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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第7話 暗闇が覆い、戦いが始まる

 俺は、駅から歩き出す。アイザック塔はそれほど遠くないため、歩いて10分ほどだろう。


 そんな中、後ろのやつが話しかける。


「……カゲロウ?」


「あ? どうした?」


「君は魔法について詳しいんですか?」


 俺は突然の質問に対し返答する。


「まあ。それなりに詳しい方だど思うけど?」


「でしたら……紫と緑の魔素について教えてもらえませんか? その魔素については詳しくないので」


 紫と緑の魔素……か。そういえば、爺さんも言ってたっけ。


 赤や青、黄色はほとんどの人間が使えるが、紫、緑あたりは扱う人間自体が少ないって。魔法のレベルも比較的高いからでもある。


「まあ。目的地までの話の種にでもなるか」


 俺は近くの魔素を引き寄せ、その中の紫の魔素を指さす。


「紫の魔素は主に『硬化』の力を持っている。これは硬い物を作る時に使われる」


「あのシールドに作っていた魔素ですよね」


「ああ。そういう風に使われる」


 そして、今度は緑の魔素を引き付ける。


「これは『固定』の力がある。物をくっつける時に使われる。俺がお前の足を地面に張り付けたようにな」


 サクラザカはその魔素を引き寄せ、何かを考えている。


「どちらも結構レベルが高いですよね」


「そうか? まあシールドはレベル60だし、接着魔法はレベル50だしな。見たところ、お前の魔素吸収レベルは人間の時に30、吸血鬼の時に90ってところか。……だいぶ、レベルを食うな。……じゃあこいつはどうだ?」


 俺は紫と緑の魔素を同じ量だけ組み合わせ、螺旋状にする。そして、一本の綱を作る。


「これは二つの魔素を組み合わせたロープだ。……これならレベルは20だし、応用の幅も広がるだろう」


「……そうですね。まずはそれからやってみようと思います」


 サクラザカはそれらの魔素を組み合わせていく。だが、すぐに途切れてしまう。


「……やはり、光の槍とは違って長いですからね。どういったイメージでやればいいのか……」


「……そうだな。……繋がってるイメージを作ればいいんだが……まあ練習あるのみだな」


 サクラザカは魔素を放し、散らせる。


「……そうですね」


 サクラザカは自分の手を眺める。


「……仕方ないことなんだ。僕はやらなくちゃいけない……」


 そんなことを呟いていた。俺はその言葉の意味がよく理解できなかった。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 どのくらい経ったのだろうか。


 各地を転々とし、今はこのユニギリムにいる。そして、何度もあの紙切れを落としているのだが、いまだにアイザック塔に誰かが来た痕跡が無い。


「来週にはこの街を出ようかな。そろそろ荒れてきそうだし」


 ふと、道沿いで五歳ほどの少女が泣いていた。私はその少女に近づき、話しかける。


 あまり時間が無いのに……何をやっているんだ。私は。


「……どうしたの? こんな時間に……お母さんは?」


「うう……ヒック……リリ……ちゃんが……お母……さん」


 少女は焦りでパニックになっていた。言葉もはっきりしない。


 これはまいったなあ。


 その時、私の頭にある物が浮かんだ。


「ちょっと待っててね」


「……えっ……ヒック……」


 私は持ってきたビニールのような物でできた袋を取り出し空気を入れ、赤い魔素を与える。そして、それに紐をつける。


 すると、それは一つの風船になった。


「ほおら。風船だぞー」


「ふう……せん……?」


 ああ。確かこの世界には風船は無かったんだっけ。


「これはね……どんどん浮かんじゃうものだよ。紐を放すと飛んでっちゃうから気をつけてね」


「……うん。ありがとう。おねえちゃん」


 その風船をもらうと少女は少し気持ちが落ち着いたようだ。改めて事情を聞いてみる。


「どうして、ここにいるの? 何をしていたの?」


「リリーちゃんを探してたの。お人形さんなんだけどね」


 なるほど、どこかに落として来ちゃったそうだ。この子を家まで連れていってあげたいところだが、今はそんな余裕がなかった。


「今日はもう遅いから、明日また探しに行きなさい。早く帰らないとお母さんが心配するわ」


「うん。わかった」


 そう言って、少女は道を走る。それを見届け、私も歩く。


「どうか、あの子が無事でありますように」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 サクラザカとカゲロウは道路を歩く。


