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60.違和感は、牙を隠していた

ロヨダの空は再び静まり返った。


戦いが終わったからではない――


むしろ、気づく暇もないほど速やかに動き出した、さらに凶暴な何かのせいだ。


崩れ落ちた街の瓦礫の中に、四人のデーモン・エグアマが佇む。アスファルトの亀裂からは小さな炎がまだ燃え、黒煙がゆっくりと舞い上がっていたが、誰一人動かない。


ヒノカは姿を消した。


ゾルントラも同じだ。


ヤシャは剣を下ろし、刃先がひび割れた地面に触れている。その視線は空の彼方、最後にサタンがハイパーソニックスピードで消え去る前に見えた点に釘付けだった。


「遅れるはずがない」


ユラは小声で呟くかのように言った。まるで自分自身を納得させるためだ。


ニカは頷くが、顎の筋肉は固く締まっていた。「分かってる……でもそれでもなあ」


クロズミは拳を握る。鬼のオーラがゆっくりと収まっていく――弱ったからではなく、自分を冷静にさせるために力づくで抑え込んでいるのだ。こんな状況で怒りが湧いても、ただすべてを濁すだけだ。


彼らは誰もが一つの事実を知っていた。


もしサタンが独断で行動しているのなら、彼が追う敵は決して逃げ切れない。


だがまさにそれが、空気を重くする理由なのだ。


サタンは決して理由なく行動しない。


そして彼が封印を一つまた一つ解き放つ時――それは、長生きさせてはならない何かが存在する証拠だ。


――上空高く、人間の目が届かない場所で――


ゾルントラは轟音を立てる機関で疾駆する。金属製のパネルにはひびが入りきり、警告システムが止まることなく点滅していた。コクピット内でサオ・バイは笑い続けているが、冷や汗が額の生え際を濡らしていた。


「速い……本当に速い!」


逃げるように、まるでこの追跡劇を楽しんでいるかのように彼は言った。「だがお前には絶対――」


声は突然途切れた。


後方センサーが反応しなくなった。


クロキバは唖然とした。


「なに? 誰だ?」


故障ではない。消えてしまったのだ。


コクピット内の空気が重く変わった。


物理的な圧力ではなく――本能だ。


サオ・バイはゆっくりと振り返る。


ディスプレイには何も映っていない。


だが外の何かが、彼を見つめている。


街の向こう側、空とロボット戦場から遠く離れた場所――


ドラゴン・バーストの地下基地。正確には、零次郎と猛が墜落した巨大な穴の奥だ。


二人は共に目覚め、自身が直前に何をしていたか全く記憶がなかった。足を引きずる猛が零次郎を背負いながら歩いていた。


「大丈夫だ零次郎、俺は元気だ。一人で歩ける」


疲れきった猛が言うと、零次郎は彼を見て微かに微笑んだ。


「分かった、君がそう言うのなら」


一方……


零次郎と戦いたいとしていた猛撃は、本物の零次郎ではなかった。


彼らは分断されていた。


非常灯がかすかに光り、湿ったコンクリート壁に長い影を落とす。古い配管から水が滴り落ち、小さな反響が繰り返されている。


足音がひっそりと響く。


零次郎は先頭を歩き、手に槍をしっかりと握っている。呼吸は整っており、目は警戒に光っていた。後ろを追う猛は、まだ完全には治っていない左肩の古傷の痛みを押さえながら歩いていた。


