神様と少女
ノリと勢いで書きました
ぶっちゃけ訳の分からない内容になっている気がします
なので、読む際は覚悟をしてください、本当に
矛盾点とか誤字脱字とかヤバい気がします、本当に
それでも
何だこの駄文マジあり得んし、でも仕方ないから読んでやるわよ、
仕方ないからなんだからね!!勘違いしないでよね!!(プンプン
なんて方は是非お読みください、そうでない方も大歓迎です
―――そして男は手に持った本を閉じた
蝋燭の明かりは小さな小屋の中を照らしている
雨は小屋の小さな窓を叩き、風で小屋はギシギシと嫌な音を立てていた
今、男が持っている本の他には蝋燭と、後は粗末な椅子
そして膨大な量の本が床に積み上げられていた
男は少しだけ顔を上げた
雨で霞んでしまっているが、その視線の先にある窓からは小さな丘が見えた
もう少し
もう少しで彼女が来る
男は呟いて目を閉じた―――
―――――――
風が頬を凪いだ
春の香りが彼女の鼻孔を擽る
持っていたバスケットを木陰に下ろし、彼女は小さく息を吐いた
此処からの見晴らしが一番良い
彼女は誰に言うでもなく呟いた
彼女には名前が無かった
いや、あるにはあるが、それは彼女の本名ではないし
何より、彼女にとってその名前は愛せるものでは無かった
彼女は孤児であり
彼女が住んでいた家は遠い親戚と自称する他人の家庭だ
彼女は家族を知らず、愛情を受けずに育ち
そして今自らの不幸と不運に飲まれかけていた
彼女が最も心安らぐこの丘で
彼女が一番縋り寄りかかってきたこの木で
彼女は今
自分の命を絶とうとしていた
「さて‥と」
彼女は少しだけ景色を見回した後
バスケットからロープを取り出した
丈夫そうな枝に括り付ける
思えば
この木だけが私の涙を知っているんだな
と、彼女は思い出しながら木にロープを縛る
少しだけ目の前が滲む
今更何を後悔しているのだろう
この十数年の人生に、後悔なんてあるものか
彼女は涙を流しながらロープを結ぶ
絞首刑用の結び方なら話に聴いたが、
これが正しいのかどうかは解らない
兎に角、今は首が通ればなんでも良かった
―――――
彼女が覚えている最初の記憶
それはどぶ川の腐った臭いと
全身を包む焼ける様な痛み
汚水の中から見上げた空は曇っていて
せめて星が見たかったのに
どんよりと重たい空からは雨が降ってきた
冷たい雨が彼女の全身を打つ
痛みは引かないし、立てる気力も無ければ
これ以上何も見たくは無かった
彼女は両親の顔を知らない
ましてや自分の家を知らない
友達も居ない、恋も知らない
気付いた時には、脂で顔をギトギトにした金持ちの玩具だったのだから
あぁ、そうだ
思い出した
私はその男の下から逃げ出したんだ
何故かは解らない
ただただ、嫌気がさしたからだ
だけど、逃げ切れなくて捕まった
捕まって…どうなったのだろう
彼女はどぶ川の中から立ち上がった
体は痛いが、幸いにも骨は折れていないらしい
彼女は痛む体を引きずりながら
あてもなく歩いた
体中が痛い
冷たい雨が彼女を刺す
容赦のない雨粒が、今は愛しく思えた
感情なんて無くしたと思っていたのに
何故かは解らないけれど、涙だけがとめどなく溢れてきた
人影のない路地を
裸足の少女はただただ歩く
歩み
歩き続けて
そして…
――――――
…ここを見つけた
彼女はロープの結び目を堅くしながら呟いた
何も人生に悔いは無い
だが、あえて言えば…そう
ついて無いな
と思う
あの家の子供も
その家の子供も
あの家の夫婦も
その家の夫婦も
誰も彼もが笑っているのに