 すると、サクラザカは何か後ろに違和感を感じた。


「……カゲロウ」


「ああ?」


「誰かついてきています」


 カゲロウは驚き、振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。


「誰も……いないぞ?」


「…………」


 サクラザカは奇妙に感じた。確かに今、空気の流れが変わり、ついてきている感触がした。


 二人は念のため魔素探知を使う。だが、近くに誰かがいる気配は無い。透明化の魔法を使っているなら、すぐに気づくはずだ。


「……すみません。僕の勘違いだったようです」


「……おいおい。勘弁してくれよ? いつ敵が現れるか、わかんないんだからな」


 そのまま、二人は歩き出した。だが、再びあの感触がサクラザカを襲う。


「カゲロウ! やっぱり誰かついてきていますよ!」


「……はっ? いったい何を言っているんだ? 敵なんて見えないぞ」


 カゲロウはサクラザカが左手に噛みついているのを見る。


「まさか……そんな……ありえない。やつはもうすでに」


「おい!? 何を言っているんだ。頭でもおかしくなったか? 敵は誰もついてきてないっつってんだろ」


 その直後だった。カゲロウは自らの横に魔素の動きを感じた。それは主に赤い魔素が集まっていた。


「えっ?」


「カゲロウ!」


 その魔素は腕のような形を取り、カゲロウに向かってきた。


 同時に、カゲロウには反対側から押される感触があった。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


「サクラザカ! お前!」


 サクラザカがカゲロウの体を思いっきり押したのだ。しかし、その影響でサクラザカの方に攻撃があたる。


「がはっ!」


 殴られた箇所は大きくへこみ、サクラザカの体を押し出す。そして、サクラザカは道の奥へと吹っ飛ぶ。


「サクラザカ!」


「いやあ。その兄ちゃんも甘いなあ。まさか自分を犠牲にして、他人を助けるとは」


 誰もいないその場所から声がする。そして、そこから一人の男が姿を現す。


「俺はガレオ。ヴェルル財団の団員……といえばわかるか? 確か……お前はカゲロウと言ったか?」


「……財団なんかが何の用だ? 俺たちに」


 その男は嘲笑うかのように言う。


「俺たちの部下が次々とやられてるって聞くんでな。だから殺しに来た。当たり前だろ?」


 カゲロウはそれを聞くと、サクラザカの方に走り出す。そんな彼に男は言う。


「逃げても無駄だぜ。どうせ、会ったら俺の攻撃を受けて終わりだからな」


 サクラザカの負傷は大したことはなかった。攻撃を受ける前に血を吸ったため、吸血鬼になったからダメージを最小限に抑えられたのだろう。


「サクラザカ……すまねえ。俺がちゃんと気をつけていなかったから」


 カゲロウは異空間から人形を取り出す。そして、橙色の魔石と一緒に投げる。


 光線を発生させ、魔石を貫く。すると、魔石は爆発し、衝撃で人形は遠くに吹っ飛んだ。


 数秒後、カゲロウはサクラザカの体に触れる。


 彼らは一瞬で消え、人形がその場に残った。


 男は道路の真ん中で立っていた。


「ちっ。面倒なことになったな。んっ?」


 ポケットから通信機を取り出す。


「よお。団長。どうかしたか?」


『仕事の方は順調か? ガレオ』


「おうよ。一人気絶させた。あと一人もおそらく簡単に倒せるだろうな」


『そうか。……レベッカを送る。どこへ行かせればいい?』


 その質問をされ、良い気持ちにはなれなかったが、男は言う。


「……そうだな。あの人形は確か……アイザック塔の方に向かってたな。そこに向かわせてやってくれ」


『わかった』


 ブツッ


「まったく団長は用心深いやつだな。俺だけで十分なのに……。まあ、そうでなくちゃ団長なんてやってられないがな」


 暗闇の中、一人の男が路上に立ち尽くす。


 そして、長い夜が始まる。

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