第12話 最強の能力
サクラザカは道の真ん中でその少年と向かい合う。
少年はクリーム色の髪と青い瞳を持っていた。
「お前も確か異世界から来たらしいな。俺と同じように。」
「……? ということは君も同じということですね」
「ああ。そうだな。この街の特徴を表すなら、現代のヨーロッパの世界が荒廃しちまった感じかな……。そして、帝国に産業だけの街として利用され続けている。というところか?」
『ヨーロッパ』という単語を知っている限り、本当のようだ。
まさか、1日の間に3人もの異世界転移者の存在を知ることができるなど、サクラザカは思いもしなかった。
「君も財団ですか?」
「あ? そんなもんに入るわけねえだろ」
男はニヤリと笑う。
「だって、俺は一人で最強なんだからな。そう言えば、異世界から来た人間はなぜか強い特殊能力を持つらしいな。つまり、俺は超絶ラッキーボーイってことだろ」
瞬間、少年はサクラザカに近づき、道の奥へ殴り飛ばす。
その時、なぜか殴り飛ばした方向に少年がいた。まるで、ワープしたかのように。
そして、その先でも彼は殴る準備をしていた。
「悪いが……てめえを倒して、最強への踏み台にさせてもらうぜ!」
サクラザカは翼を地面に押しつけ、体を攻撃から回避させる。そのまま、少年に対して足を突き出し、顔に蹴りを食らわせる。
少年は建物の壁にぶつかる。その衝撃で建物は崩れ、少年は巻き込まれる。
「今のうちに、逃げなくては」
もちろん、今倒した方が後で狙われるよりも危険は少ない。だが、サクラザカにそんな体力は残っていなかった。
「どこへ行くつもりだ?」
すると、目の前にあの少年がいた。
サクラザカは、足を赤く発光させる。
グワワアーン
「ん? なんだあ?」
能力を発動し、足を黒くする。
ドシュンッ!
サクラザカは少年の腹を蹴り、突き飛ばす。そして、少年は地面に何度も叩きつけられ、倒れている。
「がっ! ……はっ……」
「ならば……あなたには容赦しませ……ん…………」
視界がぼやけていく。どうやら、サクラザカの肉体にも限界が来ていたようだ。しかし……。
がぶりっ。
自らの左手に噛みつく。ここで負けるわけにはいかなかった。
「早めにけりをつけなくては……」
「はあ? ずいぶんとなめられたもんだな」
その時、少年の周りで何かが浮いている。あれは短冊だ。盾の形をした短冊だ。
「10秒経過だ。お前の能力が発動してから」
「……何か……奇妙だ……」
その短冊には『罪悪感を重さに変える能力』と書かれていた。そして、それに対して、剣の形をした短冊が発生した。
「早く……殺さなくては!」
サクラザカは少年の近くに寄り、少年の顔を蹴る。だが、その威力はおかしかった。
「クククッ。だいぶ軽いなあ。ああ!」
剣の短冊には『軽くする能力』と書かれていた。まさか……この能力は……。
「これは相手の能力に対応した能力を作り出しているのか!?」
瞬間、サクラザカの顔を少年が殴る。サクラザカは自分の頭蓋骨を砕けるのを感じる。そして、建物を貫いて吹っ飛ばされた。
サクラザカは道路の真ん中で倒れ込む。そして、頭に傷をおったためか、嘔吐する。
「がはっ。くっ……。気持ちが……悪い……」
脚がおぼつかないが、それでも歩く。そして、目の前にいる少年に蹴り飛ばされる。
「………あっ…………」
サクラザカは大量の血を撒き散らしながら、飛んでいく。そして、道路の真ん中で倒れている。
少年はそんなサクラザカを見ながら言う。
「くっ……くくくくくっ……はっはっはっはっはっはっはっはっはっは! いやあ、さっき街で変な光線出して戦ってたやつを見てて良かったぜ。おかげで、俺は『移動したやつの近くに行く能力』を手に入れたんだからな!」
「……カゲ……ロウ……」
「だが、もう一人は死んじまったからなあ。能力を作れなかったのはすごく惜しい。……だが!」
少年はサクラザカのところに向かう。
「てめえを殺すのには、十分すぎるんだよ!」
サクラザカに……もう動くほどの体力は無かった。レベッカや団長、この少年と……連続で戦い、だいぶ血を使った。
もう、体に血が残っていないのだ。
「…………」
だが、サクラザカにとって重要なことはそれではなかった。
「……そうか……カゲロウは……勝ったんだな」
サクラザカの中で、くじけない何かがあった。それは意地だ。やっと見つけた希望をこのまま見捨てることなんて、サクラザカにはできなかった。
「死ねええ! 吸血野郎!」
刹那。
サクラザカが少年の手に噛みつく。
「あああ! てめえ! 離れやがれ」
少年は慌ててサクラザカを投げ飛ばす。同時に持っていた袋も投げ飛ばしてしまった。
サクラザカは宙に飛んでいる袋をつかむ。彼の口からは血がたれていた。
「よくも! よくも俺の血を吸いやがったな!」
「どうやら……君の魔素吸収レベルは0……。つまり、純粋な人間の血ってことだ。少量の血でも十分回復できる。これで……十分戦える!」
そういって、サクラザカにはある考えがあった。
それはとびきり愚かで醜い行為だが、最高の戦法だ。
サクラザカは少年とはまったく違う方向に走り出した。それは『逃げる』という戦法だった。
「なっ! てめえ! 逃げてんじゃねえ」
少年はサクラザカを追いかける。
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「なんだ……これ……」
カゲロウは頂上が崩れたアイザック塔を眺める。そして、近くへ行くにつれて、地面に落ちた飛行船が気になった。
多くの人たちが乗員の救出を行っていた。
「早く救助急いで!」
「こっちにも人がいるぞ!」
「民間人は入ってこないで!」
カゲロウはそんなところを見て、良い気持ちにはなれなかった。
その時、物陰から何かが動くのを見る。そこにはこの前出会ったばかりの財団の団長、ブラックがいた。彼は背中に少女を背負っていた。
「お前!」
「おっ。未来の英雄くんじゃないか。どうやら、今回の騒動はお前も一枚絡んでいるらしいな」
カゲロウにとって、その男は恐ろしかった。彼は数日前にその男に殺されかけたからだ。
「財団のトップが……何の用だ!?」
「まあ、そう焦るなよ。戦うつもりは無い。……良いことを教えてやるよ」
ブラックは笑いながら話す。
「さっきアトル湖近くの研究施設にサクラザカが飛んでいった。おそらく、そこに向かえば会えるだろう」
「……なんで、そんなことを教えるんだ?」
ブラックは少女の顔をちらりと見て、言う。
「ただの気まぐれだ。だが、あの男と仲間になるのはやめた方がいい。まあ……聞くか聞かないかはお前が決めろ」
「…………」
そして、ブラックは街の中に消えていく。
カゲロウはとりあえずは、ブラックの言うことを信じて、その研究施設に向かった。
「待ってろ……サクラザカ」




