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頃丸理と忌まわしい目

 


 王は数日朝に私のもとに来なかった。そもそも来るのがおかしいのだが。王が屋敷にいない日はガロウに料理を教えていた。黙々と取り組まれるので全てスムーズに言った。


「ガロウ君の上に網敷いて焼き肉とかできたらなー」

 ヤマメがそうぼやいた

「いやダメでしょう」

「ダメだろ」

「ダメなのかー」

 ガロウがヤマメを膝枕にしているときにそんな会話をした。すぐにヤマメは棚から急須を誘き寄せて水をいれたり葉を入れ、ガロウの髪で熱していた。


 これまでに比べ暇なこの休みの期間、アライザ図書館には行けず、ヤマメがそれを察して自信の持っている本を数冊貸してくれた。

「全部元素魔法のものだけど。ああ、多分コロも魔法はコツ掴めば出来るようになるよ。」

「それで思い出しましたけど、ヤマメは何処をオーブにしているんですか。」

「まあ、全身を少しずつ。フヨウの変身見ただろ?それを応用して残った肉体だけでまた体を再構成させてる。つまりこの身長は僕が意図的になったものなんだよね」

 ヤマメは少し視線をずらしながら答えた。


 無理矢理口を横に伸ばして笑顔を作り出そうとしているが、気味の悪い顔になるだけだった。伸ばした口の端が笑窪を通り越し頬に渡ろうとしたとき、


「もっと食べれば昔ぐらいの身長になるさ。今は英世の状況が悪いだけ。もうすぐマモリだって帰ってくるんだ。コロさんに教えてもらった料理沢山食べさせてやるから。な、だからその口どうにかしてくれ」


 ガロウが急須越しに言った。


「そう、だね。食べれば大きくなるよね」

 口の端が自然に戻り、いつもの無邪気に見える笑顔に変わった。


 ああは、言ったものの本当はオーブになった部分は別のところにあるんじゃないのだろうかと私は思った。


 翌日、相変わらず退屈な日をヤマメの本を読んで過ごしていると屋敷に人が上がってきている音がした。極力音を出さないように歩いて来ているところから推測するに、フヨウだろう。


 これまでのように無断で自分の部屋に入られるのは嫌だったので、読みかけの本に栞を挟み、上着を身に付け、陶器の肩掛けに大切なものをいれ、甲を背負った。


 そのまま部屋の戸に手をかけて開く。


「フヨウ、屋敷になにかご用ですか。王ならいませんよ」


 フヨウは驚いた様子もなく、返事をした。


「いや、今日はブラックウィンに個人的な用があるんだよ。それで一緒にコロもいかないかなーって、誘いに来たんだけど。行く?」


 ブラックウィン、ウィンの響きからは、嫌な思いでしかない。あんなところにまた行くのはお断りだ。そういう顔をしていたんだろう。


「いや、まあホワイトウィンが西ならブラックウィンが東なんだけど、あそこほど嫌なところじゃない。寧ろブラックウィンは素晴らしいところだ。ブラックウィンの連中ほど面白いやつらは他にはいないぞ」


 記憶力に難がある人物でもこうして絶賛するような場所ならいってみてもいいかなと、考えた。幸いすでに出掛ける準備は済ませている。


「わかった、いこう」


 そういって屋敷の外にでた。




 ブラックウィンに行くには異形の森を通らなければならない。だがそこは森の中でも一番暗い場所だった。フヨウの車の中で一つ新しいものが渡された。


「この間ツキヨにコロに渡せって言われたものがあってね。」


 前の機械を模した飾りから吐き出される様にして出てきたのはランタンだった。このランタン、少し奇妙だ。


「ツキヨが少し小細工したって。火無しでも明るいし暖かい。きっと役に立つだろうからーって、言われたよ。」


 なめ回すようにクルクルと回転させながら観察すると、これはどうあっても開かないようにされていて、普通ランタンには必要のない摘まみがついている。摘まみを回転させてみると、ランタンの中心が淡く光だした。さらに回転させると光は強くなった。それ以上するとどうなるかも想像がつくのでそこで止めた。膝に光らせたまま置いた。


 よく外を見てみると木の種類が変化しているのに気がつく。まばらだが、まだ、異形の森に生息する木が生えているのも見える。


「まだこれより暗くなるのか。暗いところで暮らす人もいるんだな」


「ホウライのいるとこより暗いからね」


 それを聞き念の為につまみをもう一つ回した。




 またしばらく行くとフヨウが止まった。フヨウがもとの姿になるときはフヨウが移動させてくれるもんで自分で動く必要はない。


「耳をすませてごらん、もうそろそろ聞こえてくるはずだ。」


 降りた後もしばらく歩いた。奥に進めば進むほど闇は濃くなる一方だが、それ以上に気持ちを落ち着かせるものが聞こえてきていた。ここには不似合いな明るい音楽だった。それに合わせ歓声も聞こえる。


「多分、あっちもそのランタンに気づくさ」


 もう一つつまみを回してみた。


 急に音楽が止まりざわめきに変わる。


「いや、あの光の色はフヨウのランタンだ。」


 そういう囁きが聞こえた後音楽は再開した。


 こちらからも、向こうの火が見えるようになると音楽を奏でている人たちとそれで喜ぶ人たちが視認できるようになった。見事に全員黒づくめで、だからといって服が皆一緒というわけでもない。白と黒が交互に合わさったカンカン帽をかぶったり、シルクハットに羽根飾りをふんだんに着けてみたり、派手な黒ドレスにもスパンコールがびっしりとついていたり、落ち着いた雰囲気のフォーマルを自然に着こなしている人もいる。


