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虚無王ザラビスは退屈している  作者: 釘宮・連
ザラビスの起源に関する注釈
72/73

72.沈黙は選択を始めた

他に落ちる音はない。

叫び声もない。


本来あるはずの、体が床に激突する反響もない。


サタンは一人立っていた。


着地したのがいつか、自分でもわからない。衝突の感覚もなければ、移行の瞬間もない。一歩はまだ空中にあり、次の一歩はすでに黒い石の床についていた——廃墟と呼ばれるものにしては、あまりにも平らな床だ。


彼は歩くのをやめた。


危険を感じたからではない。


虚無のためだ。


周りの空気は湿った匂いも、塵の匂いも、冷たさもない。何の情報も伝えてくれない。まるでこの空間は、誰が吸い込んでも構わないかのようだ。


「……」


サタンは少し肩を落とした。


足音が反響し、だがその反響は戻ってこない。


彼は眉をひそめた。

恐怖からではない。


興味からだ。


「迷宮か」と彼はささやいた。「だが、人を惑わすためではない」


彼は前に歩き出した。


回廊は前に延々と続き、壁は高くて滑らかで、石の継ぎ目がはっきりと見えない。蝋燭もなければ、ランプもない。光はあらゆる場所から届いているが、特定の光源は存在しない。


十分な光だ。


見るには十分。

安心するには不十分。


サタンは慌てずに歩いた。


ソニアを呼ばない。

シラナギを呼ばない。

五体の悪魔エグアマも探さない。


彼は彼らがどこにいて、何をしているかを知っているからだ。


もし同じ迷宮にいたとしても、彼らとは同じ道を歩んでいない。


そしてそれは……故意のものだ。


「分離させる」と彼は心の中で呟いた。「殺すためではない。読み解くためだ」


彼はまた歩くのをやめた。


「ああ……そうだ、ソニアは暗闇が怖いんだっけ? はあ~、少なくとも彼女は『私』に助けを求めて叫び続けることはないだろう」


目の前で、回廊は三つに分岐していた。


標識もない。

違いもない。

「正しい」と感じられる方向もない。


サタンは目を閉じた。


選ぶためではない。

聞き取るためだ。


そしてそこで、彼は感じた。


音ではない。

オーラではない。

圧力でもない。


むしろ不条理さだ。


何かが一つの点にあまりにも多くの機能を集め、それを隠すのを忘れたような感じだ。


サタンは目を開けた。


彼は中央の回廊を選んだ。


歩くほどに、この場所が戦争で廃墟になったのではないことが明らかになった。


爆発の痕跡もない。

慌ての痕跡もない。

逃げる足跡もない。


壁は無傷だが、故意に捨て去られたような感じがする。


まるで誰かがドアを閉め……


そして、再び開けるほど馬鹿な者が現れないことを願ったかのようだ。


「ドラゴンバースト」とサタンはささやいた。


「時間切れの組織にしては、あまりにも整然としているな」


回廊は円頂型の広い部屋に変わった。


部屋の中央に——


黒い金属の骨組みに支えられ、ひびは入っているが崩れていない結晶体が浮かんでいた。


結晶体は輝かない。


ゆっくりと、優しく、規則的に鼓動している。


体は死んでいるのに、まだ動き続ける心臓のようだ。


サタンは影の境界線でちょうど立ち止まった。


近づく歩みを止めた。


観察していた。


結晶体の中で、小さな光たちがゆっくりと動いている。混ざり合わず、融合もしない。それぞれの鼓動には異なるパターンがある。


サタンは目を細めた。


「あ……」


彼は理解した。魂でもなく、自我でもない。


これは能力の痕跡だ。


所有者から切り離され、安定化され、保管されたエネルギー——


保存するためではなく、再利用するためだ。


「これが手口か」と彼は平然と呟いた。「打ち負かさずに勝つ方法」


結晶体は応えた。


鼓動が一段と強くなった。


サタンの存在によるのではなく、概念の接近によるのだ。


サタンは概念以前の存在だ。


そしてこの結晶体は、無理やり共存させられた機能の塊だ。


本来、同じ空間に存在すべきではない二つのものだ。


彼はこれを破壊できる。


非常に簡単に。


たった一つの接触、一つの決断で、この構造全体は疲れ切った嘘のように崩れ去るだろう。


だがサタンは動かなかった。少し首を傾げた。


「面白い」と彼はささやいた。「君は僕に攻撃しようとしないな」


結晶体はまた鼓動した。攻撃的でもなく、防御的でもない。


単に……活動的なだけだ。


「君は生き物ではないからだ」とサタンは続けた。「そして僕は標的でもない」


彼は結晶体の周りの金属骨組みに目を向けた。


ひびは年月のせいではない。


内部の葛藤によるものだ。


誰かが奪おうとし、誰かが守ろうとし、誰かが慌て、誰かが遅れた。


そして最終的に……大きな穴が開いた。


「礼二郎」とサタンはささやいた。「君が最初に目覚めたのか」


どうしてわかるのか、彼自身も知らない。


