82.色を失っても、前に進む者たち
コトラトの空は崩れない。
それは支えられている。
色を失った世界の層の下、もはや大地とも呼べない存在の深淵で、アクシス・ヴィタエは依然として屹立している。その身体は亀裂の入った創造の紋章に束縛され、エネルギーの鼓動はもはや安定していない。
本来ならば、もう死んでいるはずだ。
だが彼は生き延びている。
強さのせいではない。
むしろ、自身が創り出した世界を時期尚早に滅ぼさせることを拒んでいるからだ。
しかし残念ながら――
コトラトの空の上、はがれ落ちた現実の層の彼方に、ゴバンは立っている。
静かに。
動かずに。
だが時が経つたびに、アクシス・ヴィタエのエネルギーは着実に、容赦なく、ゆっくりと吸い取られ続けている。
そして世界は……時を失い始めている。
世界を消し去る衝突
コトラトの世界は既に色を失っていた。
サタンとノロが再び動き出す。
予告もない。
対話もない。
ただ互いを抹殺しようという意志だけがある。
ノロが動く。
シューッ → バーン
ノロの拳が先に打ち込んだ――
攻撃としてではなく、存在を主張する行為としてだ。
サタンはこれを払いのける。
衝突は音を立てなかった。
だが崩壊の波がコトラトの大地を駆け巡り、空間を折りたたみ、地平線をひっくり返し、一瞬で世界の一層を消し去った。
(ノロ)バーン→
←バーン(サタン)
(ノロ)バーン→
彼らは空の上、もはや空間とも呼べない場所で殴り合いを繰り返す。それぞれの打撃は、世界が強制的に再び存在する前に、一時的な虚無を生み出す。
ノロはさらに速く動き出す。
悪魔の爪は伸びる。力を解き放ったからではなく、闘いの最中に身体が進化しているからだ。
彼は学ぶ。
適応する。
成長する。
サタンは一歩後ずさりした。
傷ついたからではない。
むしろ、背後の世界が予想以上に早く崩れ落ちているからだ。
「……お前は速くなったな」と彼は平板な声でつぶやく。
ノロは答えない。
再び攻撃を仕掛ける。
戦場の残滓
遠くに――
融合した五体の悪魔エグアマが、姿を失った二体の護戒衆の廃墟の上に立っている。
それらの身体は崩れていない。
抹殺されているのだ。
残り三体の護戒衆は依然として抵抗しており、空に向かって咆哮し、世界を自らの存在に屈せさせようとしている。
ソニアはよろめき、二枚刃の鎌が激しく震えている。彼女の一振り一振りは以前より重たく感じられ、まるで世界自身が動く前に許可を求めているかのようだ。
シラナギはひざまずき、両手で絶えず崩れ落ちる安定化の紋章を押さえつけている。
「我々……余裕がない」と彼はつぶやく。
彼は感じ取っている。
敗北ではない。
むしろ世界が諦め始めているのだ。
解き放たれた速度
サタンはちらりと視線をそらす。
彼の眼は一つの単純な事実を捉えた:
このままでは……どちらかが倒れる前に、世界が先に崩れ落ちてしまう。
彼は静かに息を吐き出す。
「……分かった」
身体の封印が一段階、亀裂を入れた。
オーラの爆発もない。
宇宙的な圧力もない。
ただ一つの単純な変化――
速度だ。
「ハイパーソニック」
一瞬のうちに――
サタンは姿を消した。
移動したのではない。
テレポートしたのでもない。
彼は動いたのだ。
ノロが気づいた時には、サタンの拳が横から胸を打ち、周囲の存在の層を壊していた。
バーン。
ノロは吹っ飛んだ。
体勢を立て直す暇もなく、サタンは既に上空に現れていた。
バーン
殴る
殴る
殴る
連続した拳がノロの身体に打ち込まれる。一撃一撃は傷つけるためではなく、進化のリズムを乱すためだ。
だが――
ノロは微笑んだ。
気づいたのだ。
彼の身体はさらに速く適応している。
サタンの攻撃一つ一つが彼を強くさせ、一撃一撃が進化を加速させている。
「……なるほどか」とサタンはつぶやく。
抹殺された本拠地
迷いなく――
サタンは鎌を投げ出す。
並の鎌だ。
過剰なオーラもない。
大げさな名前もない。
だがその軌道は現実を切断していく。