なんで私は泣いているんだろう
彼女はロープに首を通した
バスケットを使った簡易台だが、今はそれで十分だった
このバスケットを丘から転がしてしまえば
後は簡単だ
彼女はバスケットを蹴った
ギシッと鈍い音が枝から聴こえる
痩せこけた自分の体重でも枝が鳴ってくれた事に
生きていたんだな、と妙な実感が沸いた
でもそんな考えも、もうお終い
彼女は宙に浮いた
ロープがギシギシと音を鳴らす、喉が締まる感覚が痛いほど伝わる
うっ血しているのか、酸素が足りていないからなのか、頭がぼうっとした
――苦しみはあまりない、否、今までの人生で味わってきた苦痛に比べればこの程度何でもない
それでも、薄れゆく意識の中彼女は少しの後悔をした
もっと生きたい、という後悔では無い
首をくくる最後の瞬間に見えた光景
その一瞬をもっと見たかった
日が傾き始めた街並みは、今まで見た中で一番綺麗で、一番憎らしかった
華やかな街並み、そこに自分の居場所は無いのだと
彼女は幼い頃、既に自覚していた
それは卑屈なまでに自分の存在を否定した考えであり
残酷すぎる人生への絶望と、幸福な人間への嫉妬
幸せが欲しかった
愛情が欲しかった
私はただそれを願っていただけだった
ただ、それだけが欲しかった
ただ、笑ってみたかった
目の前が暗くなる
もう死ぬのだろうか
全てがゆっくりに見える
瞼が勝手に下りる
彼女が意識を失い、そして死への悦びと、ちょっとの後悔が心を満たしたその瞬間
何故か、聴こえるはずの無い声が聴こえた
―――Life was like a box of chocolates.
――――You never know what you're gonna get.
まるで詠うような声が響いた
彼女の瞼が閉じる瞬間
彼女の視界いっぱいには、ただ一色の黒…
―――――――
そして、
男は再び本を閉じた
何冊あるのか解らない程積まれた本の山に、また一冊の本が積まれた
「…これで、13京361兆28億2000万3456冊目」
男は呟いて、スッと手を空間にかざした
次の瞬間、男の手にはさっきとは別の本
「…13京361兆28億2000万3457冊目」
ハードカバーを開き、今まさに本を読み始めようとした時
男は小さな物音に気付いた
「…やぁ、目覚めたんだね」
男は眼鏡を取りながら振り向き、少女と向き合った
―――――――
…本の頁をめくる音がする
それと一緒に雨の音もした
懐かしい匂いがする、安心するような、不思議な匂い
窓を叩く雨の音は心地よく、しかし風の音は少しだけ彼女に恐怖を与えた
ゆっくりと瞼を上げる
随分と上質なベッドの上で眠っているらしい、柔らかい暖かさが彼女を包んでいた
視線だけを漂わせて周りを見渡す
焦げ茶色の天井は梁がむき出しなっていて
壁は所々木の板が割れている
大きさはそんなでもなさそうだし、ドアは一つだけで、どうやら外に通じているらしい
小さな小屋の中に居るのだろうと、彼女はなんとなく予想した
「やぁ、目覚めたんだね」
直ぐ前に居た男の人が声を出した
先程は気付かなかったが、彼はずっとこちらを見ていたらしい
黒い髪…綺麗な黒だった
前髪が少し長く目元が隠れてしまっているが
顔立ちは整っているのだろう、口元の優しげな笑みが穏和な雰囲気を与える
彼が誰かは解らないし
知りたくもない、ただ彼女は思った
神は私に死ぬことすら赦さないのか 、と
「コーヒーでも飲むかい?それとも、お腹が減っているのかな」
男は粗末な椅子から立ち上がり、緩やかな足取りで壁の方へと向かう
