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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第12話 最強の能力

 サクラザカは道の真ん中でその少年と向かい合う。


 少年はクリーム色の髪と青い瞳を持っていた。


「お前も確か異世界から来たらしいな。俺と同じように。」


「……? ということは君も同じということですね」


「ああ。そうだな。この街の特徴を表すなら、現代のヨーロッパの世界が荒廃しちまった感じかな……。そして、帝国に産業だけの街として利用され続けている。というところか?」


『ヨーロッパ』という単語を知っている限り、本当のようだ。


 まさか、1日の間に3人もの異世界転移者の存在を知ることができるなど、サクラザカは思いもしなかった。


「君も財団ですか?」


「あ? そんなもんに入るわけねえだろ」


 男はニヤリと笑う。


「だって、俺は一人で最強なんだからな。そう言えば、異世界から来た人間はなぜか強い特殊能力を持つらしいな。つまり、俺は超絶ラッキーボーイってことだろ」


 瞬間、少年はサクラザカに近づき、道の奥へ殴り飛ばす。


 その時、なぜか殴り飛ばした方向に少年がいた。まるで、ワープしたかのように。


 そして、その先でも彼は殴る準備をしていた。


「悪いが……てめえを倒して、最強への踏み台にさせてもらうぜ!」


 サクラザカは翼を地面に押しつけ、体を攻撃から回避させる。そのまま、少年に対して足を突き出し、顔に蹴りを食らわせる。


 少年は建物の壁にぶつかる。その衝撃で建物は崩れ、少年は巻き込まれる。


「今のうちに、逃げなくては」


 もちろん、今倒した方が後で狙われるよりも危険は少ない。だが、サクラザカにそんな体力は残っていなかった。


「どこへ行くつもりだ?」


 すると、目の前にあの少年がいた。


 サクラザカは、足を赤く発光させる。


 グワワアーン


「ん? なんだあ?」


 能力を発動し、足を黒くする。


 ドシュンッ!


 サクラザカは少年の腹を蹴り、突き飛ばす。そして、少年は地面に何度も叩きつけられ、倒れている。


「がっ! ……はっ……」


「ならば……あなたには容赦しませ……ん…………」


 視界がぼやけていく。どうやら、サクラザカの肉体にも限界が来ていたようだ。しかし……。


 がぶりっ。


 自らの左手に噛みつく。ここで負けるわけにはいかなかった。


「早めにけりをつけなくては……」


「はあ? ずいぶんとなめられたもんだな」


 その時、少年の周りで何かが浮いている。あれは短冊だ。盾の形をした短冊だ。


「10秒経過だ。お前の能力が発動してから」


「……何か……奇妙だ……」


 その短冊には『罪悪感を重さに変える能力』と書かれていた。そして、それに対して、剣の形をした短冊が発生した。


「早く……殺さなくては!」


 サクラザカは少年の近くに寄り、少年の顔を蹴る。だが、その威力はおかしかった。


「クククッ。だいぶ軽いなあ。ああ!」


 剣の短冊には『軽くする能力』と書かれていた。まさか……この能力は……。


「これは相手の能力に対応した能力を作り出しているのか!?」


 瞬間、サクラザカの顔を少年が殴る。サクラザカは自分の頭蓋骨を砕けるのを感じる。そして、建物を貫いて吹っ飛ばされた。


 サクラザカは道路の真ん中で倒れ込む。そして、頭に傷をおったためか、嘔吐する。


「がはっ。くっ……。気持ちが……悪い……」


 脚がおぼつかないが、それでも歩く。そして、目の前にいる少年に蹴り飛ばされる。


「………あっ…………」


 サクラザカは大量の血を撒き散らしながら、飛んでいく。そして、道路の真ん中で倒れている。


 少年はそんなサクラザカを見ながら言う。


「くっ……くくくくくっ……はっはっはっはっはっはっはっはっはっは! いやあ、さっき街で変な光線出して戦ってたやつを見てて良かったぜ。おかげで、俺は『移動したやつの近くに行く能力』を手に入れたんだからな!」


「……カゲ……ロウ……」


「だが、もう一人は死んじまったからなあ。能力を作れなかったのはすごく惜しい。……だが!」


 少年はサクラザカのところに向かう。


「てめえを殺すのには、十分すぎるんだよ!」


 サクラザカに……もう動くほどの体力は無かった。レベッカや団長、この少年と……連続で戦い、だいぶ血を使った。


 もう、体に血が残っていないのだ。


「…………」


 だが、サクラザカにとって重要なことはそれではなかった。


「……そうか……カゲロウは……勝ったんだな」


 サクラザカの中で、くじけない何かがあった。それは意地だ。やっと見つけた希望をこのまま見捨てることなんて、サクラザカにはできなかった。


「死ねええ! 吸血野郎!」


 刹那。


 サクラザカが少年の手に噛みつく。


「あああ! てめえ! 離れやがれ」


 少年は慌ててサクラザカを投げ飛ばす。同時に持っていた袋も投げ飛ばしてしまった。


 サクラザカは宙に飛んでいる袋をつかむ。彼の口からは血がたれていた。


「よくも! よくも俺の血を吸いやがったな!」


「どうやら……君の魔素吸収レベルは0……。つまり、純粋な人間の血ってことだ。少量の血でも十分回復できる。これで……十分戦える!」


 そういって、サクラザカにはある考えがあった。


 それはとびきり愚かで醜い行為だが、最高の戦法だ。


 サクラザカは少年とはまったく違う方向に走り出した。それは『逃げる』という戦法だった。


「なっ! てめえ! 逃げてんじゃねえ」


 少年はサクラザカを追いかける。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「なんだ……これ……」


 カゲロウは頂上が崩れたアイザック塔を眺める。そして、近くへ行くにつれて、地面に落ちた飛行船が気になった。


 多くの人たちが乗員の救出を行っていた。


「早く救助急いで!」


「こっちにも人がいるぞ!」


「民間人は入ってこないで!」


 カゲロウはそんなところを見て、良い気持ちにはなれなかった。


 その時、物陰から何かが動くのを見る。そこにはこの前出会ったばかりの財団の団長、ブラックがいた。彼は背中に少女を背負っていた。


「お前!」


「おっ。未来の英雄くんじゃないか。どうやら、今回の騒動はお前も一枚絡んでいるらしいな」


 カゲロウにとって、その男は恐ろしかった。彼は数日前にその男に殺されかけたからだ。


「財団のトップが……何の用だ!?」


「まあ、そう焦るなよ。戦うつもりは無い。……良いことを教えてやるよ」


 ブラックは笑いながら話す。


「さっきアトル湖近くの研究施設にサクラザカが飛んでいった。おそらく、そこに向かえば会えるだろう」


「……なんで、そんなことを教えるんだ?」


 ブラックは少女の顔をちらりと見て、言う。


「ただの気まぐれだ。だが、あの男と仲間になるのはやめた方がいい。まあ……聞くか聞かないかはお前が決めろ」


「…………」


 そして、ブラックは街の中に消えていく。


 カゲロウはとりあえずは、ブラックの言うことを信じて、その研究施設に向かった。


「待ってろ……サクラザカ」

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