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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第41話 転移者

 とある路地裏を、彼は歩いていた。


「あの小僧……」


 彼……フレインタリアの王は目を大きく開き、壁を殴る。


「次会った時は確実に息の根を止めてやる」


「おやおや、次なんて無いかもしれないのに」


「……えっ」


 背後から突然、その男は姿を現した。


 黒い髪……そして、貼り付けたような爽やかな笑顔が特徴的な彼。


 それは、フレインタリアの王がよく知る人物であった。


「騎士長……セカンド」


「あははっ。久しぶり、テトラルキア」


 その直後。


「がはっ!」


 フレインタリアの王は腹部に蹴りを入れられる。


「ぐ……なんで、お前がこんなところに……」


「なんでって、昨日からは非番だから遊びに来てるだけだよ。ここ、フレインタリアに……。そしたら、無能な部下が任務に失敗してるのを見てさ。僕も用心深くなってるってこと……おわかり?」


「だが……なんで俺様を……」


「だ、か、ら、」


 瞬間、さらにセカンドは蹴りを入れる。


「うげっ」


「任務に失敗してるやつには罰を与えないといけないよね。君もあの子も同じなんだから、そうしないと不公平だよね」


 セカンドは優しく、フレインタリアの王……テトラルキアの指に触れる。


 そして……。


 ばぎっ!


「うっ……」


 その指を本来折れる向きとは逆方向に曲げる。


「うがあ!」


「あははっ。確か君、体が吸血鬼なんだよね。良かったー。すぐに治らなかったら、かわいそうだもん」


「頼む! もう許してくれ! 俺様だって、あんなやつがいるなんて知らなかったんだ!」


「……あんなやつ?」


 その時……セカンドの顔から笑顔が消える。


「あんなやつって、誰?」


「……確か……アルタイルってやつだ。あいつは魔法を打ち消す能力を持ってやがる。それに、他にも複数の能力を持ってるようにも見えた」


「複数の能力を……ね」


 ばぎっ!


 セカンドはさらにフレインタリアの王の指を折る。


「うぎっ……」


「それは少し面白いね。君が負けるほどだもんね。そんなに強い子なら、もしかしたら異世界転移者かな」


 再び、彼の表情には笑顔が戻る。そして、テトラルキアの手を離し、愉快にスキップをしながら、路地裏の外へ向かう。


「それじゃあ今回は見逃してあげる。でも、次失敗した時は……」


 その時、彼は振り向き、爽やかなで無機質なその笑顔をフレインタリアの王に送る。


「……まあ……指2本で済むといいね」


「…………」


 セカンドがその場から姿を消しても、テトラルキアの汗は止まらなかった。


 その言葉には、次やったら命は無い……という意味が含まれていたからだ。


「……ちく……しょお」


 彼は、アルタイルのことを呪った。


 そして、自らの左手に噛みつく。


「もっと……もっと強くならないと……」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 アルタイルとレベッカは、あの腕に穴の空いた少女の前にいた。


 そんな時、少女は話し出す。


「あの……助けていただきありがとうございます」


「あ? んなことはいい。それよりも、お前のその腕の方が気になる」


「……腕?」


 彼女は自らの腕をアルタイルたちに見えるようにする。


「これ……わからないんです」


「…………」


「私が目を覚ました時から、この穴はあって……」


「目を覚ました時?」


 アルタイルがそこに疑問を持つと、少女は頷きながら言う。


「私……とある街の近くのお墓の前で目を覚まして……その時から自分のことがよくわからなかったんです。なんていうか……そこで眠る前の記憶が無くて……。ただ、近くに……」


 アルタイルは彼女の次に言う言葉を用心深く聞いていた。


「首無しの……鎧の人がいたんです」


「……首無しの……鎧」


 それは今、フランチェスカという女性に最も近い人物だった。


「でも、すごくいい人なんですよ! 私、その人とフレインタリアまでやってきて、すごくよく面倒を見てくれて……。だけど」


 彼女は顔をうつむかせながら言う。


「街に来た途端、彼女は姿を消しました。おまけに……私の能力が暴走しちゃって……どうすればいいか、わからなくて……」


「あー。その点については問題無いと思うわ」


 レベッカはアルタイルは指さして、言う。


「こいつ、能力を打ち消すことができるし」


「そう……なんですか」


 アルタイルは首を鳴らしながら、視線を反らす。


「正確には、対応するんだけどな。都合よく打ち消せるかどうかはできた能力による。まあ、ほとんどがそういうのだけどな」


 そう言うと、背後に盾と剣の短冊を展開する。


「確か『反転させる能力』……だったよな」


「はい」


 その『反転させる能力』が盾の短冊に書かれ、次に剣の短冊に同じ能力が書かれる。


「へえ。『反転させる能力』には『反転させる能力』をってか。まあ、必然的にそうなるな」


 すると、アルタイルは短冊を出したまま、少女に近づく。


「ほれっ」


 そして、少女の肩に触れると……。


 ギュイイイインっ!


 辺り一体に衝撃が響く。


 少女はその光景に驚愕していた。


「これ……は……」


「おそらく能力が元に戻る時の影響だ。時空を歪めるほど能力が強かったってことだな。……安心しろ。建物が壊れることはねえから。ただ、能力のかかった奴らは少し意識が飛ぶ可能性はある」


「そう……ですか」


 少女は安心したような表情を浮かべ、うつむいた。


「……あ?」


 アルタイルには、その少女が涙を流しているのが見えた。


「こんな……私の能力のせいで、いろんな人に迷惑をかけて……私はこれから生きていいんでしょうか」


「……何言ってんだ?」


「あなたたちが来る前……あの男に言われたんです。……私は生きているだけで、迷惑をかける悪魔なんだって……。あの男はすごくひどい人間ですけど……それでも、言ってることは正しいと思うんです。私みたいなやつ……本当に生きていいんでしょうか」


「……あ?」


 アルタイルは少女の肩に触れ、不器用な笑みを向ける。


「なあに……他人に迷惑かけるのなんて当たり前だろうが。そんなんいちいち気にしてんじゃねえよ」


「…………」


「……迷惑かけちまったら、その分そいつを助けてやればいい。そうすりゃおあいこだ。だろ?」


「……そう……でしょうか」


 少女は顔を上げ、アルタイルとレベッカを交互に見る。


「そう……ですね。わかりました」


 そして、覚悟を決め、彼らに言う。


「私……これからは誰かを助けられるように頑張ります。たぶん……それが私がここにいる理由だから」


「……おうよ」


 アルタイルは少女を引き上げ、歩く。


「さて……んじゃ、そろそろ……」


 その時だった。


 バタっ!


「……えっ」


 アルタイルは視線を横に向ける。


「……レベ……ッカ」


 そこには、床に倒れるレベッカの姿があった。

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