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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第8話 『闘争』

 俺はサクラザカを連れて歩く。そして、こいつをアイザック塔の内側に寝かせる。


「……くっ!」


 俺がこいつを信じていれば、こんなことにはならなかった。


「この償いは、あの男を倒して……果たしてやるからな」


 人形と自分の位置を入れ替える。


 バッ……ドスッ


 場所は変わらず、あの道路だった。


「あいつはどこだ? まだそう離れてはいないはずだ」


 瞬間、後ろから気配がする。


 バシリリシシシリリリッ!


「ぐおっ!」


 とっさにシールドを展開し、やつの攻撃を受け止める。その攻撃は力強く、シールドとの間に火花が散っていた。


 その衝撃で、俺もあの男も吹っ飛んだ。お互いの間に距離ができる。


「ほう。さすがは財団狩りをしていただけはあるな。まさか、俺の位置を勘で気づくとは」


「まあ、目に見えなくても、お前の位置はだいたいわかる。お前らのようなクズは皆、同じようなことを考えるからな」


「クズ……か。心外だな。まあ、いいや。どうせお前は一人じゃあ何もできないからなあ」


 男は足を赤く発光させる。俺は男に対し、光線を撃ち込む。


 だが。


「甘いぜえ」


「なに!」


 男は光線をすり抜け、一直線に進んできた。俺はすかさずシールドを展開する。


 男の足は光を失い、今度は腕が赤く光る。


 バシュッ!


 一撃目は防御できた。しかし、


「まだまだだ!」


「くっ!」


 何度も、何度も殴ることによって、シールドにひびが入る。


「とどめだ! くらえ!」


 やつの腕がシールドを破壊し、こちらに向かってくる。


 バキンッ!


「なんだ!?」


 男は俺の体が急に移動することに驚く。男の攻撃は俺には当たらなかった。


 やつは地面を確認する。そこには橙色の魔石の破片が落ちていた。それは先ほど人形を吹き飛ばす時にできたものだった。


「……なるほど。落ちていた魔石の破片を踏み潰し、衝撃で回避したってか。……なかなか機転のきくやつだ」


 男は腕を握りしめ、言う。


「だがよお、あの吸血鬼よりも、お前の方が楽に倒せる。お前は近距離での戦いが苦手だな? なら、そいつと俺は相性が最悪だよなあ? 俺の特殊能力にも気づいているだろ?」


 俺は態勢を立て直し、やつの顔を見る。まるで、確実に勝ったと思っている顔を。


「ああ。お前の能力は『光を透過する能力』……だろ? それのおかげで今まで姿を隠していたんだな。だが、お前はたいして魔法に関しては強くないことがわかった。でなければ、わざわざ身体強化の魔法の位置を変えなくていいからな」


「そうだな。当たりだ。だがなあ、別に魔法が使えなくても、単純な腕力で潰せばいいだけだろうが!」


 男は地面を蹴り、こっちに向かってくる。俺は魔法でロープを作り出し、壁に引っ掛け、移動する。


「おせえぞ? どうした。移動速度はそんなもんか?」


 俺はやつから逃げながら、異空間から人形を取り出す。そして、緑の魔素を含んだ光線を作り出し、人形を光線とともにする。


 その光線を発射し、男に当てようとする。


「無駄なことしてんじゃねえぞ!」


 光線は男の後ろに人形を運ぶ。


 今だ!


 俺は能力を使い、自分と男の位置を入れ替える。


「なに!」


 男の背後を取った俺は足に身体強化の魔法をかける。


 光線のようなエネルギーの塊はすり抜けられてしまう。だが、殴ったり、蹴ったりする物理的な攻撃はすり抜けられない。


「くらえっ!」


 やつの後頭部に蹴りが炸裂する。


 だが。


「効かねえなあ。考えが甘いんじゃあねえか?」


「……なっ……に!」


 俺は足をしっかりと掴まれた。


「俺はフランケンの亜人だ。だから、ある程度の攻撃は身体強化をすりゃあ耐えられる。……てめえみてえな貧弱な攻撃じゃあ倒せねえんだよ!」


 俺は思いっきり投げられ、壁を壊し、廃墟の中に入る。


「うがっ!」


「お前の特殊能力は……見る限りだと位置を移動するものらしいな。だがよお……たとえ、いろんな場所から攻撃できたとしても、ダメージが入らないんじゃあ意味がねえよなあ」


