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序~鶏鳴狗盗~

 これは史書には記されない物語…

 口にすれば、愚者の夢か、痴者(しれもの)(たわむ)れか

 しかし、確かにそこには存在したのだ。

 そう、【異世界】という名の別の歴史が・・・


 ☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆

 この日彼孟嘗君(もうしょうくん)は人生最大の危機を脱しようとしていた。秦の宰相を逐われ、軟禁情態になった一行を狐白裘を盗みだし助けた「狗盗」の「奉信」、咸陽から脱出し函谷関(かんこくかん)までたどり着き「鶏鳴」をおこして門を開けさせた物真似上手の「模類」のおかげで、虎口を脱したのである。後の世にいう「鶏鳴狗盗」の脱出行であった。その他逃げる者たちの顔ぶれは、最愛の妻と「客」数十人。客たちは孟嘗君の護衛もかね、危険な逃避行に付き従っていたのである。


「殿、【函谷関(かんこくかん)】を脱出することに成功し、追手もとりあえず諦めたようです!この辺りで一旦馬を休めませんと、馬も馬車も保ちませんぞ!」

 股肱の臣たる「公孫戍(こうそんじゅ)」が戦車に乗りながら、そう進言する。


「だがまだ、秦の勢力圏だ。今秦の宰相になっている楼煩は、名高い【武霊王】の側近だった男。能力の高さは折り紙つきだ。また秦王の側には【穣公】も戻ってきている。我々の脱出を予想して、私兵を先に伏せている可能性がある以上、もう少し先へ進んだ方が良い。先には兵が伏せられない、見晴らしの良い場所があったはずだ!」

 孟嘗君はそう返事を返す。矮躯ながらも気宇の大きな彼は、それにふさわしい声で公孫戍に指示を飛ばす。


「承知しました!皆の者、聞いたな!もう少し頑張ろうぞ!」

 一行も主と慕う孟嘗君のため、「応!」と激に応え、先へと進もうとしたとき…

 突然眩い光が一行を包みこんだ!!


「何事だ!」「敵襲か!」「くぅ、光で何も見えん!」

 それぞれが事態に狼狽するなか、流石の孟嘗君も

「これは一体何事か。到頭天からのお迎えが来たのか…」

そう慨嘆していると、その瞬間、孟嘗君とその妻、馬車と【馭者】、客、側近と併せて12人が忽然と姿を消したのである。


 ☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆

『孟嘗君、孟嘗君よ』

 眩い光に目をさされ、孟嘗君は目を覚ました。


 ―ここは天上であろうか


『孟嘗君よ、そなたはまだ天に召されてはおらぬ。』

 孟嘗君が声のする方を見やると、神々しい光に包まれた何者かの姿が見えた。


『呼びつけておいて大変不躾な願いではあるが、そなたに一つ頼みがあるのだ。』


 目を凝らしてみると、光の中に白い髭を生やした、徳の高さが伺える翁が佇んでいる。


「頼みとは何事でございましょうか?」

 何者であろうか?孟嘗君はそう訝りながらも、翁の神々しさと徳の高さに気圧され、居住まいを正してそう訪ねた。


『頼みとは、彼らを助けてほしいのだ。ただ…あぁ、これ以上話すには時が足らぬ。早急に使いの者を寄越すゆえ、そちらから聞いてもらいたい。』

 翁は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、孟嘗君へそう告げる。


「お待ち下され!彼らとは一体、それにここはどこなのですか?!」

 時が足りないと聞き、孟嘗君は当然の疑問を、翁に慌ててぶつける。が…


『迷惑をかける詫びではないが、そなた達にはできる限りの便宜を図るつもりである。申し訳ないが、よろしくお願いいたす。』

 翁は孟嘗君の問いには答えようとせず、また神々しい光を放ちながら、その中に消えていく、


「お待ちを…、せめてお名前を…」

 孟嘗君はそう叫ぼうとしたが、光に目が眩み、気が遠くなっていった。




 ◆◇「解説」◆◇

 孟嘗君…中国古代戦国時代の四君の一人。○○君の趨りの人。特長を一言で言うなら「矮躯」。凄く小さい身体ながら、(オーラ)はデカイ。三千人の客を持ったと言われる。毀誉褒貶の激しい人だが、この小説では英傑寄せで。


 公孫戍…孟嘗君一の股肱の臣。史書では賢い一面もあるが、この小説では脳筋よりにしてある。ごめんなさい。


 戦車、馬車…古代中国の人達は直接馬にのる「騎馬」をよしとしなかった。そのため馭者の技量は時に命に関わった。ちなみに乗馬は孟嘗君の時代から始まる。


 函谷関…滝廉太郎作「箱根八里」でも謳われた難攻不落の関所。某秦王と友が熱い漫画に描かれたように、秦滅亡の日までこの関はほぼ無敵


鶏鳴狗盗・・・鶏の物まねをしたり人を騙したり、盗みをする卑しいもの。転じてつまらない技能でも役にたつという意味となる。しかし、「物真似師」や「盗賊」と書くとファンタジーではかなり役立ちそうである。

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