この人生はIFです。
最近、ある都市伝説が広まっている。
曰く――。
「おはようございます。突然ですが、申し上げます。あなたが生きているこの人生はIFのものなんです」
起きた瞬間に美少女が現れて今の人生がIFだって告げるんだと。
よーするに、今、まさにこの状況だ。
「驚きましたか?」
「うん。知らん人が僕のベッドで寝そべっていることに驚いている」
「そこに驚くんですか」
彼女はそう言う。
都市伝説の通り、肌が透けて見えるほどの薄布を申し訳程度に纏い、男の子なら絶対に見惚れるような眩い笑みを受けべながら。
「IFってことに驚かないんですか?」
「女の子がベッドに寝そべっている事の方がよっぽど衝撃大きいかな。おまけにこっち男だし」
「据え膳ではありませんよ?」
舌を悪戯っぽく見せたのちに彼女は離れる。
「さて。改めまして。あなたの今、生きている人生は実のところ正史ではないんです」
「正史だとかIFだとか……意味が分からないけれど」
「そうですよね。普通ならびっくりすると思います。ですがね――」
そうして彼女は説明を始める。
飽きるほど聞いていた都市伝説の中身を。
よーするに。
「あなたは正史……まぁ、要するに本来あなたが歩むべき人生でとっても強い後悔をするんです」
その強い後悔が未練となり、未練が可能性を生み、そして別の世界が作り出されて――。
「今、あなたが生きているというわけなんですよね」
「んな滅茶苦茶な……」
「ええ。本当にそう思います。だけどね、これは事実なんですよ」
俄かには信じられない事だけど、もっと信じられない女が目の前に居るので信じるしかない。
「それで。僕はどんな後悔をするんだい」
「それは言えませんよ。ですがね、その理由に一番心当たりがあるのはあなたなんじゃないですか? 良いですか? これはやり直しの機会なんです!」
さて。
ここまでは都市伝説の通りだ。
よーするに。
この女は肝心なことは何も言わない。
だけど、今、歩んでいる人生がIFであり、つまりは『やり直し』であることを教えてくれる。
そして。
「私が言えるのはここまでなんです。ごめんなさいね」
一方的に語って消えてしまう。
本当に余韻もなく、一瞬で。
もうなんて言うか、夢を見ていたんじゃないかって思うくらい一瞬で。
「IFの人生ね……」
一人きりの部屋で僕は呟く。
本来の僕はどんな人生を歩んだんだろう?
そして、どんな後悔をしたんだろう?
なんにも分からない。
だけど――。
「……やってみよう」
僕は自分の望む道を歩むことを心に決めた。
だって、求め続けていた切っ掛けがようやく出来たのだから。
*
「人間って本当に馬鹿丸出しね」
最近新しい悪戯を覚えた小悪魔が呟いた。
実際、この遊びは中々楽しかった。
人間と言うのは社会と言う構造と常識と言う文化にガチガチに縛られた生き物だ。
そんな中で動きが大きく制限されている。
だからこそ、道を踏み外させるのが心地よい。
「ちょっとした誘惑じゃ動かないくせに。せっかくのやり直しの機会だよ~って言えば御覧の通りってね」
くすくす笑う小悪魔。
実際、この甘言に惑わされた人間たちは例外なく無謀な道を歩みだしているのだ。
「あーあ、おかしぃ! さて、明日は誰の前に行こうかなっ」
質の悪い小悪魔の新しい悪戯。
悪意に満ちた甘言。
それが意外なほど人々の未来を良い意味で変えていることを彼女が知らないのは案外神の慈悲なのかもしれない。




