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イガグリ  作者: もち
第一章 第一章 不老不死と生徒会長
2/2

1-1

黒月瑞希の朝は早い。

耳が痛くなるような音を上げ続けている目覚まし時計を止め、制服に着替えた。


「あら、早いわね。」


朝食を取る為下へ降りるとすでに起きていた母親に会う。

黒月 千鶴。名門黒月家の長女。瑞希と同じ銀色の髪、緋色の瞳ゆえに「緋色の魔女」と呼ばれる黒魔術師。現在38歳。20の時、夫である(けん)に一目惚れし実家抜けだして半ば強制的に婿養子にさせ入籍した経歴を持つ母である。


「朝食できているから冷めないうちに食べなさい。」


そう言って出てきた、頭に紙袋をかぶっている男。

彼の名は黒月 謙。千鶴に半ば連行され入籍させられてしまった少々不憫な瑞希の父親である。現在40歳。彼が付けている袋は、「あまりにもイケメンで顔を出していると女が群がって邪魔だし、貴方の顔は私だけが見ればいい」というなんとも千鶴の我儘より付けられている。なので、瑞希は父の顔を一回も見た事がない。


「あっそうだわ。朝食食べる前に竜二君呼んできなさい。」


「会長の奴。まだ起きてないのですか。…はぁ。分かりました。今起こしてきます」


瑞希には双子の兄がいる。現在のその兄は全寮制の魔術学校に通っている為家にはいない。そのかわりと言ってはなんであるが、瑞希の幼馴染である彼が現在黒月家に居候している。

彼の名は櫻井 竜二。瑞希と同じ高校に通っており、そこの生徒会長を務めている青年である。中学の時も生徒会長を務めていた為瑞希からは「会長」と呼ばれている。


「入りますよ。」


そう言って彼女は彼が眠っている部屋を開ける。

現在居候している彼は瑞希の兄が使っていた部屋で寝泊まりしているのだが…


「…ってまた会長は、ベッドで寝ないで床で寝ているし」


彼は瑞希の兄が大大嫌いである。名前が会話中に出てくるだけでも不機嫌に成るほどである。

そんな彼がなぜ、その兄の部屋で暮らすことになったのか…それについては少々話が長くなるのでここでは割愛させてもらう。


「ほら、起きてください。朝ですよ。ご飯出来ていますよ。」


そういって彼を揺り動かす瑞希。

しかし、一向に起きる気配がない。



「起きてください~」




反応なし。




「お~き~て~ください」




反応なし。




「お~き~て~」




反応(以下略




「起きろって言っているだろうがぁぁぁぁ!!!」




そう叫んで、ちゃぶ台返しのごとく竜二を布団から追い出した。


「…僕の幼馴染はこんな凶暴じゃない」


ぼそりと声が聞こえた先を見れば、左目を手で隠したまま横になって頬を膨らませている竜二の姿が見えた。


「いつまでも起きない会長が悪いです。私は悪くありません」


「むぅ…普通なら幼馴染の女の子に起こしてもらうというシチュエーションは、萌えの定番なものなのに、こんな起こし方じゃ全く萌えないよ。全然幼馴染ものを分かっていない…瑞希もう一回やり直し。」


