頃丸理とデモクラ王
「そろそろ広間に出ておこう。王がでてくる頃だ。大丈夫。さっきの治療のお陰で食べられる心配はないよ」
仲間を見殺しにするような真似をしたものと一緒にいることは、脅されているも同然だと思わないか。
だがしかし、私は未知への探求に飢えていた。既に知っている者と何か成すより、一人得体の知れない生き物と共存を目指す、進んで敵陣へ行くのも悪くはないと思い、ツキヨの後ろをついて個室からでた。
広間の光はさらに強くなり、痛いくらい目が眩んだ。玉座のある階段の奥から人が出てきているのが見える。その人はツキヨの生活感のある服装とは違い、格式の高い服のよう。青地に黒の縁取りの服で、煌々と輝く緑色の目を漆黒の髪と一緒に際立たせている。
「ツキヨ、そちらがあのマシンの?」
「そうですよー」
ツキヨが気の抜けた返事をしたあと、王はノーモーションで
スタンッ
降りている途中の階段から私たちの方向へ飛び降りてきた。
「わあお、
初めてのエイリアンだ!!私がこの国の王のデモクラだ。よろしく」
「頃丸里です…」
腕が外れそうなほどの激しい握手を交わされ思わず顔が歪んでしまう。
私の顔の変化に気づいた王は腕をふるのを止めて心配そうな顔をする。
「あっごめんよ。君の星ではこんなことしないのかな、そもそもここでもしないし、ちょっと興奮してて。いつも見つけて保護する前に、皆食べられるか出荷されているから」
左側からツキヨの片手が飛び出して
「王、その話控えて。マル-リさっきショック受けてたから」
「おっとすまない。マルーリさんには、マルーリさんの星とか技術について教えて貰いたい。それにたいし我々は、貴方をこの星の住人として受け入れたい」
口の真ん中を山にして、笑って見せた。
デモクラ王の爬虫類じみた目は権力よりも誠実さを訴えかけてきている。
この星に住むことを認められるということは、とても名誉で私にとって有益であるかもしれない。
私は王に
「分かりました。協力します。」
王は目を輝かせた。後ろでツキヨは満足そうな顔をしているように見えた。
「では王、ボクはこの辺で。」
「ああ、ありがとうツキヨ」
ツキヨは一人扉を開いて出ていった。
私は城の案内中ふと、王の背中に質問を投げ掛けた。
「先程のツキヨとはどのような人物なのですか」
私の前を歩く王は立ち止まり肘を抱えて振り返って見せる。
「相談役ってとこか。私の従者には頼めないことをしてもらったり、外交の手配をしてもらったりとか。」
どちらかというと、あまり話題の対象にいいイメージを与えることはない顔をしてツキヨのことを話した。肩眉に皺が寄っている。普段動かないであろう、左側の口角だけを上げていた。
「そろそろ、城上町につくよ」
「じょうじょうまち」
城下町ではないのか。
「湿地に町は作ることができないからね。木の上にはしっかりとした足場があるからそこに町があるんだ。」
木の上に町だって?
疑問は尽きないが、緩やかな坂道には光が満ちていく。明るくなるほど、風が感じられるようになり、鳥に似た鳴き声が聞こえてくる。葉のざわめきも遠くから聞こえる。
ようやく平坦な地面に立つ事ができた。空は見当たらないがその代わりに青々とした葉が上を覆っている。建物は大小様々で、宙を浮いている建物すらある。
「ここに住んでるのは、鳥系のエバーワールダーと、私の従者、管理人と研究者数人だけ。」
振り向いて王は続ける
「でも、時期が来たら国中から人が集まるからこうして泊まれる場所を作っている。普段は質素だが派手もの好きだからねみんな」
「エバーワールダーというんですか」
「ああ。この星はエバーワールド。この星に住む人はエバーワールダー。」
エバーワールダー…永世人か。
「町へ上がってきたのは、何故ですか」
「マルーリさんのこれからの生活の場をどうしようかと思ってね。私は基本城に住んでるけど、町にも家を持ってる。マルーリさんにはそこを使ってもらおうと考えているんだけど、いかがかな」
てっきり逃げ場の少ない場所に隔離でもされるのかと思ったが。
歩みが止まったので辺りを見回すと豪邸が立ちはだかっている。母星だと、これほどの家を建てる事ができるのはとんでもない成功者だけだろう。ミリオンセラーとか、億万長者とか。