黒いズボンに白いカッターシャツ
シンプルだが、上手く着こなしているように見える
男が不意に手をかざした
すると、壁に沿うように、少し小さなキッチンスペースが現れる
普通の人間なら、目の前で起きた異常な現象に声を上げるだろうが
彼女はそれを見ても驚きはしなかった
否、それが驚くべきことなのだ、という知識すら無かったと言った方が正しい
知性は優れる彼女だが、知識が無ければ
都会ではこんな事が出来る人も居るのだろうか
と、それくらいにしか思わないし、そう思う以外に思考は働かなかった
「熱いけど、大丈夫かな?」
男はコーヒーを彼女に手渡した
無地のマグカップを恐る恐る受け取る彼女に満面の笑みを向け、また椅子に座る
気付けばキッチンスペースは消えていた
男は終始口元に笑みを携えて、少女を見つめている(のだと思う、前髪が邪魔して視線の先が捉えられないのだ)
「…あの、貴方は誰ですか?」
コーヒーに手を付ける前に、少女は男に尋ねた
自分がどんな表情をしているのか、少女は解ってはいなかっただろうが
その怯えた眼を見て、男は少しだけ哀しそうな表情をした
だが、少女がその変化に気付く前に、男は言葉を紡いだ
「僕?僕は…いや、僕のことはどうでも良いよ
それよりも、何故キミはあんなところで死のうとしていたんだい?」
男は露骨に話をそらしたが、相変わらず満面の笑みだった
そして彼女はそれを追求することは無かったし、する気もなかった
目の前の男がどんな存在であれ、自分の人生になど、もう意味は無い
話す事もないし、話したところで何かが変わる訳もない
少女は口を閉ざす、何より、目の前の男の
この人を小馬鹿にしたような笑みが好きにはなれそうになかったから
結果、少しの沈黙が訪れる
男は相変わらず笑みを浮かべていて、何も言おうとはしない
自分から話さないと決め込んだ少女も、この男の態度に少したじろぐ
少女は少しだけ気まずそうな顔をして、コーヒーを啜った
「…んー、言いたくないなら良いんだけれど
まぁ、理由も知らない訳ではないし」
何秒後か、何分後か
気まずい沈黙を破ったのは男だった
男は持っていた本を、本の山に乗せる
そしてまたスッと手をかざすと、その手には一冊の本があった
今度はハードカバーや小さな文庫本サイズではなく、まるで日記帳の様なノート
「…さて…キミの人生は知っているし
キミがここに来ることも決まっていた」
男はそう言うと、手に持ったノートを開いた
彼女は男の言葉にもそれ程驚きはしなかった
むしろ、こんな胡散臭い奴に捕まったのか、とすら思った
スラムや路地裏では、小金稼ぎに丁度良い職業に「似非占い師」があった
ホットリーディングやコールドリーディングを巧みに使う大人が大勢いたものだ
汚い連中だ、小金の為に、はした金の為に
貧民層から金を奪い、騙し、自らはそれで利を得る
醜い連中だと、そう思っていた
ただ
目の前の男がそんな、小汚い豚の様には見えないのも事実だった
何故かは解らないが、この男の言葉はスッと胸に入ってくるのだ
今まで、どんな人間の言葉にも感銘を受けた事の無い自分が、そんな感情を抱いている事
少女にとってはそっちの方が驚きだった
「…あの、私の事を知っているってどういうことですか」
しばし無言で頁をめくる男に、つい少女は声をかけた
何故か、と言われてもわからない
本当につい、偶然、気紛れで声をかけてしまったのだ
尋ねられた男の方はと言えば、少し嬉しそうに、笑みを深くして答える
「ん、気になるのかい?