気づけば再び布団の中に入っている竜二。


「意味が分かりません!てか、いつの間にか布団に戻っているし!!ほら!お き て く だ さ いぃぃぃぃ!!」


「だが断る!」


「だが断るじゃねぇぇぇぇよ!!」




ドッセイ




瑞希の怒鳴り声と背負い投げの音が黒月家にこだました。





*******************************





「イテテテ…酷いやい。瑞希の暴力女~そんな凶暴な子は嫁の貰い手いなくふごっ!!」


「うるさい!この腐れ包帯アホ会長!!ほら、先に行きますよ!!」


そう言って先へと進む瑞希。


「む…瑞希ちゃん。瑞希ちゃん。僕は重大な事実に気づいてしまったよ。もう…なんで千鶴さん言ってくれなかったのだろ?」


「…ちゃんづけで呼ばないでください。気持ち悪い。で?なんですか、気づいた事って」


歩みを止めて振り返る瑞希。表情から明らかに不機嫌さが表れている。


「よくぞ聞いてくれた!!それは…今日が日曜日だっていう事だ!!全く瑞希ちゃんはうっかr「知っていますけど」…へ?」


予想外の瑞希の返答に笑顔を顔に貼りつけたまま竜二は固まった。


「え…瑞希は今日が日曜日だって分かった上で学校にいk「だから、そうですって」…あのさ、今日って何かあったけ?」


「……。」


僕忘れちゃった~と笑っている竜二をしばらく無言で見つめていた瑞希だが、足に着けていたケースから大きめの針のようなものを出し、そして


竜二に向って全力投球した。


しかし、その針は、彼女と彼の間に現れた氷柱によって、竜二に届く事は無かった。


「ちっ…相変わらず便利ですねその能力。」


「ねぇ!?今、ちって言った?瑞希?今、本気で僕の事殺そうとしたよね?!ね!?」


氷柱の陰から抗議する竜二。相変わらず笑顔は崩していないが額には汗が浮かんでいた。


「ええ。言いましたよ。だってあまりにも会長がアホすぎて…ところで、今のセリフ本気で言っているのですか?今日はエイプリルフールじゃありませんよ?」


「本気も何も僕はいつだって全力投球で生きて…わっわっ!!そんな物騒なもの仕舞って!!仕舞って!!今頑張って思い出すから!!」


そう言ってうーん、うーんと唸る竜二。








…一分経過








…二分経過








そして…十分経過







「…ごめん思い出せない。」


再び氷柱の陰に隠れる竜二。

そんな竜二に対して瑞希はただ無表情にこう言った。


「生徒会」


「へ?」


「書類」


「…あ」


「未提出」


「…」


瑞希の言葉に全てを把握した竜二。

彼が弁解の言葉を口にする前に更に瑞希は追い打ちをかけた。


「…最後まで言ってあげますよ。会長。貴方はこの一ヶ月間生徒会の仕事をさぼり、提出しなければならない書類、他校に出さなければならない手紙等々…溜りに溜まった仕事が山のようにあるのですよ。この意味分かります?」


「で…でも、何も今日やらなくてもいいと思うんだ。」


「あのですね。それらの締切がいつだかご存知ですか?月曜日ですよ?明日ですよ?何が悲しくてせっかくの日曜日に学校に行かないといけないんですか?誰のせいですか?会長のせいですよ。」


私は貴方の所為で遊びにも行けないのですよと言い放つ瑞希の背には般若の像が見えていた。

普段瑞希はそこまでキレやすい性格ではないのだが、今日の彼女は爆発寸前である。よっぽどストレスが溜まっているのだろう…

どこか、人ごとのようにそう感じた竜二である。


そんな謎の感傷に浸っていた竜二の耳に朝のニュースが流れ込んできた。

音のする方を見ると電化製品屋の店頭に置いてあるテレビから聞こえていた。




『本日、十一月三日のニュースをお送り致します。』




アナウンサーがそう言って淡々と各地で起きたニュースを述べていく。


『先月起きた魔術師の事件は、一万六千五十件と前の月に比べ1.5倍増加しております。 警察本部は各市民に警戒と注意を呼び掛けています』


そう言ってテレビに魔術師が起こしたと思われる事件の映像が映し出されていく。


「全く、こういう報道すると、魔術師全員が犯罪者だって勘違いしてくる奴がいるからやめてほしいですよね。」


いつの間にか竜二の横に戻ってきた瑞希が不愉快そうに呟いた。


「まぁ…マスコミ使っての情報操作で魔術師を世間的に排除したいじゃない?そういや、この街の魔術師関係の事件って聞いた事ないよね?」


「そりゃ、この街には私の家しか魔術師の家系はいませんから。それに、他の魔術師はこの街のセキュリティでほとんど入って来れないらしいし、入ってきても魔術そのものに負荷が掛かるようになっているから、そもそも事件を起こす事が出来ないんでしょう。

だから、この街は別名「魔術師殺しの街デス・マジックシティー」なんていう物騒な名がついちゃっているんですけど。」


首を竦めながら瑞希はそう言った。


「…たしか、この街のセキュリティって千鶴さんが全面協力しているんだっけ?」


「うん。私のお母さんってさ、家飛び出してお父さんを強制的に拉致という名の駆け落ちしちゃったのは知っていますよね?そのせいで両方の家から追いかけられる事になって、その追っ手から逃れるために、当初、対魔術師用の街作りを掲げていた市長に交渉して、自らの保護の代わりにこの街のセキュリティシステムの製造の第一責任者になったらしいですよ。全く我が母といえども末恐ろしい。」


「毎回思うけど、千鶴さんって本当に謙さん一途だよね。…まぁ、僕もあの人の気持ちはよくわかる。誰かの一人の為に命をかけられるってとても素晴らしい事だと僕は思うけどな…」


えー分かっちゃうんですか…と若干引き気味につぶやいた瑞希に苦笑いして再びテレビに視線を移す竜二。


「そんなに引かなくてもいいの……っ!?」


「?どうしたんですか会長?」


瑞希が問いかければ一瞬戸惑いの顔を見せた竜二だが、何事も無かったかのように


「なんでもないよ」


といつもの笑みを浮かべて言った。



「?そうですか…ならいいですけど。 あっ!?もうこんな時間!早く行きますよ!!じゃないと今日中に終わりませんからね!?嫌ですよ!?また徹夜とか!」


そう言って駆け出す瑞希。

その背に向かって竜二は言った。


「ねぇ…瑞希。この世界に『奇蹟』って存在すると思うかい?」


「ええ存在してほしいですね。今日中に仕事が終わる『奇蹟』が心の底から起きてほしいです。」


「あははは。それは起きて貰わないと困るね。」


「誰の所為だと思っているんですか!?笑ってないで早く来てください!!」


「はいはい」と竜二が答えれば瑞希が「『はい』は一回!」と叫び竜二の先を行く。


だから彼女は気付かなかった。




後ろにいる幼馴染の顔が




その笑顔が




幼子がお気に入りの玩具を手に入れたような純粋さと狂気を含んでいた事に-



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