コトラトの空高く――
ノロの本来の本拠地、存在の融合と蓄積の中心は、二つに裂けた。
爆発もしない。
崩壊もしない。
ただ消えた。
だがノロは慌てない。
それどころか――
彼は両腕を掲げる。
そして引き寄せる。
本拠地にいた全ての存在――
残りの護戒衆、支援する実体、存在の断片、そしてゴバンによって怪物へと変えられた存在たち。その中には貴族パーティーの仲間であるショウヤも含まれていた。
これら全てが強制的に彼の身体へと融合される。
ノロの身体は大きくなる。
大きくなる。
さらに大きくなる。
コトラトの空は完全に歪み、その影は二つの街を覆い隠した。
サタンは見つめ、探知した。
「……860メートルか」
表情は平板なままだ。
「……名は……ノロ・トゥルー・スカル・デモンガーか?……」
「……まあまあだ」
一瞬、驚いたようなフリをした。
それから小さく微笑んだ。
「後で片付けるよ」
現実は――
止まった。
崩れるわけでも、凍るわけでもない。
強制的に静止させられたのだ。
オムニ・タイム。
制限時間:三分間。
絶対の静寂の中で――
サタンは動き出す。
ソニアに触れる。
シラナギに触れる。
全ての貴族パーティーの面々に触れる。
そして五体の悪魔エグアマに触れる。
一つ一つの接触は力を与えるためではなく、限界を消し去るためだ。
これまで封印されていた可能性が――
解き放たれた。
彼らの身体は震える。
だが時間は動かない。
痛みもない。
崩壊もない。
ただ完全なる自覚だけがある。
瞬く間に――
サタンは元の位置に戻った。
オムニ・タイムの封印は閉じられた。
三分間――
終わった。
時間は再び動き出す。
ノロは唸り、巨大な身体が空を揺るがす。
サタンは手元に戻ってきた鎌を掴む。
並の鎌だ。
彼は大きく微笑んだ。
悪魔の笑いでもない。
神の笑いでもない。
ただ物語の結末を決めた者の微笑みだ。
彼は滑空し、小さく笑いながら言った。
「さあどうする、オメガ?」
鎌は掲げられ――
世界は息を呑んだ。
コトラトの世界……
止まった。
時間が止められたわけではない。
崩壊したわけでもない。
ただ、支えるものがもはや存在しないからだ。
世界の深淵、もはや意味を失った大地のさらに下で、アクシス・ヴィタエはついに崩れ落ちた。その身体は壊れず、爆発せず、劇的に消え去ることもなかった。
ただ消えた。
電源を失ったランプのように。
最後の鼓動は、生き残った全ての存在に感じ取られた――
音としてではなく、道しるべを失った喪失感としてだ。
コトラトの空は青白くなり、大地は質感を失い、世界中の全ての事物は色を褪せていった。
世界の色彩は一つずつ立ち去り、有と無の狭間で凍りついた灰色の風景だけが残された。
だが――
色を失ったこの世界の中で……
彼らだけは色を持っていた。
三分間の後、残りし者
ソニアは息切れしながらも立っている。
二枚刃の鎌は今、違った感触を持っていた。重くも軽くもなく、ただ真っ直ぐな感覚だ。一つ一つの動きに、身体がついに自身の限界を理解し……そこで止まることを拒んでいるような気がする。
シラナギはそばに立っている。
もはや安定化の紋章を無理やり押さえつけることもない。
一人で崩壊と戦うこともない。
彼の眼は静かだ。絶望しているのではなく、ついに何かを悟ったからだ。
「なるほど……これが彼が与えてくれたものか」と彼は静かにつぶやく。
周囲には――
最強の護戒衆の身体が倒れていた。
単に負けたのではない。
打ち破られたのだ。
力任せの攻撃ではなく、シラナギの分析とソニアの決意が完全に同調したことで成し遂げられた。
戦場のもう一方では――
貴族パーティーが動かなくなった二体の護戒衆の上に立っている。
礼次郎はゆっくりと剣を下ろし、息は荒い。
タケルは座り込みながら、信じられないような小さな笑いを浮かべている。
丈士郎は槍にもたれかかり、疲労から肩が震えている。
ユカリは自身の手を見つめ、今になってやっと自分にできることが何か分かったかのようだ。