そうだね…全部を話すと気が遠くなるほど時間を費やしてしまうけれど…
端的に結論だけを言えば…」
男はそこまで言うと、コーヒーを一気に飲み干し、マグカップをポイッと後ろに投げた、
それもまた次の瞬間には消えていて、床に落ちる事は無かった
ノートは膝の上に置いたままで、その頁は真っ白だった
自分の予想は外れ、この男も詐欺師だったのか、と少女が落胆しかけたところで
男は切りだした
「僕は、キミたちが言うところの神様だよ」
ニッコリと笑いながら、男は詠うように言いきった
「…神…様…?」
少女は、男のあまりの発言に呆れ返った表情を見せた
あの路地裏では確かにペテン師は多かった
それでも自分を神だと言う人はそうは居なかった
居たとすれば、多分それは関わってはいけない人間だ
薬や狂信者だったり、それは様々だが
自分を神だと偽りイコンになりたがる存在は
決まって金持ちか権力者だった
「…あの、からかってるんですか?それとも危ない類の人ですか?」
少女は掛け布団を手繰り寄せながら恐る恐る訊き返した
彼女は少しだけ呆れたような、焦りの様な表情を浮かべているが
男はそれを気にせずに首を横に振った
「ううん、からかってなんか居ないよ
僕はキミたちが言うところの創造主で、
僕はキミを待っていたんだ」
慈しみの表情を浮かべ、男は言葉を紡ぎ始めた
少女はまだ疑わしそうな表情を浮かべているが、男の話を真面目に聴いてみる気になった
何故か、と言われても解らない
それは本当に、ただただ少女の気紛れとしか言えないからだ
「僕はこの世界の歴史を全て知っている
この世界の知識も知恵も、その全ての恩恵も」
基本的には全部、僕が与えたものだから
男はそう言うと椅子から腰を上げ、少女の座るベッドの淵に腰かけた
少女は少し眉をひそめると、男の真意を探ろうとその眼(があると思われる位置)を一直線に見つめた
前髪の隙間から一瞬だけ覗いた男の眼の色に、少女はハッと息をのんだ
眼の色が異常であることは、少女にも解った、むしろ、解ってしまった
自分と同じ、物珍しく、不気味な銀色だったからだ
その視線に知ってか知らずか、男は続ける
「あぁ、言い忘れてたけど、キミを助けたのは僕だよ
それと、それに対するお礼なら必要無いし
そもそもキミは死ねない訳だから、自殺なんてしない方が良いよ
って話をしようと思ってこの小屋に連れて来たんだ
ほら、此処から見えるだろう?あの木」
男はベッドの直線状にある小さな窓を指さした
先程まで男が座っていたから解らなかったが、その先には、
今でこそ雨で視界がかすんでいるが、間違いなく彼女の愛した木があり
彼女が死に場所とした丘があった
「あ、コーヒーのお代わり要る?
寒いよね、暖炉でも作ってみようかな」
男が少女の持つマグカップに手を添えると
不意に重さが増した
手をどければそこには湯気の立つコーヒーがなみなみと注がれていた
さらに、壁に手をかざせば次の瞬間には暖炉が出来ていた
炎が灯り、小屋の中を暖める
「…あの、それってもしかして…」
「あぁ、うん、そう
これが創造主の特権だよ
僕の思いつく限りのものは全て創りだせる
今のところ、唯一無二の力だよ
まぁ、キミもそのうち出来るようにはなるけれど」
男は最後に呟きを漏らし、暖炉の方へと歩んだ
少女は最後の言葉を聴きとれなかったが、まぁ良いかと思って
あたらしいコーヒーを口に含んだ
先ほどとは違って、少し甘い
「あ、さっきちょっと苦そうな顔してたからね、砂糖とミルクを入れておいたよ
厭だった?」
男は振り向かずに言うと、暖炉に薪を蹴りいれた
火は少しだけ怯んだが、その後は新たな薪を隅にしてやろうと、轟々と燃える
「いえ、大丈夫です…というか、良く解りましたね
私、そんなに顔に出てましたか?」
「んー…ほら、言ったでしょ?キミの事は全部解るんだよ、僕はね」
笑顔を浮かべながら、男は振り向いた
その顔を見つめていると、男は更に笑みを深くして言った
「そろそろ話し始めようか?暖かくなってきたしね」
男は、先程椅子の上に置いたノートを拾い上げた
白紙だったはずの頁が、今やびっしりと文字が書かれていたのを、少女は見た
いつの間にか頁をめくったのか?いや、そんなはずはない、先程と同じ頁のはずだ
「じゃあまず、キミの話をしようか」
