表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
23/119

第2話 背負うべきもの、背負うべきではないもの

 カゲロウは、校舎の中に入った。そこは、ひどく壊れていて、すぐ崩れそうな建物だった。


「まったく……この街はこんなもんばっかだな」


 そして、魔素の動きを読む。


「なるほど……。やつは中央廊下を通って、奥の校舎の方に行ったのか」


 カゲロウは走り、廊下の様子を見る。静かだった校舎がより彼を注意深くする。


 ピシッ


 一歩足を踏み出すと、地面から光線が走った。


「いたるところにトラップが仕掛けられているのか……。ならば」


 カゲロウは魔素探知を発動し、トラップの位置を把握する。


 そして、それに対し光線を打ち込み、トラップを破壊しながら校舎を進んでいく。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 カゲロウはある教室にたどり着いた。


 そこは美術室だった。


「やはり、トラップには引っ掛からなかったようですね」


 灰色の髪の少年が教卓に座っていた。カゲロウは問いかける。


「なぜ、不意討ちをしなかった。そんなタイミングはいくらでもあっただろうに」


「……そうですね。ただの気まぐれです。言うなれば、あなたには自分と似たものを感じるんです」


「似たもの……か。さすがにお前ほどイカれてるようには思えないがな」


 美術室の中は空気が重かった。カゲロウはサクラザカの足がすでに黒く染まっていることに気がつく。


「さて……始めましょうか」


「……ああ」


 瞬間、サクラザカは教卓を蹴り飛ばし、カゲロウの方にぶつける。もちろんカゲロウはこれをシールドで防御する。


 その時間を使い、サクラザカは天井を剣や光の槍で破壊する。破壊された天井は瓦礫に変わり、カゲロウのところに落ちてくる。


 カゲロウはシールドを再度使い、瓦礫から身を守る。だが、瓦礫の中から急にサクラザカの姿が現れた。


「くっ!」


 サクラザカは身体強化し、重くなった蹴りを食らわせる。シールドは割れたガラスのように散ったが、カゲロウは直感で攻撃をかわす。


 下から、サクラザカは剣を持って切りつける。剣先がカゲロウの頬をかする。


 同時に、カゲロウも反撃の3本の光線を放つ。光線はすべてサクラザカに命中し、こげた傷に作る。


 それでも、サクラザカはひるまない。左手に光の槍を作り、それでカゲロウを突き刺す。


「……ククっ」


「……!?」


 カゲロウは深い傷を負っているというのに、笑っていた。そんな彼をサクラザカは奇妙に思う。


 槍を突き刺された後、手のひらを赤く発光させ、光の槍をつかみへし折る。だが、今度はサクラザカの右手の剣が降りてくる。


 剣に切りつけられる前に、カゲロウはサクラザカの腹を蹴り飛ばす。サクラザカは壊れた天井から上に飛ばされた。


 美術室の上に階はなく、屋上が広がっていた。そこに、カゲロウは身体強化で飛び、追い討ちをかけていく。2本の光線でサクラザカの体を貫く。


「がはっ」


 負傷が多かったため、サクラザカは血を吐いた。だが、すぐに脚に力を入れ、屋上の向こうへ走ろうとする。


 しかし、カゲロウはその場面を逃さない。7本の光線を生み出し、サクラザカめがけて発射する。


 サクラザカは手に持っている剣に武器強化の魔法をかける。そして、それを振りかざし光線を次々と破壊していく。


 それでも、やはりすべてかわすことはできず、いくつかの光線に体を貫かれる。


 これまで耐えてきたサクラザカも今回の攻撃にはひるんだ。その瞬間をカゲロウは逃さずに、攻撃する。


「これで終わりだ。サクラザカ!」


「くっ!」


 カゲロウが光線を放つ前に、サクラザカは床に剣を突き刺す。すると、屋上の床は崩れ、サクラザカは下の階に落ちる。


「逃がすか!」


 放たれた光線は障害物を乗り越え、サクラザカの首に直撃する。


「が……はっ」


 サクラザカはその部屋で倒れる。そして、立ち上がろうとしたが手足に力が入らず、うまく立てなかった。そこにカゲロウの身体強化した蹴りが向かってくる。


「あばよ! サクラザカ! そのまま俺に蹴り潰されろ!」


 瞬間、サクラザカは橙色の魔石を壊した。


「お前! まだ隠し持っていたのか!? だが、その魔石は小さい。もうそれでは小規模の爆発しか起こせない。俺を爆風で倒すことなんてできないんだよ!」


「それは違います! 僕は爆発であなたを倒そうとしているわけじゃないですよ」


 爆発の衝撃で、サクラザカは空中に浮かぶ。そのおかげで攻撃をかわし、カゲロウの背後をとった。


「しまっ!」


 サクラザカは身体強化した手でカゲロウを床におしつける。そして、一気に下の階まで突き抜ける。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


