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異世界の執行人  作者: Kyou
第1章 平和な日々
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第18話 『決断』

 サクラザカは男の死体の襟を引っ張り、森へ投げ捨てる。


 同時に雨が降ってきた。


「……行こう」


 そして、少年は歩き始める。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 彼が外から戻ってくる。


「サクラザカ……大丈夫……?」


「ええ……お嬢様……」


 サクラザカは私のもとに歩く。


「ねえ……サクラザカ……。今度……一緒に川に釣りをしにいかない」


「…………」


「一緒に森にキノコ狩りにも行こう」


「…………」


「一緒に料理も作って」


「…………」


「一緒に……。一緒に……」


「…………」


「……どうして……何も喋ってくれないの?」


 サクラザカのその目に希望などは無かった。ただ、自らの赤く染まった右足を見ると、目を閉じる。


「……お嬢様。……一つ……お話があります」


「……どうしたの?」


 彼は目を開け、こちらを見る。


「今日で……執事をやめさせていただきます」


「……えっ」


 私は状況を捉えられずにいた。そんな私を置いて、彼は扉の方へ向かう。


 待ってよ……。


 彼は止まらない。


 ねえ……。なんで……?


 彼は扉を開ける。


 どこへ行くの……?


 彼は扉の向こうへ行く。


 ……どうして……?


「待って! サクラザカ!」


 その叫びは彼に届かず、扉は閉じる。私と彼の間に大きな結界が張られたようだった。


「……どうして……。どうして皆私を置いていくの……?……サクラザカ。……お母様」


 少女は十二年ぶりに泣いた。胸が苦しく、切ない思いになった。


 窓から入ってくる雨が書斎の本を濡らす。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 サクラザカは廊下を歩く。右腕がまだ治りきっていないからか、血が流れていた。


 その少年には、表情というものが感じられなかった。


 道中、少年はある男の死体を見た。その死体はよく見なければ、眠っていると勘違いするぐらい和んだ表情をしていた。


「僕は……まるで死体ですね」


 サクラザカは死体の前に立ち、お辞儀をする。


「ライリーさん……。今までありがとうございました」


 そして、少年は再び廊下を進む。その廊下に見られる扉の向こうには数々の思い出があった。彼はそれを振り返りながら、エントランスに向かう。


 ……だが、彼の体が変わり果てた姿になっていることは明白であり、この館にはまったくなじんでいないことを感じた。


 エントランスにたどり着き、出口の扉を開ける。そこには依然として、騎士たちの死体が庭を飾っていた。


 そして、門から誰かが入ってくる。


「……クロエさん」


「やあ。サクラザカくん。元気にしてたかい?」


 彼女は苦笑いをし、サクラザカに話しかける。


「まさか、私がいない間にこんなことが起こっているとはね」


「…………」


 サクラザカは花の道を行く。そして、彼女の前を通りすぎる。


「クロエさん……僕は……ヒーローになんかなれません……」


「……そうかい……」


 クロエは空を見上げ、目を閉じる。


「……悲しいなあ」


「…………」


 サクラザカは門の向こうへ行く。そして、森の奥へと消えていく。


 クロエは振り返り、彼の姿を確認しようとするが、もう姿を消していた。


「……それが……本当に君のしたいことなのかい?」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 彼は森の中を進む。だいぶ時間が経っていただろう。


 あるところで二人の山賊に出くわした。


「おいっ! そこのクソガキ! 持ってるもん全部出しな! じゃなければここで殺すぜ!」


 男の一人は短刀を突き立てながら、そう言った。


 それでも、サクラザカは進もうとする。


「なあ? こいつ気味がわりいよ。生きている感じがしねえ」


「ああ。何言ってんだ? こんなひょろそうなやつはすぐに殺せるに決まってんだろうが」


 サクラザカはある言葉に引っ掛かり、振り向く。


「君たちの罪は平気で人の命を奪おうとしたことだ。そして……君たちの罰は……」


 男の一人が叫ぶ。


「てめえ! なめてんのか!? 今、ぶっ殺してや」


 瞬間。男の口から上が吹っ飛んだ。雨に血を混ぜながら、その頭は地面に落ちる。


「ひっひいいい」


 もう一人の男は地面に倒れる仲間の死体を見て、怯えていた。サクラザカはその男にも近づく。


「頼む! 許してくれ! もう手出しはしない。だから助けてくれ!」


「…………」


 サクラザカは男のいる場所とは逆の方向に向かう。


「良かった……ありが」


 その時、男の体が左右に真っ二つに割れた。


 サクラザカは進み続ける。そして、きっとあの館に戻ることなど無いのだろう。


 自分の右手を握りしめ、完全に治ったのを確認する。


「……この世界の……お嬢様に危害を加える者は絶対に許さない。そんなクズ野郎は今すぐ惨殺する」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「クロエさんじゃないですか。どうしたでござるか?」


 カッパの少年は川でその女性に話しかける。


「やあ。サブローくん。元気そうだね」


「まあ、最近は新聞づくりで忙しいですからね。何かと充実してるんでござるよ。ところで……今日は荒れているでござるね」


 豪雨の中、川は濁った水を運び、流れていた。


「一つお願いしてもいいかな?」


「なんでござるか?」


 クロエは今まで起きたことを話し、あることを頼む。


「なるほどお。そういうことでござるか。それならお安い御用でござるよ。いつもの仕事の方が大変でござる」


「ありがとう。サブローくん」


 二人は改めて、川の景色を見ていた。


「やっぱり、この景色はライリーに見せたくないなあ」

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