「な、素晴らしい人たちだろ?」


 これまでの村や町とは、全く違う活気の良さに思わず微笑んだ。


「おや、フヨウさん、そこの方はどなただい?」


 羽根飾りのシルクハットが尋ねる。


「今、王の屋敷に住んでるコロ・マルーリだよ。」


「はじめまして」


「おーっなんとまあ、あの王もすみにおけないねぇ」


 シルクハットが続けていると横から手が延びる。


「バーカ言うんじゃないよ。王のお客様だろー!だったらあたしたちも歓迎しないとね!」


 ナイトキャップがいう。


「それじゃ、サトムさま、歓迎の音楽にしましょーや」


 炎の奥にいる真っ黒のローブが、魔法の杖のような指揮棒を上に挙げた。


 シルクハットも、ナイトキャップも自分の楽器に集中した。空気が一つになったときローブの腕が大きく動いた。




「ご静聴ありがとうございます」


 ローブはうやうやしく頭を下げた。


 一つ演奏を終えた、火を囲んだブラックウィンの住人たちはそれぞれ違う楽器を自分の傍らに置いた。楽器を演奏しているのは数十人いる。その真ん中にローブが立っている。他の住人は曲に合わせて踊っていた。


 一人、ローブが私たちの方に歩み出た。


「私は、ここブラックウィンの長候補のサトム・ヤージョと申します。そしてフヨウさんの弟子でもございます」


 サトムは他の住人に比べ落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「長候補というと、」


「数月後、ブラックウィンの慣わしがあります。そこで私は自分の姉と長の座を争うことになっております」


 サトムの目は半開きだが、熱意が込められていることは確かだった。


 白黒カンカン帽が口を挟む。


「サトムさまなら長になれますよ!こうして集まっているのってブラックウィンの大半なんですから!」


 その後、サトムの支持者たちは楽器と手を挙げた。


 だが、サトムは顔色をかえず


「ああ言われますが、私は不安であります。私の姉はどんな手でもやりかねません。一番危険なのはあの者達です。誰か一人でも毒牙にかかっては、私は堪えれません」


 サトムは今日来たフヨウに助けを求めているようだった。


 恐怖に怯えているようにも見えるサトムをフヨウは


「いつも通り、訓練するだけではやっぱりその時までには完成しないだろうね。」


 不安を煽るようなことをいった。曇りガラス越しに睨み付けるとフヨウは肩をすくめる。


「あの方法しかないか。祭りが終わったら戻しにくるからね」


 垂れかかった袖を肘まであげてから両腕をサトムの方に伸ばした。


「ありがとうございます」


 サトムはフヨウに頭をしだすようにしゃがんだ。


 ブラックウィンの住人達もその光景を静かに見ているが、口が真一文字に伸びきっている。


 フヨウが両手から力を漏れだしたような、光をサトムに向けてだすと、いよいよ辺りを緊張が呑み込み出した。住人の中には目を背けようとするのもいる。光がまたフヨウに戻ると正常な焚き火による温度に戻った。


「サトム、面をあげて」


 フヨウの腕の間からゆっくりと腰をあげ、顔を向けた。


 一瞬、サトムの目が眩い光を放つ。あまりに強い閃光で暗闇に慣れた目の奥が揺れるようだった。




「あれでよかったんですか?」


 ランタンを膝に抱えてフヨウに尋ねる。


「俺がまず消えるってことがあり得ないのさ。この国にあんたみたいな人が無事に降りてくるってくらい。」


「じゃあ大丈夫なんですね」


 私はこの国に降りてくる時に一度大きく頭を打っている。幸い何も異常はなかったが、本当にそうだろうかと思ったことがないなんていえない。普通ならもっと仲間たちが亡くなった(ヤマメに食べられた)事を深く悲しみ、ヤマメを憎むのではないかと、自分の愛国心に問うてみたが。そもそも私は自分の仲間が嫌いだった。

 あいつらは、何かと自分と比べたがった。背負う甲の重さや体の大きさ。幼い頃からそれを下らないと私は離れたところからみていた。同年代の子達が棒切れを拾って集めたり、ボールを蹴って遊んでいても、下らないと思っていた。


 そう、幼いながらに思うようになったのはもっと幼い頃だ。歩いて、両親に「あそこにいる子たちと遊んでおいで」と離されたとき。

 おぼつかない足でヨタヨタと危なっかしく歩いていたときだ。


「コイツ、目が変だぞ」

「鈴だ、鈴の目だ」


 指を指され、その場から少し離れた者にも覗きこまれたこの目。幼いながら身の危険を悟り助けをせがんで見つめた両親の目とは全く異なる目。


 全てはそれが原因だった。物心がハッキリしてくると、その事を言う者を片っ端から痛めつけるようになった。違うところがあって良いじゃないか。お前たちも比べているだろうと。理解されない自分が悔しくて泣いた。こうして生まれてきた自分を憎んで泣いた。

 そこで両親から与えられたのがこの分厚い眼鏡。曇りガラス染みた視界は私の目と向き合おうとする視線を防いだ。それと、両親の言ったおまじない。


「これさえつけていれば、ケンカなんかしなくって済む」


 それからは知る通り、真面目な人と呼ばれるようになり、多くの名声もいただいた。だが、私と目を合わせようとしたのは一人としていないだろう



 数分そんなことを考え込んだ。

「私と目を見て話せますか?」

 目が今どこにあるかもわからないフヨウに言ってみた。

「目をみたら石になるわけでもあるまいし、コロとは魂の会話を確りと目を通じてやっていたつもりだよ。」


 そうか、と自分の手の中だけで納得した。私はこの星の人たちが好きだ。ここでなら、眼鏡のない自分でも受け入れられる。と




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