいるようだった。


「これは緑茶って言うんです。よくお嬢様に作っていたので、これだけは自信があるんです」


「……例の吸血鬼か?」


 サクラザカはうなずく。それ以上は何も言わなかった。


 そして、あの袋を持ち、その中から卵を取り出す。


「……結局、これは何なんでしょうか?」


「さあな。……まったく理解ができない。卵で何をすればいいんだ?」


 だが、ベルはその卵をじっと見て、言葉を放つ。


「何か……生きてる?」


「はっ?」


 ベルはめったに出さないキツネの耳を出し、卵の音を聞く。その中に何かを感じるようだった。


 そして……。


 ピキッ!


 卵にヒビが入った。


「おいおい! 何か生まれるぞ!」


 その中から何かが殻を突き破って出てくる。


「ピヨピヨ」


 それはひよこだった。黄色い翼を持ち元気よく鳴いている。


「ああ?」


「ピヨピヨ」


 俺たち三人はサクラザカの手の中にいるひよこを眺める。


「ピヨピヨ」


「…………」


「ピヨピヨ」


「…………」


「ピヨピヨ」


「…………は?」


 俺たちは一瞬理解が追いついていなかった。いったいこれを置いたやつは何を考えていたんだ?


 そんな中、ベルはひよこに指を近づける。


「あら。かわいいね。よしよし」


「そいつ。触っていいのか? 危険じゃないのか?」


 俺は謎の警戒をする。そんな中、サクラザカがこちらにひよこを近づける。


「カゲロウも持ってください」


「えっ?」


 急な無茶振りに俺は困惑するが、そのひよこを受け取る。毛並みが最高だった。


「……かわいいな。こいつ」


「ピヨピヨ」


 俺は指でそのひよこをつついていた。


「よしよーし。どこが気持ちいい?」


「ピヨピヨ」


「ここが気持ちいいのか」


「ピヨピ……」


「じゃあここはどうだ?」


「ぺっ!」


 俺はヒヨコを持っている手を見る。そこにはヒヨコのツバがついていた。


「はっ?」


「触ってんじゃねえ。このガキが」


 俺は一瞬耳を疑った。まさか……ひよこが喋った?


「えっ……うわああ!」


 俺はヒヨコを手放す。まさか、ヒヨコが喋るなんて思いもしなかった。


 ヒヨコは小さい翼をパタパタ羽ばたかせながら、テーブルの上に立つ。


「なんで喋ってんだよ!」


「……そこまで驚くことでしょうか?」


 サクラザカはこちらを見て言う。


「さっきから不可解な点は多かったですよ。ひよこは生まれた時は毛並みが良いわけではありませんし」


「えっ、いやでもひよこが……。なんでそんなに冷静なんだ?」


 ひよこは胸を突き出し、喋り始める。


「ワタシはただのひよこではない。偉大なるこの世界の改革者、ファースト様の使いだ!」


「ファースト。それが僕らの探し求めていた人物の名前ですか?」


「本名は違うらしいけどな。とりあえず、飯をたらふく食わせろ」


 なんかこの鳥うぜえな……。


 出会って数秒だが、それだけはわかった。ベルも同じように感じていた。


「そうだねえ。何がたべたい?」


「ワタシは今、最高にステーキや、ハンバーグが食いたいぞ!」


「わかったわ。フライドチキンか、目玉焼きがいいのね」


「えっ? ……ちょっとタンマタンマ! わかった! わかったから! 普通にそのお茶でいいから」


 えげつねえ。さすがは子どもたちの世話をしてるだけ、人の扱いがうめえや。


 あっ。ひよこだったわ。


「まったく……ワタシに逆らうなんて……。仕方ない……こんな不味そうな茶で我慢してやる」


「……不味そうな……お茶……」


 サクラザカは部屋の隅で体育座りをしている。表情は無いが、落ち込んでいるのがすぐにわかる。


「なあ。坊主……。こいつら、面倒くさいな……」


「ああ……。そうだな……」


 出会って数秒でこのチキンと気持ちを共有できてしまった。


「さて、話を戻そう。ワタシはファースト様の能力で生まれた。ファースト様の『魂を与える能力』で……」


「魂を……与える……ですか」


 サクラザカも気持ちを切り替えて戻ってきた。立ち直りは早いな。


「ワタシはファースト様に作られた魂だ。だから、ファースト様と連絡を取ることができる。今から繋げるぞ」


「……おう」


 話が急なため、ついていけない部分もあるが、そのファーストとやらの話を聞けばわかるだろう。


 突然、ひよこが白眼を剥く。


「プルルルルルルルルルルル」


「効果音あるんだな……」


「プルルルルルッガチャッ!」


『やあ。こんにちは。繋がってるかい?』


 その鳥の口からは女性の声がした。


『私がファースト。君たちの知っているとおり転移者さ』


「こんにちは。ファーストさん。僕はサクラザカです」


 白眼を向いたヒヨコに向かって、サクラザカは話しかける。絵面が面白いが、もう慣れてきた。


『サクラザカくんかあ。さて、君が私と同じ異世界転移者でいいのかな?』


「はい。僕らはあなたを信用します。実際に何をすれば良いのでしょうか?」


『そうだねえ。一番重要なのは私の話を聞くことだよ』


「聞くこと? それだけですか?」


 サクラザカは不可解に思った。


『そうだよ。実際に帝国を落とすには知ってもらわないといけないからね』


「帝国を……落とす……。そんなことが可能なんですか?」


『あくまで可能性だよ。君たちには財団だけではなく……帝国を滅ぼす希望がある』


 俺たちにそんな実感は無かった。できることと言ったら、魔法を扱ったり、少し特殊能力を使えるだけだ。


『君たちの特殊能力が鍵になってくるんだよ。その特殊能力にも……一般能力が魔法と呼ばれるのと同じように名前がある』


「特殊能力の……名前……?」


 彼女は少し間を取り、その言葉を言う。


『……【カルマ】……それが君たちの持つ特殊能力の名前さ……』

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