第39話 強敵
アルタイルは塔の中を駆け巡る。
「てめえ!」
そうして、ようやく先ほど出会ったあの白髪の男に追いつく。
「……まだ生きていたのか」
男は振り返り、再び背中に紋章を出現させる。
「あいにく、お前のような小僧にかまっている暇は無い」
紋章から無数の光線がアルタイルに向かってくる。
「ちっ……」
それらを避け続け、男に近づいていく。
そんな姿を見て、男は階段を上っていく。
「てめえ! 待ちやがれ!」
「甘いな。……こちらはお前がそれ以上ハイスカイタワーを進めなければ、それで良いのだ」
「なっ!」
光線はアルタイルから標的を変え、目の前の階段を破壊する。
「この野郎!」
「おとなしく死ぬが良い」
その光線は再び、アルタイルに向かってくる。
「甘いのは……」
「……っ!」
瞬間、アルタイルはすぐ近くの壁を破壊する。
「そっちだぜ!」
壁の外にアルタイルは出る。そして、破壊したことにより剥き出しになった鉄骨に掴まる。
「……なるほど。間一髪のところで回避したか」
男はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。
「だが、それではお前は無防備だ。……次こそ終わりだ」
再び、紋章を発生させ、アルタイルを狙う。
「ここで死ね」
光線が一気にアルタイルに向かっていく。
「……っ!」
その時、アルタイルの体は大きく空を飛んだ。
そして、右肩から出ているアマノガワが……また別の鉄骨に掴まる。
「……無駄な足掻きを」
男は容赦なく、アルタイルに光線を撃ち続ける。しかし、それらをアルタイルは軽々と避けていく。
そして、ようやく男のいる高さまで上がってくる。
「おらあ!!」
アルタイルは男に飛び込み、アマノガワを叩き込む。
男もそれに対して、シールドを展開する。
「……っ!」
激しく光を発しながら、シールドにひびが入った。
「こいつ……」
男はシールドを置いて、後ろに下がる。
「黒い……魔素。……これを操れる人間は今まで一人しか見なかった」
男は眉間にシワを寄せ、さらに紋章を二つも展開する。
「思い出すだけでも、吐き気がする」
紋章から光線をアルタイルに向けて撃つ。
それらをアマノガワで受け止めながら、アルタイルは突き進む。
「てめえ! 遠くから攻撃しやがって! ちょっとは近くにきやがれ!」
その時だった。
「っ!」
男はその左手に噛みついていた。
「一つ……良いことを教えてやろう」
その左手からは血が流れ出していた。そして、その瞳は赤く光りだした。
「吸血鬼になれば、我々人間は魔素吸収レベルを大きくあげることができる。加えて、身体能力も大幅に上がる」
アルタイルが近づいた時、目にも止まらぬ速さでアルタイルの背後に移動した。
「お前なんぞが俺様に敵うと思うな」
「くっ!」
振り返った瞬間、アルタイルはその顔面を殴り飛ばされる。
「がはっ!」
「…………」
男は自らの肘を赤く発光させる。何重にも……何重にも身体強化の魔法を付加する。
「残念だ。もう少し感情的でなければ、あのお方に洗脳してもらえたというのに……」
その時、アルタイルの背中にその肘が叩きつけられた。
彼のその体はその階段を何層も貫き、はるか下へと向かっていった。
*****************************
それからしばらく経った。
「……生きて……る」
アルタイルは男に弾き飛ばされ、下の階へと落ちていた。
ふと……自分の腕が誰かに掴まれているのに気づく。それにより最下層まで落ちるのを防いでくれたようだった。
「……お前……」
「ふぬぬぬぬぬ!!」
そこには一生懸命に腕を支えるレベッカがいた。
「何……やってんだ」
「うっさい! 重いのよ! さっさと上がってこい!」
アルタイルは右肩からアマノガワを出し、レベッカのいるところまで上がる。
「…………」
何も言わないアルタイルにレベッカは問う。
「どうしたのよ」
「……いや……別に……」
「……はい?」
アルタイルは周りの景色を確認する。そこにいた騎士たちはすでにレベッカに倒されていたようだ。
「お前は……強いんだな」
「……え?」
レベッカは首を傾げ、アルタイルに異形なものでも見ているような瞳を向ける。
そんな彼女にアルタイルは言う。
「力量が……違いすぎたんだ。近づけば、勝てる相手だと思っていた。だけど、相手はそれさえ見越していた。いくらなんでも、強すぎんだ」
アルタイルはじっと床を見つめる。
「駄目だ。今の俺じゃあ、あいつには勝てねえ。まったく一体何者なんだか……」
「…………」
そんなアルタイルの顔を覗き込みながら、レベッカは言う。
「なんていうか……今のあなた……」
「…………」
「すっ……ごく……気持ち悪いんだけど……」
「……えっ?」
レベッカは鳥肌が立ったように身震いし、アルタイルから距離を取る。
「だって……団長にあそこまで強気だったのに、なんで今そんなに弱気なの?」
「……いやだから、相手がいくらなんでも強すぎっから」
「関係ないでしょ。そんなの」
レベッカはアルタイルの頬をつまむ。
「あんた……自分の目的を忘れてんじゃないでしょうね」
「……あ?」
「あいつに勝つこと……じゃないでしょ」
「…………」
アルタイルは……なんとなく、勝つことばかりに執着していたことに気づく。
彼が何のために戦っていたのか。
「……だが……だとしても、俺にできるかわかんねえよ」
「そうだとしても……」
レベッカは立ち上がり、塔の階段を上る。
「たとえ、敵わない相手が目の前にいたとしても、戦わなくちゃいけない時がある。戦って……大切なものを守らなくちゃいけない。まあ、後の方を私はできなかったから、ここにいるんだけれども……今はその大切さを理解している」
そして、振り向き、レベッカはアルタイルに微笑む。
「あなたは今まで、それをやってこれた。なんとなく……そんな顔してるわ」
「…………」
アルタイルは自分のやってきたことを考える。
突如、彼はメディテ村の住民の顔が浮かんだ。
「……そう……だな」
彼がまだアルタイル一人だった頃の記憶が甦っていた。
「やれるかわかんねえけど、とりあえず……」
彼は一気にレベッカのいるところまで駆け上がる。
「あいつを助けるまでは、死ぬ気で頑張るしかねえな」
「まったく……それしか思いつかないのも考えものね」
しかし、そう言いつつも、レベッカがその笑みを消すことは無かった。
「まあ、せっかくだから私も着いていってあげる。感謝しなさいよね」
「……けっ。まあ足手まといにはなるなよ」
「なんですって! 誰が足手まといよ! 」
怒り、アルタイルの頭にチョップを食らわせるレベッカ。そんな彼女を見て、笑みを浮かべるアルタイル。
そして、彼らは再びハイスカイタワーを上り始めるのだった。
「さて……さっさと、あのムカつく野郎の顔面をぶん殴って、あのガキを助けるぞ!」




