76.失われゆく名
隠された現実の空間が静かに震えていた。
物理的な震動ではない。
むしろ、本来あってはならない誕生に……適応しようとしているようなものだった。
生ける金属の巣の構造は脈打ち続けていた。透明なエネルギー経路は巨大な血管のように流れ、方向性もなく空間を満たす深い黒みがかった光を運んでいた。
結界の円の中心に——
翔也の肉体はまだ吊るされたままだった。
だが今や、その肉体はもはや彼一人のものではなかった。
彼の幻影を貫くエネルギーの鎖が形を変え始めていた。もはや拘束具のようには見えず……むしろ生える根のように、彼の存在と一体化しつつあった。
翔也の呼吸は切れ切れだった。
目は半分開いている。虹彩が震え、まるで二つの異なる色が場所を奪い合っているかのようだった。
「は……あ……」
苦しむような声は、まるで虚空の中で迷子になった囁きのようだった。
その前に、五番は静かに立っていた。
彼の単眼ドローンが空中でゆっくりと回転し、刻一刻と変わるデータを投影していた。翔也の肉体を構成するあらゆるエネルギー線が、途切れることなくスキャンされ、分析され、記録されていた。
「精神の安定度……低下している」
五番は平板な声でつぶやいた。
一台のドローンが近づき、光線が翔也の顔をなぞった。
「だが魂の核心は……崩壊するのを拒んでいる。興味深い」
床に描かれた儀式の円がさらに明るく輝き始めた。エネルギーの霞が翔也の肉体を数センチ高く持ち上げた。
背骨がゆっくりと湾曲した。
叫ぼうとした——
だが口から出たのは、砕けたようなため息に過ぎなかった。
意識の中で……
幻影が動き始めていた。記憶の欠片がガラスの破片のようにきらめく。
誰かの笑い声。夕暮れの空。
友と共に歩く足音。知っている顔たち。
「……やめろ……」
唇がゆっくりと動いた。
「……消すな……」
エネルギーの霞はさらに激しく脈打った。一本のエネルギー鎖が幻影により深く食い込んだ。
五番のドローンが静かに震え、その変化を記録していた。
「感情的な反応は依然として活性化している」
彼はささやかなように言った。
「通常、最も維持が難しい部分だ」
彼は少しだけ手を挙げた。
翔也の周囲のエネルギーが一瞬強まった。
彼の幻影は床から離れ……ゆっくりと別のシルエットを形成し始めた。より長く、より尖り、不安定な形だった。
翔也は歯を食いしばった。
目に涙が浮かんでいたが、瞳はガラスのようにひび割れ始めていた。
「……俺……」
声は途切れた。
口にしようとした名前は……形になる前に消えてしまった。
五番は微かに微笑んだ。
「アイデンティティが溶け始めている」
メインドローンがさらに近づいた。
「変身は予測通り進行している」
翔也の肉体が激しく震えた。腕の肌には、生きた亀裂のように這う暗いエネルギーの筋が広がり始めていた。
彼は再び動こうとした。エネルギーの鎖が張り詰めた。痛みが意識に襲いかかった。
だが今回は……叫び声はなかった。
ただ長い吐息が聞こえるばかりで……まるで手に負えないほど強い潮流に身を任せ始める人のようだった。
エネルギーの霞が彼の肉体をより深く包み込んだ。
そして初めて——
翔也の幻影が……本来の肉体の動きに従わずに動いた。
──視点変更──
アクシス・ヴィタエの螺旋状の光の道がゆっくりと回転し、サタン率いるグループを世界の表層へと運んでいた。
宇宙的なエネルギーは目に見えない川の流れのように流れていた。
ソニヤは周囲の光の壁を見つめながら歩いていた。
「……マジか。ここ、めまいするわ」
タケルは小さく嗤った。
「まだマシだよ。前、重力がぐるぐる回ってる次元に迷い込んだことがあるんだ」
ソニヤは素早く顔を向けた。
「冗談でしょ?」
「……半分だな」
「ホイ、半分ってなによ!」
ハルナはまだ意識のないユカリを抱きしめながら、こっそりと笑いをこらえていた。
礼次郎は先頭を歩き、視線は依然として静かだった。
「世界のエネルギーが変化している」
白凪は静かに頷いた。
「何か……乱れている」
他のデーモン・エグアマと共に歩くユラは、しばらく目を閉じた。
表情は固くなっていた。
「……叫び声を……感じる」
一瞬、全員の足取りが止まった。
ソニヤが彼女を見つめた。
「誰の叫び?」
ユラは目を開けた。
「……わからない」
サタンは最も前を歩いていた。手はポケットに入れたままで、まるで普通の廊下を歩いているかのように悠然とした足取りだった。
だが——
目元がわずかに細められていた。
彼は歩みを止めずに後ろを振り返った。
「お前たちも感じているだろう?」
白凪は静かに答えた。
「……はい」
ソニヤは前で回転する光の道を見つめた。