男は語り始める、少女は少し戸惑った表情で男を見つめた
「…そうだなぁ
どこから話そっか
最初に言っておくけれど、僕はキミが生まれる前からキミを知っていたよ」
男は何処か悲しそうな顔で窓の外を見つめた
勿論口元しか見えてはいない、それでも何故か少女には理解出来た
この男は今、嘆きの表情を浮かべている
少女はコーヒーを静かに啜りながら聴いていた
雨の音は、一向に弱まらない
それどころか、風はさっきよりも強くなっていた気がした
「キミの両親のことだけどね
…えっと、どう言ったらいいのか解らないんだけど
端的に言えば、キミに親は居ないんだ」
男は落ち着きなく空中に視線を泳がせて(いるのだろう)語る
「いや、居るには居る…いや、居たんだけれど
なんといったら良いのかな…キミは僕…僕はキミ…ううん、言い方が解らない
要は、キミには僕の後任をして欲しいんだけれど…えっと…」
少女はコーヒーを啜りながら思う
この人は危険な人では無いけれど、少し頭が弱そうだと
このまま彼に話を進められてはらちが明かないと判断した少女は
逆に自分から質問をぶつけてみる事にした
今更恐れる事は無いし、戸惑う必要もない
冷静になった頭は、むしろ生への執着を切る事でその判断能力を取り戻していた
「…貴方は、本当に神様なの?」
少女の表情は巧く読みとれないが、少しの憤りを含んでいるようだった
少女自身はそれに気づかない、だが、男はその気持ちが痛いほど理解出来た
「うん、キミたちで言うところの神様になるかな
創造主=神って考え方で良いのであれば、だけれど」
「神様って、人を救わないの?
人々を幸せにするために居るんじゃないの?」
子供の頃からの疑問を、気付けば目の前の神を名乗る男にぶつけていた
もうこの際だ、この男が神かどうかは関係ない
ペテン師でも、似非占い師でも、小汚い変質者でも構わない
だって、そう、答えは決まっている
神は人々を救うはずだ、幸せをもたらす筈だ
そうだ、そう答えるに決まっている、
だから、そんな事を言ったらこう言ってやるのだ、彼女は子供の頃から思っていた
「「私は、救われていない」」
男と少女の声が重なった
少女は少しだけ驚きの表情を浮かべた
そして同時に、怪訝そうな顔で男を見つめた
自分が言おうとしていた言葉を、そっくりそのまま
まったく同じタイミングで言われたからだ
「…それに関しては、本当に申し訳ないのだけれど…」
男は知ってか知らずか、少し気まずそうな表情で視線を逸らした(ように見えた)
「…さっきも言ったけど
僕はキミたちを創りだした存在だ
そして君たちは、僕とは無関係に進化し、経験を積み
子を成し、社会を作り、世界と言う概念を持った
キミたちは、僕からして見れば作品だし、有機物とか無機物とか関係なく
キミたちの言うこの世界は僕の『所有物』だ
だから、全てにおいて平等なんだ
創りだしたからこそ、僕はキミたちに手を出すことはできない
もし手を出せば、それは神の役目では無く、まさに人間の王そのものだよ
…確かに、僕が王になればきっと幸せな世界は作れるよ
自惚れじゃなくて、これは確定事項さ
お金も食料も、住む場所も娯楽も人民も、僕は創りだせるからね」
だけど、と男は少し口ごもった
「…だけど、僕はそれをしてはいけないんだ
…さっきも言ったけど、キミたちがこの世界の秩序を創った
僕はその秩序に干渉すること無く存在をしなければいけない
僕は人の心を読む力なんて無いし、海を切り開く事も出来ないよ
そんな力はない、ただ創りだせるだけだからね
僕はキミたちを愛しているよ、だからこそ
誰かに手を貸してはいけないんだ
それこそ、全人類に平等に力を貸さなくてはいけなくなるからね
宗教とか、哲学とか、そういうのは嫌いじゃない
けれど、それに参加して、その思想の元に動く人々だけを救うことはできないし
貧困に喘ぎ苦しむ人々を救えば
肥えた富豪たちにも同じだけの力を貸さなければならない
…利発なキミなら解るだろう?
結局僕が手を下したところで、貧富の差は無くならないし
僕はキミたちを助ける事が出来ないんだ
平等って、つまりそう言う事だからね」
男は悲しそうにそう語ると、口を閉じた
少女は少しだけ眉をひそめて、そして溜息をついた
「…それじゃあ、貴方は何故今更、私を助けたの?
