掟―ソコニ在ルダケ
「…第十二条。赤い漬物は、一口で食べねばならぬ。」
祭の日だった。
若者が一口で飲み込めず赤い欠片を床に落とした。
「あっ」
村人達がそれを見つめる。酔っていた者も踊っていた者も途端に彼を見つめる。
「はっは…。」
若者は笑って誤魔化そうとした。
ガタッ…ガラッガタッ…。
ダッダッ。
「うっ!」
バンッ!ダンッ!
ある者は締め上げ、ある者は口を抑え、みんな椅子や拳で交互に叩いた。
「アッ、アァッ…!」
ダンダンダン。
カウンターから豪田、ここの店長が中華包丁を片手に飛び出してくる。
バンッ、バンッ…。
グチャッ。
村の噂によると、世間では高度経済成長などと呼ばれる時代らしい。…あれ、どうだっけ。ちょっと前のコトだったかもしれない。
私はオキテだ。
村掟は昔から在るが移り変わるものだ。今在る掟は殆ど白井善三が定めた。だが、彼が私を生み出したのではない。私は彼によって、つくられていない。
そこに在るだけだ。
オキテとして在り、ソレはゼッタイで破った者には執行スル。
しかし、断じて私が手を下してはいない。罰を与えるのは村人達だ。彼らはオキテヤブリを赦さず、死刑ニスル。
私はそこに在るだけだ。
村長が死ンダ。自ら火に飛び込んだ。私はタダ見テイタ。オキテは消えなかった。そこに在り続けた。斎森の教祖が引キ継イダ。ダカラ掟は在った。
ソコに在るだけだ。
教祖が死ンダ。施設モ教会モ燃エタ。教祖は、チガッタカモ。でも死ンダ。掟は廃止サレタ。
もう、ソコにオキテは無カッタ。
今日は令和というヤツラシイ。
蔵の…、焼ケ跡…ソノ奥深ク………アノ檻ニ、オキテハ在ル。