「……ノロと関係あるの?」
サタンは一瞬黙った。
「その可能性はある」
タケルは長いため息をついた。
「悪党が大きな計画を立てるたびに、必ず誰かが犠牲になるんだよ……」
ソニヤが彼を見つめた。
「……まるで戦場のベテランみたいな言い方」
「俺は本当にベテランだ」
「トラブルのベテランってことね」
タケルはクスクスと笑った。
グループの緊張感は一瞬和らいだ。
だが螺旋の道を流れるオーラは……依然として冷たいままだった。
サタンは歩みを止めた。
全員も止まった。
彼は上を見つめ、道の先に回転する光の方へと視線を送った。
「準備しろ」
声のトーンは悠然としていた。
だがその言い方の中にある何かが、全員を一瞬にして黙らせた。
「表層に着いた時……」
彼は少しだけ顔を向けた。
「……すべてが変わっている」
──視点変更──
ソイティ市の空が変化していた。
暗い雲がゆっくりと回転し、太陽の光を飲み込む巨大な渦を形成していた。
街の道路は次第に空になっていった。
普段なら街の至る所を支配する犯罪者たちも、今や静かにひざまずいていた。
大通りの真ん中に——
ノロは立っていた。肉体が変化していた。
黒いローブは流動的な霞のように伸び、絶えず動き続けていた。身長はほぼ倍になり、シルエットは生ける塔の影のようにそびえ立っていた。
暗い布はもはや光を飲み込むだけでなく……
周囲の空間さえも吸い込んでいるかのようだった。唯一見えるのは目だけだった。冷たく、虚ろで、まばたきもしない。
彼の後ろには、五人の護戒衆が整然とした隊形で立っていた。
一人が頭を下げた。
「実験用エネルギーは安定しました」
ノロはすぐに答えなかった。
今やより長くなった手がゆっくりと動いた。周囲の空気が震え、数メートルの範囲で時間が遅くなり始めた。
埃は舞い落ちるのを止めた。街の音は消えた。
「彼は耐えている……」
彼は静かに言った。
声は今やより深く、重たかった。果てしない虚空からの響きのようだった。
仮面がひび割れた護戒衆が薄笑いした。
「その被験者は、価値のある武器になるのでしょうか?」
ノロは少しだけ首を傾げた。
「もしかしたらな」
彼は空を見つめた。
「……あるいは、はるかに面白い何かになるだろう」
風は完全に止んだ。
ノロの影は地面に伸び……数秒間だけ独自に動いた後、再び肉体と一体化した。
彼は前に進み出した。
一歩ごとに路面に細かい亀裂が入った。物理的な圧力によるのではなく……周囲の現実が彼の存在に適応しようとしているためだった。
「この世界……もうすぐ準備ができる」
彼は静かに言った。
一人の護戒衆が尋ねた。
「デーモン・エグアマはどうします?」
ノロはローブの影の中で微かに微笑んだ。
「彼らは私の望む場所へと向かっている」
彼は立ち止まった。
目は遠くを見つめ……次元の壁を貫いていた。
「……それに彼らはまだ気づいていない」
──次元の巣へ戻る──
翔也の周囲のエネルギーの霞が小さな渦となって炸裂した。
エネルギーの鎖は一つずつひび割れ始めた……壊れるのではなく——
もはや必要なくなったからだ。翔也の肉体はゆっくりと降りてきた。
彼は立った。
だが動きは硬く、不自然だった。目は完全に開いている。
虹彩の色が変わり……深い黒に、中にかすかな光の輪が浮かぶようになっていた。
五番は興味深げに見つめていた。
「自我……?」
翔也はゆっくりと手を挙げた。
動きは遅く、まるで初めて肉体を使う者のようだった。
「……どこ……」
声は違って聞こえた。
二つの声が混ざり合って一つになっていた。
五番のドローンが素早く回転し、あらゆる細部を記録していた。
「変身成功だ」
翔也はゆっくりと顔を向けた。
視線は虚ろだった。
だが瞳の奥深くに……まだ弱く脈打つものがあった。嵐の中で懸命に輝こうとする小さな光のようだった。
彼は再び口を開けた。だが一言も出なかった。
まるで人間の言葉が……もはや完全に理解できないようだった。
五番は微かに微笑んだ。
「おかえりなさい」
彼は一瞬立ち止まった。
「……今の君が何であれ」
遠くで、現実の境界がさらに激しく震え始めていた。
そして遥か上空で——
光へと向かって歩むグループは……世界の表層へとますます近づいていた。
だが世界は、誰かが救おうと意図したからといって変わることは決してない。
なぜなら時に——
最も恐ろしいのは崩壊ではない。
むしろ誰かが生きているのに……
もはや自分自身ではなくなってしまった時のことだ。
そして静かな次元の深くで——
今まさに誕生したばかりの何かが……初めてゆっくりと目を覚ました。
「次回更新: 2月 8日 21:00」