これはダメなんじゃないの?」
矛盾しているじゃない
と指摘をするが、
男は先程の哀しそうな顔からまた笑みを作ると
何食わぬ顔で言い放った
「キミは、人じゃないから良いんだよ
…言ったろ?キミは僕で、僕はキミだ
僕はキミを待っていたし、キミは僕の為に今此処に居る
キミは、特別だからね」
男は少女の前まで歩み、そして少女の手を取って自分の胸に付けた
少女はついに男の化けの皮が剥がれたのかと身構えるが、男の行動は違った
ただ、静かに少女に笑いかけるだけだった
「…ほら、解る?
僕とキミの心臓の動きは全く同じなんだ
血流も、脳の電気信号も、呼吸も、脈拍も
消化器官も、思考回路も、身長も、体重もね
キミは、もう一人の僕で
僕は、もう一人のキミだ
唯一違うのは、当たり前の事だけれど、
歩んだ人生と、その経験の差、くらいかな?」
少女はギョッとした
それこそ、呼吸や思考回路なんて事は解らないが
それでも、男と自分の心臓の鼓動は、まったくと言って良い程一緒だった
今こうやって少しの畏怖を感じて速くなる鼓動すら、彼と同じだった
「…解ってくれたかな」
「…こんな事って…あり得るの?」
少女は未だ信じられないと言った面持ちで男を見上げた
男は微笑みながら言う、その前髪の奥の眼が、細められた気がした
「キミは特別だからね
ずっと待っていたんだ
キミをずっと探していた
キミだけを、僕はずっと求めていた
キミが欲しかった」
男は少女の首に手を回した
柔らかく抱きしめる
良い香りがする、
懐かしい香り、安らぎをもたらす香り
形容し難いけれど、彼はとても優しく少女を抱きしめた
「…なんで、今更私なの?」
少女はまだ少しだけの怒りを残し、男に呟いた
それでもその腕は程かない、むしろ、少女も男の背中に手を回そうとしていた
優しい抱擁は、それだけで彼女の脆い心を支えた
あんな下種な下心ではなく、自分の、それこそ全てを求める様な男の言葉に
少女は自分でも驚くほど素直に言葉を切り出せた
男は、少しだけ哀しそうな声で答える
「キミに降って続いた不幸や事故、事件や辛い出来事は
全てこの世界の陰の部分だ
僕も昔味わった、僕の力の届かない範囲
キミは死ぬことがないから今こうして生きているけれど
普通の人間なら赤子の時すでに死んでいたはずだったし
何より、死を選ぶのももっと早かっただろう
…愛してあげられなかった僕を、許してくれとは言わない
本当は、キミが生まれた瞬間に、キミの傍で祝福したかった…
キミをもっと速く抱きしめたかったんだけれど…
今日、この瞬間までキミに触れる事も、キミに逢う事も許されなかったんだ
僕よりももっと強い存在…運命って言うんだけれど、
それに阻まれてしまってね…」
男は優しく少女の耳元で囁いた
それは恋人に囁くような甘い言葉ではない
むしろ、親が子に囁くような、当たり前の様な行動
愛情の溢れた抱擁と、愛情を込めた言葉
少女の頬に一筋の涙が伝った
理由は解らない、ただただ、今は泣きたかった
嬉しさとか、哀しみとか、それ以外にももっと色々な感情が鬩ぎ合う心を
今はただ、溢れだす心を、塞き止める全てが邪魔だった
涙を零し、少女は大きな声で泣いた
どれだけ久しぶりだろう
大声で泣き喚いた、ただただ目の前の男に縋った
みっともないほど、涙が止まらなかった
男は少しだけ抱きしめる力を緩めて、少女と向き合う
「…今から話す事は、本当に大事なことなんだ
この世界にとっても、僕にとっても
勿論キミにとっても大事なことだ」
少女の涙を指で優しく拭って、男は語る
「この世界の神様という存在は、常に形を変えてきた
まぁ、結局は全部僕なんだけれどね
僕は不老不死だ、勿論、キミもね
不老不死は文字通り不死だ
