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私は何もできないという話。

作者: 才能のなかった人。
掲載日:2026/06/12

 

 私は、何もできない人間であります。


 ただの悲観的な人間ではありません。

 ただ、欠陥を抱え、自覚しているだけでございます。



 みなさま、自分に出来ることを教えて欲しい。

 こう言うと、口を揃えて皆様は仰るのでしょう。



「私はピアノが出来ます」

「私は歌うことが出来ます」

「私は勉強が出来ます」



 うむ。大いに結構でございます。

 さあ、貴方も一番の特技を思い浮かべて下さい。


 思い浮かべましたでしょうか。

 よし、よし。では問いましょう。



 それは、本当に出来たと言えるのだろうか。



 さて。困惑されましたか?

 自分の得意な事に迷いを持ちましたか?



 少なくとも、私は。

 これを聞かれると、全ての自信を失います。


 自分の心に偽らずに、迷いなく。

「私は出来ます」などと言えたら良いのですが。


 しかし。しかし。

 私は、自信を持つ事にこそ、迷いを覚えるのです。

 そう設計されていると言っていいのです。



「私は小説が書けます」



 きっと、私はこれを語ることが許されます。

 何故なら、今こうして文字を書いているからで。


 少なくとも、書こうとする意思はあり。

 これを電子の海に流せば、小説という媒体になる。


 だが、もし感想欄で。

 こう聞かれたとしましょう。



「それを面白いと思っているのですか?」



 うむ、心臓が止まります。

 冷や汗が湧き出て、唇が痙攣するでしょう。


 自分の足元から力が抜け、みっともなく泣き。

 この大地に存在した事への許しを乞うでしょう。



 私の中で"出来る"とは。

 "他人より優れている"という事なのですから。



 他人という物差しがなければ"出来る"と言えない。

 これが、私という人間の欠陥なのでございます。


 "出来る"があるなら、"出来ない''がある。

 "出来ない"人間がいて、"出来る"自分がいる。


 こうも、傲慢な関係式を作らねば。

 私は、自分に自信を持つ事が出来ないのです。



 私は文字の世界ではなく。

 血と肉と汚物に塗れた、現実世界に生きている。


 家出少女は道端に落ちていない。

 隠された実力で成り上がる事も出来やしない。

 夢と魔法は、紙と画面の上でしか成り立たない。


 頼れる仲間もいなければ。

 怒りをぶつける敵もいない。

 どうしようもない虚無の中、私は生きている。



 故に、何も出来ないのです。

 何かをすることはあったとしても。

 私の人生は、誰にも批評されないのですから。


 故に、何もできないのです。

 私は自分より上の人間を、画面の先に見るばかり。

 自分は主人公ではないと思い知らされるばかり。


 ああ、ははは。どうしようもない。

 ため息と嘆息と血反吐を一息に吐きそうな気分で。

 それが出来れば、どんなに痛快かと嘆くばかり。




 窓の外を見れば、太陽が沈む頃合い。

 明日は休日ですが、米くらい炊いておかねば。


 あァ、生きる事を誇りに思えるようになれば。

 私は、何かをできる人間になれるのでしょうか?


 それは、誰も知らない事なのでしょう。

 誰も知っては、いけないのです。



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― 新着の感想 ―
 重箱の隅をつつくようですが、論理に飛躍があると思います。 >「それを面白いと思っているのですか?」  この質問と、 >私の中で"出来る"とは。 >"他人より優れている"という事なのですから。 …
 素敵な純文学!  判ります、沢山近現代を読みましたね。    お疲れ様です、素敵です!!
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