「時々従者とその連れがくるかもしれないけど、みんないいひとだから。あ、なか入ろっか」
城門と同じように重厚な扉が開く。相変わらず装飾はなく味気ない。
玄関に入ると二階に続く螺旋階段、白石を床にところ狭しと敷いた広い廊下。照明器具のようなものは目に入らないが、明るい。
「光は、私たちの力の源だから。日の上に有るときだけは、木がその光を通してくれる。光だけね」
「食事を、とらないのですか」
「食事?とる人もいるけどグラマラには、あまりいないよ。食事が必要なの?」
「ええ、はい」
へぇーと何か気づいたかのように私の手を取った。
「ほんとは要らないかもね」
顔が左右に分かれたような表情を向けた。
この部屋は自由に使っていいと言われた部屋に入っていた。何故かデモクラ王も室内にいる。元々所有者なのだし、仕方のないことかもしれないが。そんなことより。
一つ私は困っていた
「あー、私の荷物を船からだして持ってきたいんですが」
船?と間をあけてから
「それは大変だね。運び屋を呼ぼうか」
「運び屋ですか」
「ツキヨがもう頼んでるかもだけど」
首を傾げて微笑もうとした瞬間
チリンチリン
チャイムが鳴り響く
「来たかな」
部屋は螺旋階段の上にあるのでかけ降りる。王は何の躊躇もなく、手すりから飛び降りた。重たい扉が開かれると、外には前髪が目を隠すほど伸びた身長の高い人がいた。不気味な印象を放つ人は、恐る恐る話始めた。
「あ、えと、ツキヨさんから、マルーリさま宛てです。」
後ろの方には船が置いてあり、パラシュートは取られている。
「で、では」
会釈をして、向きを変えると背中から羽が生え何処かへ飛び去った。
それを見ていたデモクラ王は
「新人かなー。」
極めて呑気な声を上げた。
船をどうやって持ってきたのか、という疑問はあるがとりあえず船のなかに入る事にした。
船への入り口は二つある。縦、横どちらの方向に倒れても同じように入れるよう設計されている。
船内は一度離れる前と姿を変えていなかった。残った空気から仲間がまだ船にいるかのかもしれないとよぎるが、そんなことはもうじつげんしない。今はもう食肉になっているのだろうから。
私はどうだ。
「重力圏内から離れるためにどれくらいの動力が必要なの?」
後ろからついてきていた服の乱れたデモクラ王が言う。
「この鉄が常に上昇をしなければいけないわけですから、この鉄の量と同じくらいの重さになりますね。体積量はこれの倍になります。」
「ああ、打ち上げ式なの」
エンジンの方に目をやった。
我々の文明では離陸と着陸の安全を備えた宇宙への乗り物はできなかった。なので、宇宙に出るときは命懸けで、この永世エバーワールドのように確かな重力がある大きな星からの脱出はすることができない。カメラはただの母星との連絡手段にしかすぎない。
船の中の部屋の明かりをつける。操縦室は、外からの光で明るいので着けなかった。
光が部屋を満たすと、デモクラ王は反応した。
「わお、それすごいね。どうやったの?」
「電気をあれへ巡らせられるようにしたんですよ」
蛍光灯を指さす
「じゃあそれはどうなってるんだい?」
「真ん中の方のフィラメントと呼ばれるところに電気が流れることによって高温になって、高温になった部分が光るんですよ。それで裸のままでは、火事になってしまうので硝子をはめています」
覚えている限りの知識をひらけだす。
王は扉の所から、私のいるところまで移動し、私の肩に左手を添えて、右手を電球にかざす。
デモクラ王の体は電球の光に包まれた。いや、反射をしている。右肩の手は磨かれた金剛石のように光を細かく、多角的に放射している。
「なるほどね。電気か。マルーリさんの星は、電気が溢れているんだ。」
手を電球から離す。それで私も我にかえり、自身のロッカーや、割り当てられていた寝床から自分の物を取り出した。
デモクラ王はいつの間にか操縦室の一番前の席に座っていた。この星に降りようとしたときの私のいた場所だ。
椅子はデモクラ王の2倍ほどの大きさに見える。
椅子を回して、
「マルーリさんは星に連絡しなくていいの?」
「今のこの姿が、私であるとわからないと思います。恐らく信じられないでしょう」
「帰りたくないんだね」
嬉しそうに微笑んだ。