だけど、不死でも限界がある
創造主としての限界が
…この力は、実は随分と燃費が悪いんだ
不老不死と言え、使い続ければ息絶える
いや、言い方に語弊があるかな…
精神が死ぬんだ
使わないで居れば、少しは送らせることもできるけど
それでもいつかは死ぬ、心が死ぬ
だから、創造主である僕にはキミが必要なんだ
この世界の陰を知る存在
創造主である僕の手が、唯一届かない存在
慈愛の心を持ち、絶対の鉄則を守り抜ける存在
それが、キミなんだ」
少女は少しだけ顔を上げると、男の顔をまじまじと見た
「…勝手な話だって事は解っている、キミの思考が追いついてないのも解っている
残酷だし、とてもじゃないが、耐えられる事ではないだろうって事も知っている
それでも、この話は今しなくてはならないんだ
キミをこの世界から救うためには、キミが神にならなくてはならない
キミが、僕の後を継ぐ存在にならねばならないんだ
…僕が存在することでキミの不幸を消す事も出来る
けれど、それも長くは無い
…少なくとも、キミよりも先に僕は息絶えてしまうだろうからね」
男は悲しみと、焦りが混ざったような表情で苦しそうに呟いた
「キミをまた一人にしてしまうし、キミにとってこれほど身勝手であり得ない話もないだろうけれど
…すまない、これがキミに課せられた人生で、キミにこれから負わせようとしている仕事なんだ」
男は申し訳なさそうに少女に言った
少女は不思議そうな表情で問う
「…じゃあ、貴方は…私の家族…なの?
それとも友達なの?恋人なの?私の親…なの?
私に神様に成れって言って消えるの?
愛してるって言ってくれるくせに、私はまた一人なの?」
ついさっきまでどこの誰とも解らない男だった人に
少女は縋っていた
あり得ない事だけれど、少女もまた
男を古くから知っているような気がした
信頼のおける存在であり、私の唯一の味方
…何故か少女はそう確信していた
何故と問われても解らない
何故か、という表現しか出来ないが
何度も重なる気紛れと、何度も重なる偶然
彼女にはそれがとても自然な事のように感じた
何故かなんて、解らない、そんな事は、誰にも解らない
男は俯き気味に言った
悔しげに語るその姿に、男の感情が嘘ではないことが解る
「…申し訳ないと思っているよ
…僕も、この行動は本意ではない
できれば、僕はキミと一緒に暮らしたい
キミと共に死んでいきたい
キミと共に生きて、キミと共に幸せを実感したい
僕も、誰かを…いや、キミを愛したい」
男は言葉を絞り出した、苦しそうに、この運命を呪うように
少女は、黙って男の言葉を聴いていた
無意識のうちに、ベッドシーツを強く握りしめていたのか
掌が汗ばんでいる事に、今更気付いた
「…僕は…僕には、愛とか、幸せが解らない
キミの成長を楽しみにしていたし、キミがここに来ることも楽しみにしていた
会いたいと思った事も何度もあった
そしてずっとキミに抱き続けてきたこの感情が愛なのか
僕には解らないんだ
それでも、僕はキミを救いたいから…だから…
だから僕は、キミを、神にする
正しい手順を踏み、キミを僕の後継人にする
準備はできているよ、後は、キミの…
キミの気持ち次第だ
…僕にはこの世界を管理する義務がある
そしてこの鎖で縛れば、キミを苦痛から解放することはできる
キミは自由になれるし、きっと幸せを得られる…はずだ
…キミは、どうしたい?」
男が言い切ると、少女はまた涙を浮かべた
悲しみなのか喜びなのか
怒りなのか、はたまた別の感情なのか
男には解らない、だけど少女は泣きじゃくりながら言った
「私は…私はきっと独りじゃ幸せには成れない
これは貴方の記憶なの?それとも私が忘れていただけなの?
