68.記録される歩み
視点:零二郎
廊下は終わりがない。
形も変わらない。
そしてまさにそのせいで、零二郎は最初から一つのことに気づいていた:
この廊下は迷う場所ではない。
足音は静かに響く。踏み込む力が強いからではなく、周囲の空間があまりにも静かで、音を完全に飲み込めないからだ。すべての響きは計測されているように感じられ、まるで廊下が彼らの存在を一人ずつ数え上げているかのようだ。
零二郎は先頭を歩く。
進みたいからではない。
ただ、自分が指示しなくても、足が勝手に同じ方向へ進み続けるからだ。
後ろでは、猛は息が荒い。
夜と春名は肩を並べて静かに歩き、城四郎は少し遅れを取りながら、誰にも見えない何かを読むように目を動かしている。
はっきりとした壁もない。
確かな天井もない。
廊下は虚無から彫り出された一直線の道のようで、どれほど遠いのか示唆もなく前へと続いている。
しかし不思議なことに、零二郎は彼らが回っていないことを知っている。
道に迷ってもいない。
受け入れられているのだ。
「零二郎」
ついに城四郎の声が静寂を打ち破った。
「何か感じないか?」
零二郎はすぐに答えなかった。少し歩みを緩めた——立ち止まるのではなく、誰もがついているか確かめるためだ。
「何を?」
静かに尋ねる。
「この廊下……押し付けてこないけど、手助けもしてくれない」
城四郎が続ける。夜は微かに頷いた。
「まるで……見守ってるだけみたい」
その言葉が宙に浮かぶ。そしてまさにその瞬間、零二郎は首筋にほんのりとした重圧を感じた。脅威ではない。むしろ注目されているようなものだ。
「うん。前に進むように促すこともない」
やがて零二郎は言った。
足が止まった。
他の人たちも反射的に立ち止まった。
零二郎は少し振り返った。眼差しは静かだったが、誰かの顔に焦点を合わせているのではない。先へと続く、変わらぬ一直線の廊下を見ていた。
「自分たちで進んでいるんだ」
猛は長い息を吐いた。
「つまり……立ち止まったら——」
「廊下は怒らない。でも待ってもくれない」
零二郎が言いかけを遮った。その言葉で空気はさらに重くなった。
春名はジャケットの裾を握り締めた。
「ゆかりさんまだ見えない」
小さな声で言う。
その名前は水面に広がる小さな波紋のようだった。進む方向を乱すことはないが、忘れてはならない存在だ。
零二郎は静かに頷いた。
「後から追いついてくる」
空虚な信念でもなければ、慰めでもない。むしろ……理解だった。
彼らは再び歩き出した。
時間が経てば経つほど、足取りは軽く感じられるが、心はどんどん重くなる。廊下は体力を消耗せず、体に負担をかけない。この世における自分たちの立ち位置について、意識のより深い部分を削り取っているのだ。
やがて猛がまた話しかけてきた。
「零二郎……入ってきてから気づいてないか?」
「エネルギーが減ってない。でも増えることもない」
夜が言い続けた。
「それに時間……普通に流れてないような気がする」
城四郎が静かに付け加えた。
零二郎は再び立ち止まった。
今度は、目の前の廊下が変化した。
崩れるわけでも、割れるわけでもない。ただ、「重なる」のだ。
まるで前の空間が、距離では計れない深さを持っているかのようだ。透明な層が次々と重なり、それぞれがわずかに違う角度で彼らの姿を映し出している。
零二郎は一歩前に踏み出した。
一層目が震えた。
拒絶するのではなく、認識しているのだ。
「勝手に進むな」
城四郎が早口で言った。
「無理はしない。ただ……歩いてるだけだ」
零二郎は答え、また一歩を進めた。
二層目が反応した。
猛は喉を鳴らした。
「まるで……」
「秤にかけられてるんだ」
零二郎が言葉を補った。
そして三歩目を踏み出すと、層たちは開かれた。
裂けるのではなく、道を譲るのだ。
春名は言葉を失った。
「どうして……零二郎さんだけ?」
廊下は答えなかった。
しかし答えは明らかだった。
零二郎は野望を抱いていないから。
拒絶の念もない。
制覇しようという思いもない。
ただ歩いているだけなのだ。
彼らは一緒に層を通り抜けたが、零二郎は一歩一歩で違う何かを感じた。まるで廊下が力を試しているのではなく……存在の一貫性を測っているようだ。
やがて視界の端に別の影が現れた。
人間の姿でも、怪物でもない。むしろ先の層に残されたシルエットのようなものだ。
猛もそれに気づいた。
「あれ見えるか?」
「うん」
零二郎は答えた。
「あれ……妄撃?」
零二郎はすぐに答えなかった。
その影は動かない。追いかけてこないし、脅かすこともない。ただ……存在しているだけだ。彼らが触れていない一つの現実の層に隔てられている。
「彼はまだここにいる。でも俺たちの道ではない」
やがて零二郎は言った。
「まだだ」
城四郎がつぶやいた。
彼らは進み続けた。
廊下は再び一直線に戻り、層は消え、重圧も緩和された。しかし完全に落ち着く前に、何かが変わった。
先の光が少し薄れた。
暗くなるのではなく、収束しているのだ。
そして遥か彼方に、どこか違うと感じられる一点があった。
扉でもなければ、目的地でもない。むしろ……結節点のようなものだ。
零二郎は歩みを緩めた。
「前に……何かがある」
夜は目を細めた。
「本当か?」
零二郎は頷いた。
「うん」
猛は顎を締めた。
「もしそれが戦いなら?」
「違う」
零二郎は答えた。
もしそれが死なのか?