「ぐはっ」


 防御も身体強化もしていなかったカゲロウにとって、この攻撃は大きなダメージだった。おそらく、地面に叩きつけられるまで続けていたら、カゲロウの肉体は粉々になっていたであろう。


 だが、サクラザカは一番下の階にたどり着いた時点で攻撃をやめた。


 カゲロウの体は重症だったが、命は助かった。


「なぜ……途中で……攻撃をやめたんだ?」


 サクラザカは何も言わずにカゲロウの手首に噛みつく。しかし、すぐに離した。


「やっぱり……人間の血が薄い亜人は血を吸っても効果が無いな」


「質問に……答えろ……」


 サクラザカは黒い瞳をカゲロウに向ける。


「あなたが……優しい人……だからです」


「なに?」


 サクラザカは廊下の方を指差す。すると、誰か人が歩いてくる。


「ねえ。さっきの地震。ちょーやばくなかったー」


「もう。すごい揺れだったよねー。早く肝試しなんてやめようよー」


 二人の一般人の少女が歩いていた。どうやら彼女らは廃墟に肝試しに来ていたらしい。サクラザカはその様子を見せ、言う。


「あなたは彼女らの存在に気づいていた。位置も正確に。だからトラップを破壊していったんじゃないですか……? あなたは他人を守ることを優先した。でなければ、僕がトラップに引っ掛からなかったことを知っているわけがないじゃないですか」


「……あははっ」


 カゲロウは自分に呆れて笑う。


「……ははっ。なるほど……俺は最後にとんでもない罪をかかえていたってことか。戦いの最中に関係のない人物を巻き込みたくないっていう罪を……。これはお前に対して無礼だったな」


「……そう……ですね」


 サクラザカはカゲロウの前に座り、回復魔法をかける。


「でも……その罪は……裁かなくていい罪だと思います。あなたはそれを抱えたままの方が良い人間になれると思います」


「サクラザカ……お前……」


 サクラザカは立ち上がる。そして、カゲロウに手をさしのべる。


「あなたは危険な人物ではなかった。僕は……あなたに協力してほしいと思っています。これから、ヴェルル財団を潰すために……僕を力を貸してくれませんか?」


 カゲロウは笑った。そして、サクラザカの手をつかむ。


「あははっ。こんだけ殺しあって仲間になってほしい……か。おもしれえや。こっちからもよろしく頼む。どうせ、財団を潰すっていう目的は同じなんだからな」


 そして、二人は共に戦うことを決めたのだった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「んで、どうするか」


 完全に体の傷が治ってから、出た問題はそれだった。


 サクラザカもカゲロウも基本一人で悪人を狩っていたため、あまり他の人との関わりが無かった。


「やっぱり、財団を倒すためにも財団をよく知っている人に事情を聞くか、直接財団の頭を叩くのがベストでしょうか?」


 そのサクラザカの提案を聞いて、カゲロウは言葉を返す。


「……後者は確実に無理だ。まず会うこと自体難しいし、会ったとしても財団のトップは強すぎる。今の俺たちじゃあ歯が立たない」


「そこまで強いんですか?」


「ああ。なんせ、つい先週そいつに会ったからな。できれば、もう会いたくないほど強かった。だから前者、よく知っている人に聞くのが一番ベストだろうな」


 サクラザカはそこまで人との関わりが無かった。なんせ、ひたすら財団のメンバーを倒していたからだ。


「悪いですが、僕は人脈があまりないです。カゲロウはどうですか?」


「まあ。無いことは無いんだけどなあ。あそこに行くのは気が引けるっていうか。あんまり行きたくないんだよ」


 その時、カゲロウの表情は苦い顔をしていた。サクラザカにはその意味がわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