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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第53話 壊れかけのカタナ

 気がつくと、目の前には血で染まった部屋が広がっていた。


 ただ、ひたすら冷静に、その肉片を潰していた。


 兄だけではなかった。その後、帰ってきた父と母も、姿を変えていた。


 ……もっとも、今は見分けなどはつかなくなっていたが。


「……あ……ああ」


 姉さんは僕の後ろで体を震わせていた。


「…………」


 そんな彼女に僕は微笑み、言う。


「……これでもう大丈夫だよ。姉さんに暴力を振るう人間はいない。だから安心――」


「ウヌク!」


 その時、彼女は僕を抱きしめる。


 異様なほど冷たい手が僕の頬に触れる。


「ごめんね」


「……えっ?」


「あなたの手を……私のせいで汚してしまった」


「……何……を」


――違う。違うよ。姉さん――


 僕の笑みはだんだんと崩れていく。そして、口を震わせる。


――僕は……姉さんに……――


 そして、その頬に涙を流す。


――姉さんに……褒めてほしかったんだよ――


「……ああ」


 僕は、やっと理解した。


 僕に与えられた力は、誰かを守る力ではなく……誰かを傷つける力だったことを……そして。


「……ごめん。姉さん」


 誰かを殺すことが……必ずしも、誰かを守ることに繋がらないことに。


「ごめん。ごめん」


 ひたすら、僕は姉さんに謝った。


 気がつかないうちに、僕は姉さんを傷つけていた。


 ……もう取り返しのつかないことをしてしまった。それはただ、虚しいだけの空間を作り出していた。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 とある牢屋に、僕は囚人として捕らえられていた。


 腕を重厚な金属の手錠で固定される。また、それが赤く発光していることから、武器強化の魔法が付与されていることがわかる。


 だんだんと時間が経つにつれ、僕は痩せ細っていった。だが……1ヶ月何も食べていないというのに、僕は生きていた。


 空腹が、嫌に意識を鮮明にする。


 あれから……姉さんはどうしたのだろうか。


 一人ぼっちで、寂しくないだろうか。


「……はは」


 僕は自らを嘲笑う。……姉さんを一人にしたのは、紛れもなく僕だったからだ。


 起きてしまったことをどうこう言うつもりは無いが、それでも姉さんのことが心配だった。


 罪人として、こうやって牢屋に入れられて、僕は家族というものの大切さを考えさせられた。


「…………」


 一人ぼっち……。それは僕自身も変わらないものだった。


 ただ、妙に虚しかった。その牢屋の中では。


「……アリア」


 ようやく、彼女の言ったことがわかった。あのせまい庭の中でも我慢できた理由というのを、身に染みてわかった。


「…………」


 その時だった。


 外で大勢の悲鳴が聞こえてきたのは。


「…………」


 なんとなく……予想してみる。


 おそらく、反乱軍が帝国を崩壊させようとしているのだ。


「……姉さん」


 少し……心配になった。


 だから、腕に身体強化の魔法をかけ、思いっきり手錠を引きちぎる。そして、目の前の鉄格子を折り曲げ、そこから出る。


 すぐに走った。走って、自らの家に向かう。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 家には……誰もいなかった。


 ただ……燃え盛るそれは、夜でも明るく輝いていた。


「…………」


 姉さんは……たぶんどこかへ逃げた。そんな気がした。誰かがいたという熱を感じなかった。


 そう思い……僕は牢屋にある収容所に戻ろうとした。


 そんな時だった。


「ああああああああああああああああああああああああ!!」


 誰かが叫ぶ声が聞こえた。


 興味本位に、僕はそちらへ足を踏み出す。


 その路地には、黒髪に狼のような耳を生やした男が騎士たちを殺していた。


 何人も何人も、騎士の鎧を剥ぎ取り、その首を噛みちぎる。その姿はまるで悪魔のようだった。


 そんな彼は……意識が朦朧としているのか、こちらに向かってきた。


 少し、事情を聞きたかった。だから……。


 バシっ。ビシっ!


 両足を強く蹴り、その骨を折った。


「がはっ!」


 バランスを崩した彼は、その場に倒れる。


 僕は……そんな彼を見下ろしながら、いろいろと質問をした。


「なぜ、暴れていたの?」


 そう問うと、しばらく経って、冷静になった男は言う。


「……家族を……失った」


「家族?」


「……妻は死に、娘はどこかへ連れさらわれた」


「…………」


 なんとなく……この男と僕の境遇を重ねた。


 だから、こう言った。


「……まだ、その娘は死んでない。その可能性があるんですね?」


「えっ。……ああ」


 そう男が返すと、僕は小さい手で、その男の胸ぐらをつかみ、言う。


「なら……最後まで、希望を捨てるな」


「…………」


「その娘を助け出すために、全力を尽くせ」


 その時点で……僕の中で、牢屋に戻るという気持ちは消滅していた。


 代わりに生まれたのは、どんなことが起ころうと姉さんを守るという決意だった。


「そのために、僕は協力します。だから、あなたも……」


 つかむ力を強めて、言う。


「あなたも僕に協力してください。お互いを利用して……お互いの守るべきものを守るんです」


 それが、僕と団長の最初の出会いで、財団が生まれた瞬間だった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……がっ」


 壁を突き破り、崩壊した瓦礫の上に僕はいた。


 そんな僕を、灰色の髪の少年が見つめる。彼は僕の刀を持ち、じっと様子をうかがっていた。


 血だらけになりながらも、僕は氷の剣を握りしめ、立ち上がる。


 その場が……変わり果てた財団本部であること。それが僕の闘志を熱く燃やす。


 そして……守るべきものを守るために、僕は戦いたい。


「姉さん……僕に……」


 僕の頬にひび割れのような模様ができる。


「僕に……()()()をください」


 ヤマタノオロチの亜人、ウヌク。


 僕は、ここで財団の仲間を守る。そのために戦いたいんだ。

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