ハルナは静かに、新たな警戒心を持って戦場を見渡している。
ヨルは……静かに泣いている。恐怖からではなく、まだ生きていることへの感慨からだ。
遠くには――
五体の悪魔エグアマが集まっている。
ユラが先頭に立ち、身体にはまだ完全には治らない傷跡が残っているが、オーラは安定して強固だ。
ニカは嗤いを浮かべ、顔には固まった血がついている。
クロズミは影のように静かだ。
ヒノカは深呼吸をし、眼にはかすかな輝きが宿っている。
そしてユラの兄であるヤシャは腕組みをし、真剣な表情で空を見つめている。
最後の三体の護戒衆は……
もはや存在しない。
常識を滅ぼす規模
そして――
全員がそれを見た。
ノロだ。
その身体は天辺までそびえ、地平線を覆い隠していた。
姿はもはや普通の生き物とは思えず、むしろ形体を与えられた概念のようだ。
860メートル。
人間の本能が悲鳴を上げるようなスケールだ。
ユカリは半歩後ずさり、ハルナは震え、タケルは唾を飲み込み、礼次郎は小さくつぶやいた。
「……これ……冗談か?」と丈士郎はつぶやく。
悪魔エグアマのリーダーであるユラさえも、兄と共に言葉を失っていた。
「あいつが一歩でも動けば……この世界は……消えてしまうかもしれない」と彼女は静かに言う。
恐怖が広がる。
普通の恐怖ではない。
自分たちは本来、このスケールに立ち向かうはずがない――その自覚だ。
だが――
ソーニャは一歩前に踏み出した。
ノロを見つめ、それからサタンの方を見た。彼は世界の虚無の前に一人で立ち、手には並の鎌を持ち、まるで何にも動じないかのように静かに佇んでいる。
「彼……」ソーニャは囁く、「……一人きりだ」
シラナギは顔を向けた。
「気づいていたな」と彼は静かに言う、「我々はあまり役に立てないだろう」
ソーニャは頷く。
「分かってる」
だが眼は揺るがない。
「でも……手伝いたい」
その瞬間――
小さな声が彼女の心に響いた。
速く、静かに、直接的だ。
「ソーニャ」
彼女は少し驚いた。
「命令するんじゃない。……頼む」
「お前たちが……ここにいてほしい」
ソーニャは拳を握る。
涙は流れない。
微笑みを浮かべた。
「……分かった」
彼女は周りの者たちに振り返る。
「手伝おう」
壮絶な演説もない。
英雄的な雄叫びもない。
だが一人ずつ――
彼らは前に進んだ。
世界が凍る
アクシス・ヴィタエは死んだ。
軸がなくなり――
コトラトの世界は完全に凍りついた。
空は動くのを止め、塵は落ちることなく宙に漂い、次元の亀裂はガラスに入った傷のように凍りついていた。
だが彼らは――
動き続けることができた。
サタンが与えた無限の可能性が、世界の凍結を拒んでいるのだ。
無敵ではない。
許されているのだ。
彼らは全員、サタンの背後に集結した。
貴族パーティー、悪魔エグアマ、ソニアとシラナギ――
一列に並び、巨大な存在に立ち向かっていた。
戦いの前
ノロは笑った。
その声は虚無を揺るがす。
「全ての現実を我がものにする」と彼は言う、「もはやどんな世界も、我が存在を拒むことはできない」
サタンは鎌を少し掲げ、小さく笑う。
「面白いな」
ちらりと振り返る。
「お前には俺を殺せやしない」
視線は再びノロへ戻る。
「何しろ……俺は異変の悪魔だ」
ノロの顔は怒りで歪み、巨大なオーラが荒れ狂う。
共に
サタンは前に踏み出す。
ソーニャはそばに立ち、シラナギは二人の後ろにつく。
貴族パーティーと悪魔エグアマは構え、それぞれのオーラは揃っていないが、調和して一体化していた。
サタンは微笑む。
「この世界を再び平穏にする」と彼は静かに言う。
ソーニャ振り返る。
「そうだろ?」
ソーニャは微笑み返す。
「うん」
そして――
彼らは走り出した。
乱雑に突進するのではなく、ついに共通の目的を持った軍勢のようにだ。
サタンの鎌が煌めき、戦いの雄叫びが上がる。
そして色を失った世界で――
コトラト最大の戦いが幕を開けた。
「次回更新: 2月 24日 21:00」




