85.大丈夫だろう?
コトラトの世界は、再び動き出した。
華々しい様子でもなければ、凱旋の歓声もない。まるで長い迷夢から目覚めたばかりの人間のように、戸惑いながらゆっくりと、深く息をするのも怖いように。
空はついに色を変えることを敢えた。
一気に晴れ渡る青になったわけではない。ただ、灰色からかつての色へと、淡いグラデーションがそっと忍び寄るばかり。雲はためらいながら動き、まるで「自分たちはまた動いてもいいのか」と尋ねているようだ。風は微かに吹き抜け、ほとんど感じられないほどだが、埃と完全には消え去っていないエネルギーの残滓を運んでくる。
足元の大地はもはや凍りついていないが、至る所に亀裂が残っている。つつの亀裂は、かつてこの世界を屈せさせた意思の痕跡だ。
廃墟の中、彼らは立っていた。
英雄としてでもなく。
神としてでもない。
ただ、自分自身として。
英雄アズダールの身体は震えていた。
いままで彼を包んでいた黄金色の光は薄れ始め、疲れ切った心臓のようにゆっくりと鼓動する。その巨人の姿はドラマチックに崩れ落ちたのではなく……ただ、解けていった。
光の層はつひとつ薄れていく。
つの意思は、再び六つに分かれた。
れいじろうが先に膝をついて崩れ落ち、息が詰まるような様子で掌を地面に押しつけていた。まるで手を離せば世界が再び消え去ってしまうかのように。たけるは続いて力強く拳を握った——怒りからではなく、今はもう存在しない力を身体がまだ覚えているからだ。
じょうしろうは長い間黙っていて、自分の指先を見つめていた。まるで「どうしてこの手が、こんなに……小さく感じるのか」と自問しているようだ。ゆかりは息を潜め、胸が上下に動いている。一方ヨルは少し離れた場所に立ち、うつむいて新しく色を取り戻した空を見ることを拒んでいる。はるなは唇を噛み、目元が濡れていた——悲しみからではなく、遅すぎた安堵からだ。
彼らは戻ってきた。
伝説としてではなく。
ただ、生き残った人間として。
数歩先には、巨大なゴッドザーの姿がじっと立っていた。
姿に刻まれた亀裂はますますはっきりとしている。黒い身体の奥にあるかすかな光はゆっくりと点滅し、もはや安定していない。圧倒的なオーラもなければ、世界を屈せさせる意思もない。
ただ、残滓として。
ゴッドザーは吠えなかった。
爆発の中に消え去ることもなかった。
ただ……自らの内側に崩れ落ちていった。
まるで、役目を終えた概念のように。
光は縮み、一つに融け合い、そして完全に消え去った。
残されたのは、他の者たちと同じ大地に立つ三つの姿だけだった。
サタン。
ソニア。
シラナギ。
ソニアは足が完全に地面についた瞬間、少しよろめいた。身体は軽くもあり重くもあった——軽いのは力が去ったからで、重いのは終わったばかりの全てがついに追いついてきたからだ。
シラナギは深く息を吸い込んだ。目は昔ながらの習慣で周囲の世界を見渡し、分析し、確かめようとしていた。だが今回は、準備する必要がない。
次の戦いなどない。
初めて……彼は何をすればいいのか分からなかった。
サタンは少し離れた場所に立っていた。
傷もなければ、肉体的に疲れている様子もない。だが彼が世界を見つめる仕草には、誰にも見えない何かを見ているようなものがあった。
それは、もう終わった何かだった。
数メートル先、薄れ去ったエネルギーの瓦礫の中に、一人の青年の身体が横たわっていた。
ショウヤ。
身体は無傷だ。
息もしている。
胸はゆっくりと規則的に上下し、まるで深く眠り込んでいるかのようだ。奇妙な光もなければ、世界の意思が彼にまとわりついている様子もない。彼はただ、意識を失った人間であり、かつて彼の命を奪いかけた役割から解き放たれていた。
一番最初に走っていったのはソニアだ。
ショウヤの横に膝をつき、震える手で彼の肩に触れた。反応はなかった。だが息は確かにある。温かかった。
「彼……生きてる」
ささやく声は、同時に見知らぬものであり神聖なものだった。
貴族パーティーはゆっくりと近づいてきた。歓声もなければ、あまりに激しく流れる涙もない。ただ、あまりに大きすぎてすぐには言葉にできない感謝の気持ちで満たされた、重い沈黙だけがあった。
れいじろうは深く頭を下げた。
たけるは目を閉じた。
ゆかりは優しくショウヤの額に手を当て、そっとれいじろうの方を見た。
「ありがとう」
はるなはつぶやいた。誰に対してかは分からない。
世界は救われた。
だが完璧ではない。
廃墟はまだ残っている。古い意思の痕跡は至る所に刻まれている。時間が必要だ。努力が必要だ。残り続けて、修復できるものは修復しようと選ぶ人々が必要だ。
遠く、地の深くにあるアクシス・ヴィタエはまだ完全に目覚めていない。だが鼓動は戻ってきた。遅いが、確かに存在する。世界はまだ生きている。
それで十分だ。
ソニアは立ち上がった。
振り返ってサタンを見た。
一瞬、迷った。
それからゆっくりと近づいていった。
焦る様子もなければ、ドラマチックな様子もない。
サタンの前で立ち止まり、表情からは感情が一切読み取れない顔を見つめた。その瞳は静かだ。世界の滅亡を終わらせたばかりの者としては、あまりにも静かすぎる。
ソニアは彼を抱きしめた。
抱擁は単純だった。
強く締め付ける様子もなければ、震える様子もない。
ただ「私がここにいるよ」と伝える接触に過ぎなかった。
「……」
サタンは動かなかった。
ソニアは額をサタンの胸に寄せた。深く息を吸い込み、まるでこの瞬間が現実であることを確かめるようだ。
「やったね……ね?」
声は小さかった。
即座の返事はなかった。
笑顔もなければ、抱きしめ返す様子もない。
だがサタンは彼女を拒まなかった。
それだけが、今のソニアには十分だった……今のところは。
沈黙の中で、サタンは何かを理解した。
命令でもなければ、運命でもない。
これまで理論上でしか理解していなかった概念が、ついに形を持った。
守ること。
それは、「しなければならないから」ではない。
「そのために作られたから」でもない。
ただ、もし自分がしなければ、誰かが傷ついてしまうからだ。
ソーニャはゆっくりと抱きしめを解き、サタンの顔を見つめた。本当は望んでいながらも、あまりに強く望むことを恐れているようだ。
シラナギは数歩後ろに立っていた。彼は既に分かっていた。最初から、この瞬間が来ることを知っていた。
貴族パーティーもそれを感じ取っていた。
この沈黙は……普通の終わりではない。
サタンは全員の方を振り向いた。
宣言もなければ、荘厳な口調もない。
ただ、まるで世界に聞かれたくないかのように、平板でかすかな声だった。
「俺が……行ったとしても……」
瞬、言葉を詰まらせた。
「……この世界は大丈夫だろう?」
言葉は静かに落ちた。
だが、どんな戦いよりも強く心を打ち抜いた。
ソーニャは体が固まった。
手はまだサタンの衣の裾を握っている。まるで今手を離せば、答えが現実になってしまうかのように。
シラナギは一瞬、目を閉じた。
貴族パーティーは黙っていた。
即座に答える者は誰もいなかった。
風が再び吹き抜ける。
空は色を変え続けている。
コトラトの世界は前に進み続ける。
そしてサタンは……待っていた。
「次回更新: 3月 2日 21:00」




