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虚無王ザラビスは退屈している  作者: 釘宮・連
ザラビスの起源に関する注釈
84/95

84.色を失った世界、選ばれた滅び

コトラトの世界は、もはや本来あるべきように動かなくなっていた。


かつて光とエネルギーで亀裂が入っていた空は、今やただ静かに浮かび、青白く、明暗の境目もない。昼もなければ夜もない。ただ灰色の広がりが、まだ立っている者全ての意識を圧しつぶすばかりだ。


その虚ろな世界の中心に、ノロはいた。


あるいは、もっと正確に言えば、そびえ立っていた。


彼の肉体は、あらゆる生物の姿をはるかに超えて変化していた。肉とエネルギーが一体化し、宇宙的な巨体とも言える構造になり、数百メートルにわたって広がり、地平線を覆い隠していた。彼の一挙手一投足が生み出す圧力は、現実さえも震わせる。


その前で、空が裂けた。


ゴッドサーが現れた。


その魔王の姿は威風堂々としたものではなく、シンプルだった。黒い姿の身体には亀裂が入り、そこから薄い光が漏れている。だが彼がもたらす圧力は、虚ろな世界さえも息苦しくさせる。


ゴッドサーの中核にある意識の中心には、サタンが立っていた。


そして彼と共に、ソニアとシラナギもいた。


叫び声もなければ、挑発的な言葉もない。


ゴッドサーは一歩を踏み出した。


凍りついた大地が衝撃波で崩れ落ちる。その一踏みで、ゴッドサーは一気に駆け出し、拳を巨大なノロの身体に振り下ろした。最初の衝突は音を立てず、絶対的な静寂をもたらした。


それから――


ブーン!


エネルギーの波が四方八方に爆発した。ノロの体外層に亀裂が入り、異質な光が中から漏れ出した。だがノロは後ずさまなかった。


かえって笑い出した。


「……これがお前たちの力か?」ノロの声は響き渡り、異次元からの音と混ざり合っていた。「俺はこの世界の器だ。俺こそが世界の意思そのものだ!」


彼の身体が動いた。巨大な腕が横に振りかかり、ゴッドサーを後ろへ跳ね返させた。その一振り一振りが、まるで空間自体が彼に触れるのを拒んでいるかのような歪みを生み出す。


ゴッドサーは再び駆け出した。


拳と拳がぶつかり合う。速く、過酷で、途切れることなく。


複雑な技は一切なく、ただ純粋な力がぶつかり合うばかりだった。


だが戦いの最中、何かが違和感を覚えさせた。


ゴッドサーの意識の中で、サタンは眉をひそめた。


ノロの攻撃のせいでもなければ、増大し続けるエネルギーのせいでもない。


ただ、ある「感覚」のせいだ。


何か懐かしいものがある。


「ソニア」サタンの声は、共有された意識の中で静かに響いた。


「お前も感じているか?」


ソニアは黙っていた。胸が締め付けられるような感覚がした。ゴッドサーがノロの身体に近づくたびに、不思議な鼓動があり、まるでここにあるはずのない記憶の残響のようだった。


「その中に……」彼女はささやいた。「誰かが……いる」


シラナギは目を細めた。彼は感知力を集中させ、エネルギーの層とノロの意思を突き抜けようとした。


そしてその瞬間、彼は見つけた。


目で見たのではない。


記憶で感じたのだ。


「……ショウヤ」


その名前が彼らの意識の中に浮かんだ。


遠くでは、今や一つに融合してアズダールとなった貴族パーティーも、同じことを感じていた。融合した身体が震え、心拍数が狂い始めた。


アズダールの意識の中心にいる礼次郎は黙っていた。


猛は拳を握り締めた。


由香里は息を呑んだ。


夜は顔をそむけた。


春名は唇を噛んだ。


「……あいつがそこにいる」ジョウシロウの声が震えながら響いた。「ノロの身体の中に」


ゴッドサーは高く跳び上がった。破滅の光が拳に集まっていく。


あと一撃。


ただそれだけで、全てが終わるはずだった。


「止まれ」


その声は金槌のように落ちてきた。


ゴッドサーは空中で動きを止めた。


集められたエネルギーが震え、コントロール不能になりかけていた。ソニアは目を見開き、シラナギはすぐに意識の中心へ視線を向けた。


「サタン――!」


「壊すな」サタンは平然と言った。「まだだ」


ノロは大声で笑いたてたが、その裏には慌てたような調子が混じっていた。


「ためらってるのか?」彼はけなした。「遅い。この世界は俺のものだ!」


彼は顔を空に向けた。


「ゴバン!」ノロは叫んだ。「エネルギーを供給しろ!今すぐ!」


応える声はなかった。


ノロは凍りついた。


もう一度、より大きな声で、あがてるように叫んだ。


「ゴバン!!」


静寂だった。


共鳴もなければ、追加のエネルギーの流れもない。存在さえ感じられない。


彼の意思が届くことさえできない場所で……ゴバンは消えていた。痕跡さえ残さず、何かの存在によって抹殺されていた。


ノロは震え始めた。


「何……が起こっている?」彼はつぶやいた。


世界の器となってから初めて、ノロは一人きりになった。


そしてその時、彼は気づいた。


エネルギーで形成された巨大な腕の中に、小さな鼓動がある。儚く、弱々しいが、確かに存在していた。


「……ここに隠れていたのか」ノロはゆっくりと言った。「あいつらの友よ」


彼はまた笑い出した。今度は……狂ったような笑いだ。


「ならば、一緒に滅びろ」


エネルギーが彼の腕に集中していく。


アズダールは思考よりも速く動いた。


「やめろ!!」


巨大な勇者アズダールの身体が一気に駆け出し、エネルギーが放出される前にノロの腕にぶつかった。衝突はノロの宇宙的な構造に大きな亀裂を生み出した。


「ショウヤがそこにいる!」アズダールは叫んだ。「まだ生きている!」


ノロは唸った。「それがどうした?!」


ゴッドサーは二人の間に着地した。


しばらくの間、誰も動かなかった。


それからアズダールは顔を向けた。


融合したその表情に怒りもなく、絶望もなかった。


ただ……毅然としていた。


「さあ」彼は静かに言った。

「滅ぼせ」


ソニアは驚いた。「待って――!」


「彼は選んだ」アズダールは続けた。「そして俺たちも選ぶ」


サタンは彼らを見つめた。


その一瞬は長く感じられた。


それから彼はわずかに微笑んだ。


「了解だ」


ゴッドサーは消えた。


駆け出したのでもなく、移動したのでもない。


ただ……ノロの前にいた。


ゴッドサーの拳が、巨大な身体の中心に貫通した。血もなければ、悲鳴もなかった。


ただ現実が砕け散る音だけだった。


ノロの身体は崩れ落ちた。宇宙的な構造は数千のエネルギーの破片に裂け、それぞれが世界とその創造主の残りの意思を運んで飛び散った。


光が広がった。


色彩が……やがて戻り始めた。


空はゆっくりと青い色合いを取り戻し、大地には質感が戻り、空気は生命の鼓動を取り戻した。


エネルギーの瓦礫の中、地下深くにあるアクシス・ヴィタエは最後の震動を感じ取った。


彼女の瞼が……動いた。


ゆっくりと。


そして目を開いた。


上空には、戦士たちが静寂の中に立っていた。


戦いは終わった。

だが世界は……今ややっと呼吸を始めたばかりだ。

「次回更新: 2月 28日 21:00」

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