 俺は再び光線を放つ。


「意味がねえって言ってんだろ! 学習しねえのか?」


 その時、光線は男ではなく、街灯に命中する。その光の源は黄色の魔石であった。そして、その魔石を光線は貫く。


「なに!」


 破壊された魔石は激しい光を放ち、男の目を焼く。そう……男は、周りの景色をみるために目だけは光を反射できないのだ。


 それがこの男の能力の弱点と言えるだろう。


「ぐおお! 何も見えねえ。野郎。やりやがったな!」


 男はしばらく、道路で暴れていた。


 この街の街灯は古いからか、黄色の魔石を使っているものが多い。だから、目潰しをするには格好の道具なのだ。


 やつが見えていないうちに早くここから距離をとらなくては――。


「お兄ちゃん。何をやっているの?」


「……は?」


 俺はその声の方に振り向く。そこには手に奇妙なものを持った少女がいた。


 なんでだ。なんで民間人の子どもがこんなところにいるんだ。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「なあ。こんな建物で何をやっていたんだ?」


 俺はその少女に問いかける。今は廃墟の二階にいる。


「家に帰ろうとしても、帰れなかったの」


「……要するに迷子ってやつか」


 これはまずい。あの男はこんな子どもがいたとしても、容赦なく攻撃をしてくるだろう。


「早く出ないとな。……ところでさっきから気になってたんだが……それってなんだ?」


 俺はその少女が手に持った奇妙なものを問いかける。


「フウセンって言うんだよ。さっきお姉さんにもらったんだ」


「そうか……。それって浮いてるのか? 良ければ、ちょっと見せてくれないか?」


「うん。いいよ」


 少女は俺にそれを渡そうとした。


「あっ」


 だが、うっかりそれを離してしまった。


 フウセンは浮かび、天井に引っかかる。それを俺は取り、確認する。


「ここが屋内で良かったな……」


 俺はそのフウセンを眺め、考える。


「なあ。これちょっと借りてもいいか?」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 俺とその少女は一階に行く。


「……いいか。すぐに外に出るんだぞ。わかったな?」


「うん!」


 俺は少女をかかえ、出口に向かう。おそらく、やつはすでに建物の中にいる。そして、攻撃をしてくるはずだ。


 少女を外へ投げる。


 その瞬間。


 グシュウウウッ!


「うっ!」


 腹にとてつもないほどの力が与えられる。そして、貫き、俺の体に穴を開けた。


「お兄ちゃん!」


「かまうな! 早く逃げろ!」


 腹を貫いたものが姿を現す。それはさっきの男の腕だった。


「正義のヒーロー気取りか? ガキを助けるために自分を犠牲にするなんてなあ。まあ、こっちとしては好都合だったぜ。苦労をせずにお前を殺せるからなあ」


 だんだんと俺の体の力が抜けていく。腹から大量の血が出ているのもわかる。


 だが、まだ俺は…………。


「……なんだ?」


 男はその現象に驚く。腕が抜けないのだ。まったく、ピクリともしないのだ。


「なんだこれは!」


 男は自分の腕に緑の魔素がくっついているのがわかった。それはやつの腕と俺の腹を固定する。


「……奴隷ってのは……お前らのような財団に散々こきつかわれた挙げ句、簡単に捨てられる。それを俺たちが許すと思ったか?」


 俺はやつの腕をしっかりとつかみ、続ける。


「お前はフウセンってものを知ってるか? 物を浮かせることができる道具だ。例えば、そいつに『人形』をつけたら、どうなると思う? 今、その人形は空高くまで飛んでいってるぜ」


「まさか! てめえ! 位置を入れ替えて、落下で俺を殺そうとしてやがるのか!? 正気か!? てめえも死ぬ可能性がたけえんだぞ!」


 男の顔は焦りで満ちていた。そんな顔を眺め、俺は言う。


「俺たち奴隷は……犠牲だ。この腐った世界の……。そのことはもう認めてやるよ。仕方ねえから。……だがよお、てめえらも一緒に犠牲になってもらうぜ!」


 その時、俺たちは地上から姿を消す。

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