最初の反応が最もはっきりと痕跡を残すのは必然だ、というだけだ。


サタンは一歩前に踏み出した。結晶体は少し強く震えた。


歓迎するのでもなく、拒絶するのでもない。


むしろ……リスクを認識しているのだ。


「落ち着け」とサタンは柔らかく言った。「僕はここに盗みに来たわけではない」


彼はまた立ち止まった。


核心の範囲からちょうど一歩手前の場所だ。


「そして救いに来たわけでもない」


空気が変わった。重くもなく、冷たくもない。


むしろ意味のあるものになった。


まるでこの場所が、ついに自分の前に立つ者が誰かを認識したかのようだ。


「君たちの問題は」とサタンは続けた、「君たちが存在しているからではない」


彼は結晶体をまっすぐ見つめた。


「問題は……世界が同じカードで戦い始めたことだ」


結晶体は一瞬、混乱した鼓動を見せた。


内部の光の一部がぶつかり合い、やがて元のパターンに戻った。


サタンは小さく笑った。


「ああ。君たちもそれを感じていたのか」


彼は振り返った。


結晶体に触れず、封印もせず、何も破壊しなかった。


「まだ時期が早い」と彼は空っぽの空間に向かって言った。「今介入すれば、結果は正直なものにならない」


彼は歩き出した。


だが三歩歩いただけで——


後ろの回廊が変わった。


崩れたのでもなく、閉じたのでもない。


むしろ……移動したのだ。


サタンは立ち止まり、振り返った。


さっき通った回廊はもはや円頂の部屋に続いていない。今では壁に薄く刻まれた記号のある新しい分岐点に立っていた。


ドラゴンバーストの技術ではない記号だ。


サタンは静かに笑った。


「やっと話しかけてくれたのか」と彼は言った。


応えはない。


だが何かが彼を見返している。


生き物でもなく、実体でもない。


むしろ中心だ。


アクシス・ヴィタエ。


物理的に存在せず、触れず、支配もしない。


単に……共鳴しているだけだ。


サタンは一瞬、目を閉じた。


遠く下に、別の道が開かれているのを感じた。彼を呼び寄せるわけでもなく、拒むわけでもない道だ。


そしてその道に——


違う鼓動があった。


より優しく、より戸惑い、より……人間的な鼓動だ。


「ユカリ」と彼はささやいた。


彼は目を開けた。


「面白い」と彼はまた言った。「世界の中心はゆっくりと歩き出す選択をしたのか」


サタンはその新しい回廊に向かって歩き出した。


導かれたからでもなく、強いられたからでもない。


ただ、一つのことを見てみたいからだ。


この世界が、誰も選ばない勇気をまだ持っているのか——


そして変化し続ける迷宮の奥深くで——


警報が鳴るのでもなく、戦争が始まるのでもない。むしろ古いシステムが——


観察者が中立的ではないことに、やがて気づき始めていた。


そして、応えない壁の間を一人で歩くサタンは——


細やかに笑んだ。


なぜなら、落ちて以来初めて——


次の一歩が、この世界の思考の仕方を変えるだろうと、彼は感じたからだ。


「……クソ……サタン。」


その声は低く、枯れていて、まだ整理されていない激しい感情に満ちていた。


ソーニャは目を開けた。


黒い石の天井が彼女を迎えた。明確な光もなければ、方向感もない。ただ、一人であることを自覚させるだけの暗闇が広がっていた。


彼女は半身起き上がり、少し頭がふらついた。


「……あっ……頭が痛い……」


額を拭おうとしたが、手が止まった。


静かだ。

普通の静けさではない。

反響もない、底なしの静けさだ。


ソーニャは左を見た。次に右を見た。


目の前には長い回廊がまっすぐに延び、暗くて見える先がない。壁はザラザラしているが、廃墟の痕跡はない。誰の足跡もない。


「……いいよ」と彼女はささやいた。「落ち着け。これはただ……地下の迷宮だ。もっとヤバいことあったし」


深く息を吸い込んだ。


それからイライラと鼻を鳴らした。


「サタン!」


応えはない。


「おい! サイコパスの悪魔! 生きてんのか?!」


静けさは依然として漂っている。ソーニャは歯を食いしばった。


「……後で絶対につまずかせてやる」


彼女は少しよろめきながら立ち上がった。

「シラナギ!」とさらに大きな声で呼んだ。


反応はない。


「ユラ! ニカ! クロズミ! コウガイ! ヒノカ!」


名前は一つずつ暗い回廊に消えていった。

一つも戻ってこない。


ソーニャは唾を飲み込んだ。

「ハ……ハ……おもしろいよね」と無理やり笑いながら言った。

「また一人だ」


拳を握った。

彼女は気づいた。

サタンがいなければ、

自分に武器はない。

仲間がいなければ、

自分は疲れ果てている。


そしてこの場所は……


人間に優しくない。だが彼女は歩き出した。


一歩。

二歩。

足音が余計に大きく響いた。


小さな音一つでも、間違いのように感じた。


回廊は変わらない。


狭くもなく、

広くもない。


ただ……ただ延々と続くだけだ。


「サタン……」と彼女はまた呼んだ。今度はもっと低い声だ。