この世界を好きに動かしたところで、私は幸せにはなれない
…私はもう…この世界をどういう風に見ても
私はきっと、貴方の様に、この世界を護れない…」
男と少女の思考回路が繋がる
彼女の頭の中に、男の過去や、さらにその膨大な知識や記憶までもが送り込まれる
気が遠くなるほどの時を、ただ一人で過ごしてきた男の感情が、流れ込む
自分より、遥かに長い時間、遥かに辛い経験をしているのか、この人は
それを知ったとたん、涙が溢れた、とめどなく
この涙は誰の為の涙なのだろうか
葛藤しながら私を愛してくれようとする、この男の為の涙なのだろうか
それとも自分を慰める涙なのだろうか
何にしても、どうでも良い
私はこの世界を護る気は無い
この世界に、護る価値は無い
この世界の為に不幸になるなら
「…私は神様になんてならない、幸せをくれると言うなら
神様じゃなくて、私は、ただ貴方が欲しい…っ」
語気を強めて言いきると、戸惑った表情を浮かべる男に
少女は深くキスをした
――――
今、少女は毛布にくるまって静かに寝息を立てている
生まれて初めて幸せを知る少女の寝顔は、微笑みの浮かぶ
とても綺麗なものだった
男は窓の外を見遣る
もう雨は上がっていた
まだ雲が太陽を隠しているが、そんな事はどうでもよかった
風も止んだ、静かな曇りの日
男は静かに窓を開け、湿った空気を胸いっぱいに吸った
雨上がりの匂いがした
寒くも暑くもない
ここに住み始めてからは、季節も時間も気にした事は無かった
彼女が言うには、今は春らしい
先程までの天候は春雷だろうか?
いや、雨と風だけだったのだから雷では無いか
男はベッドを振りかえる
先程の事を思い出し、男は苦笑を浮かべた
「…キスって、本で読んだことはあったけれど…」
少しだけ頬が熱くなる
これが恋と言うものなのだろうか、と
男は少し考えたが、すぐに思考を切り替えた
むしろ問題なのはこれからだ
世界をどうしていくのか…
創造主としてどうすべきなのか
一人の少女の為に、世界は終わるのかもしれない
それでもいいと、男は思った
「僕のやっている事は、どこか歪んでいるのかな」
呟いて、空に手をかざす
強い風を創り出し、重く暗かった雲を散らした
一瞬で晴天に変わった空の下、今度は丘の上の木に手をかざす
次の瞬間には満開の桜の木
この世界には本来存在しないはずであるその木に
咲く筈の無い花が咲いた
男は笑みを崩さずにその風景を眺める
本来、あの木は嫌われるように創ったはずだった
万人から嫌われ、忘れられるように
まるで、かつての自分のように
彼女は、そんな木を好きだと言ってくれた
因果な巡り合わせではないか、と男は思う
自分が創った世界で、大嫌いな運命が創った存在を深く愛し
愛しい彼女を抱きしめた
やっと、今、此処で
歪んだ愛情だろうか
それでも良いと思った
少女が寝息を立てるベッドの横に腰をおろし
男は右手をかざした
その手にマグカップ、中にはコーヒー
左手には本を一冊…
少女の額に口づけを落とし
そして男は手に持った本を開いた――――
「13京361兆28億2000万3457冊目
新しい物語の、はじまり、はじまり…」
―――――――fin
はい
書きたかったのは多分、神様とヤンデレです
全然それが書き切れてないのは一体どういうことなんだ、とか怒鳴らないでください
本当に、文才ないのに何してんだお前とか言わないでください
結構真面目に凹みます
ちなみに
本編中に使われた英文の和訳ですが
これはフォレストガンプの中で言われているセリフの一つで
『人生は、チョコレートの箱の様なものだったよ
何が出てくるかわからないからね』
と言う意味です
男が一体何を想ってそう言ったのかは
皆様のご想像にお任せします
はい
兎に角、此処まで読んでいただき、誠にありがとうございます
ご感想、ご指摘等頂けましたら嬉しいです
矛盾点とか、おかしな部分がいっぱいあったと思いますが
本当に、読んでいただきありがとうございました