「それも違う」
彼はまっすぐ前を見つめた。
「選択なのか?」
零二郎はすぐに答えなかった。
一歩、さらに前に踏み出すと——
入ってから初めて、廊下はより速く反応した。
拒絶するわけでもなく、開くわけでもない。ただ、狭まるのだ。
まるで告げているかのようだ:
ここから先は、単に流されるだけでは歩めない。
零二郎は立ち止まった。
深く息を吸い込んだ。
後ろには仲間たちが待っている。
廊下の外では、翔也は別の道を選んでいる。
どこかで、ゆかりはまだ追いつこうとしている。
そしてここで——
零二郎は境目に立っていた。
「俺が進んだら……お前たちもついてくるか?」
振り返らず、静かに尋ねた。
即座の答えはなかった。
しかし足音が響いた。
一つ。
それから二つ。
彼らは後ろに立っていた。
零二郎は微かに笑みを浮かべた。
「いいだろう」
前に踏み出した。
そして廊下は、一言も発することなく——
彼らの決断を記録した。
廊下は彼らの背後で閉じた。
ドアのように閉まるのではない。
むしろ、忘れ去るように消えていった。
零二郎は振り返らなかった。
今振り返れば、自分には不要な何かを感じてしまうことを知っていたからだ。
足取りは続いたが、周囲の世界は……どんどん薄くなっていく。
そしてまさにその瞬間――
ゆかりは膝まで崩れ落ちた。
傷ついたわけでもない。
疲労が極限に達したわけでもない。
ただ、進むべき方向が失われたからだ。
手の下の地面は冷たく凸凹で、まるで床になるか断崖になるか決めかねているような感触だった。周囲の空気は重くないが、あまりにも軽すぎ――まるで自分の呼吸が肺ではなく、何か別の場所で支えられていないかのようだ。
ゆかりは顔を上げた。
廊下だ。
先ほどと同じ廊下ではない。
だが、その痕跡だ。
まるで何かが通り過ぎたばかりの道のよう――幻と呼ぶにはあまりにもリアルだが、手が届くには遠すぎる。
「零二郎……」
声にならないまま、その名前が漏れた。
ゆかりはゆっくりと立ち上がった。手がわずかに震えている――怯えているのではなく、遅れてきた調和を取ろうとしているからだ。離れてからずっと、胸の奥に細い糸が引っ張られるような感覚があり、それは静かだが絶え間なく前へと誘っていた。
歩き出した。
一歩一歩が……一秒ずつ遅れているように感じられる。
単に遅いのではない。
ただ、時間軸が合っていないのだ。
目の前の廊下は延びていくが、まっすぐではない。細かく曲がりくねっており、まるで迷いながら線を引く手のようだ。壁も実体がなく、影の層が何重にも重なっているように見える。
ゆかりは片側の壁に手を伸ばした。
自分の影が半秒遅れて残った。
ゆかりは素早く手を引き戻した。
「分かった……」
つぶやいた。
「これは残された道なんだね」
今、やっと理解した。
零二郎たちが自分を置いていったのではない。
彼らが先に受け入れられただけなのだ。
そしてゆかりは――
まだ評価されている最中なのだ。
足取りを速めた。
しかし速く歩くたびに、目の前の廊下はわずかずつ遠ざかる。からかっているのでもなければ、邪魔をしているのでもない。ただ……一定の距離を保っているだけだ。
まるで告げているかのようだ:
「自分なりの道で来い」
ゆかりは立ち止まった。
呼吸を整え、目を閉じた。
今までずっと、ゆかりは追いかけてきた。
後からついていこうとしてきた。
誰かの足取りに合わせようとしてきた。
目を開けた。
「それなら――」
静かだが、確かな声で言った。
「追いつかない」
再び歩き出した。
だが今回は……速くはしない。
目の前の廊下が震えた。
開かれるのでもなければ、狭まるのでもない。
ただ、まっすぐに伸びていった。
三歩目でゆかりは気づいた。
道がやっと自分と同じ軸に合っている。
遥か彼方に、かすかなシルエットが見えた。顔でもなければ、全身の姿でもない。ただ、慣れ親しんだ存在がある――目で見なくても分かる光のようなものだ。
零二郎。
視覚ではない。
共振だ。
一瞬、胸が温かくなった。
しかしそれと同時に――
より深い層で何かが動いた。
ゆかりは再び立ち止まり、横を振り返った。
影の壁の向こうに、まっすぐに伸びない形があった。間違った道を選んでいるのではなく、違う深さを選んだだけだ。
「翔也……」
囁いた。
翔也が見えたわけではない。
ただ、意図的に分かれた道を感じ取ったからだ。
ゆかりの廊下と翔也の廊下は交わらない。
ただ――
同じ結節点へ、違う側から向かっているだけなのだ。
ゆかりは再び前を見つめた。
まっすぐな道は今や安定している。
今、一つのことを確かに知っていた:
零二郎は軸であり
自分はつなぎ手だ
そして自分が辿り着いた時――
この廊下は全てをそのままにはしておかないだろう。
歩き出した。
そして遥か彼方で――
零二郎は足取りに微かな震えを感じた。
邪魔でもなければ、警告でもない。
ただ、非常に特徴的な感覚だった。
誰かがやっと、同じ軸で歩き始めた。
零二郎は立ち止まらなかった。
振り返ることもなかった。
だが足取りはより確かなものになった。
廊下はもう一つのことを記録した。
第68話
まだ、分岐点には至っていない。
「次回更新:1月 23日 21:00」