「……冗談やめてよ」


応えはない。

空気が変わった。

冷たくもなく、

暑くもない。

むしろ重たい。


ソーニャは立ち止まった。


今、彼女は感じた。


オーラでもなく、

圧力でもない。


むしろ……存在だ。


前の方に何かが——

動かず、

呼吸もしないが、


待っている。


「……」


小さな足音が響いた。


彼女の足音ではない。ソーニャは素早く振り返った。

何もない。


再び前を見た。

その瞬間、

影がゆっくりと移動した。


現れたのでもなく、

攻撃しようとしたのでもない。


ただ……動かずに近づいてきたのだ。


ソーニャの体が固まった。「だ……だめ……」声が震えた。

「お前……お前は誰……」


影は伸びていった。


床から、

壁に沿って、

空中にまで。


形ははっきりしない。角が多すぎ、体の構造が少なすぎる。生き物である方法を忘れた何かのようだ。


ソーニャは一歩後退した。

次に二歩。

背中が冷たい壁に当たった。


「サタン!!」


絶叫が破裂した。


「サターン!!」


遠く、別の回廊で——


サタンは悠然と歩いていた……


思考はさまよっていた。


「……面白い」とささやいた。


「この構造が存在に反応するということは、局所的な応答中枢がある証拠だ。だがむしろ、意思決定の反射に近い……」


歩くのを止めた。


少し首を傾けた。


「……ん?」


音でもなく、

信号でもない。


むしろ、絶断の感覚だ。


サタンは眉をひそめた。

それから目が少し大きく開いた。


「ソーニャ。」


彼は思い出した。

疲れ果てたソニア。

武器のないソニア。

守りのないソニア。そしてこの迷宮は


受動的なものではない。


「あ」と低く言った。

「俺のせいだ。」


周りの回廊がひびを入れた。


崩れたのではなく、

彼の一歩で裂けたのだ。


サタンは走り出した。

全力を使ったわけではない。


封印も解かなかった。


だが一歩一歩が空間を屈せさせていた。


壁が砕け、

床が浮き上がった。


まっすぐな回廊が曲がり、一つの点を指すように無理やり変形した。


再び絶叫が聞こえた。


「サターン!!」


サタンは体をひねり——

蹴り出した。


その影が形を完成させる前に、彼の足が衝突した。


「悪魔が参上だ!」


衝突に血は出なかった。


骨の音もしなかった。


影は概念的に引き裂かれ、壁に叩きつけられ、それから修正された過ちのように消え去った。


ソニアは尻もちをついた。


目を見開いた。「……サタン……?」


その姿が彼女の前に立っていた。


イライラさせる小さな笑みを浮かべて。


「……遅すぎだよ」とソニアは震える声で言った。


彼女は立ち上がり——

走り出した。


思い切りサタンを抱きしめた。


「怖かった……」と低く、声が震えながら言った。

「本当に怖かった……」


サタンは一瞬黙った。

それから抱きしめ返した。


手でソニアの背中をそっと叩いた。「俺は知ってる」と柔らかく言った。

「ごめん。」


ソニアは深く息を吸い、体を寄せたままだ。「……疲れた。」


サタンは笑った。「聞こえるよ。」

「……抱っこしてくれる?」とためらいながら聞いた。


サタンは小さく笑った。「いつから?」

「死にそうになった時から。」


「説得力あるね。」


彼は軽々とソニアを抱き上げた。ソニアは鼻を鳴らした。「そんな笑顔するな。」

「君が生きていて嬉しい。」


「クソウザイ。」


ソニアは彼の背中をそっと何度も叩いた。サタンは笑いながら許していた。


彼はまっすぐ前に歩き出し、回廊は彼に屈するかのように自ら開かれた。


そして遠くで——


ユカリは見ていた。


彼女は別の道の脇に立ち、柔らかな光に包まれていた。その隣に——

アクシス・ヴィタエが巨大な眼の姿で現れていた。ユカリはソニアを抱くサタンの背中を見つめた。


胸が温かくなった。

「……彼女の友達ね」とささやいた。


アクシス・ヴィタエが問いかけた。

彼は誰?


ユカリは小さく笑った。

「あの子の友達」と答えた。

「そして……この世界を再び平和にできるかもしれない人。」


彼女は仲間たちの前を歩く礼二郎の方をちらりと見た。


話したい。


抱っこしてもらいたい。

だがその言葉は喉につかえた。


アクシス・ヴィタエはすべてを静かに見守っていた。


そして遥か上空——

空よりも遥か上で——

何かが着地した。


落ちてきたのではない。


目的を持って降りてきたのだ。


ノロ。


彼女の足が黒い地面に触れ、興味深げに目を細めた。


「……悪魔エグアマ」とささやいた。

「まだ無傷だ。よかった。」


細やかな笑みを浮かべた。

「さあ……残されたものを回収しよう。」


そして地下世界は

ついに本格的に動き出した。

「次回更新:1月 31日 21:00」

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