「この廊下……すごく見知らぬな。まっすぐで終わりが見えない廊下なんて、初めて見るような気がする」


猛がつぶやくと、零次郎は頷いた。「それこそが危険な証拠だ」


ここの空気は冷たい。気温のせいではなく、何かの存在によるものだ。


何かを目撃する前から、彼らはそれを感じ取っていた。


壁に微かな震動が走る。天井からは粉塵が落ちてくるが、それは光を放つ粉塵だった。足音でも呼吸音でもなく、耳に不快な感触を残す擦れるような音が響く。


猛は唾液を飲み込んだ。「おい零次郎、さっき猛撃と戦い始めようとしてたんじゃないか?」


「ああ、だがあいつとは離れてしまったようだ」零次郎は短く答える。「非常に不気味な話だ」


廊下の先から、影が動いた。


その姿はすぐには判別できない。まるで光がその存在を拒絶しているかのようだ。細長く低い体は、狭い空間ではありえないような横滑りのような動きで進んでくる。


赤い瞳が一つ、また一つと灯りだした。


かすれた声が響き、狭い廊下に反響する。


「人間……また戻ってきたな」


猛は武器を構えるが、手は微かに震えていた。「今度は逃げない」


猛撃は低く嗤った。その音が周囲の金属を鳴り響かせる。「勇敢か……それとも馬鹿か?」


零次郎は半步、前に踏み出した。「未了の用件を済ませるだけだ」


空気が震える。


予告もなく、猛撃は襲いかかる。


体は跳ね上がり、壁、天井、床と規則性のない動きで移動し――予測不能な軌道だった。巨大な爪が彼らが今いた場所を打ち抜く寸前、零次郎は猛を横に押し飛ばした。


粉塵の爆発が廊下を包み込む。


「今だ!」


零次郎が叫ぶと、猛は装備を作動させた。短い光が瞬き、その光が猛撃の位置をマークした――魔物が再び影に紛れる直前の、わずかな瞬間だった。


だが今回は、彼らは慌てなかった。


零次郎は一瞬、目を閉じて耳を澄ます。


音ではない。律動だ。


混沌の中にパターンがある。


彼は目を開ける。「左。三公尺先だ」


猛は指示通りに動いた。エネルギーの爆発が廊下の壁を直撃し、猛撃を影から追い出した。魔物は唸るが、痛みのせいではなく驚いたからだ。


「面白いな」声は今や低くなっていた。「成長したな」


零次郎は答えなかった。僅かな隙でも見逃さず、既に動き出していた。その攻撃は乱暴でも焦った様子もない。


これは倒すことが目的ではない。


耐え、そして押さえ込むこと――それが目的だ。


地下廊下は戦闘が再開するや否や、揺れ始めた。


彼らの上、地下からはもはや見えない空の彼方で――


サタンとゾルントラの追跡劇は、もはや引き返せない地点へと刻一刻と近づいていた。


そしてロヨダの街では、地上でも地下でも――


それぞれの運命へと向かう、異なる戦いが動き出していた。


地下回廊は再び静まり返った。


粉塵がゆっくりと降り積もり、点滅する非常灯の下でかすかに煌めいていた。猛撃ジャの身体がコンクリートの床に横たわり、動く気配はない。黒い体液が彼の身体の隙間からにじみ出てきたが、地面に触れる前にすでに蒸発していた。


零次郎は荒い呼吸で立ち尽くしている。武器はまだ構えたままで、反射神経が完全に収まる様子はない。猛は壁にもたれかかり、額の汗を拭っていた。


「……終わった?」


猛は息切れしながら疑問を呈し、声は自信に欠けていた。零次郎はすぐには答えず、猛撃ジャの身体を長時間にわたって見つめていた。


何かがおかしい。


「いやだ」と彼はやがて言った。「あまりにも簡単すぎる」


猛は眉をひそめた。「簡単? 俺たち息も絶え絶えだぞ」


「それじゃない」零次郎はしゃがみ込み、魔物の残骸を観察しながら続ける。「動き方も反応も……あいつは俺の技を読んでいなかった」


猛は言葉を失った。


かつて彼らを死地に追いやった猛撃ジャが、これほど単純なはずはない。


突然、床に横たわる猛撃の身体が割れた。


傷ついたのではなく、内側から裂けたのだ。


外殻は古い皮膚のように崩れ落ち、形なき黒い塊と化した。中身はない。存在の核心などどこにも見当たらなかった。


「偽物か」


猛がつぶやくや否や、回廊が微かに揺れ始めた。


遠くから、何かが動く音がした。


一つの足音ではない。無数に。あまりにも多すぎる。


零次郎は即座に立ち上がった。「俺たちは一人じゃない」


回廊の先にあるライトが一つずつ点滅しながら消えていく――まるで近づいてくる影に飲み込まれるかのようだ。


「逃げろ」零次郎は短く言った。


「同感だ!」猛は即座に振り向いた。


二人は、本来あるはずの長さを超えているように感じる長い回廊を疾走した。どんな曲がり角も繰り返されるようで、どんなコンクリート柱も見覚えがあり――まるで回廊自身が折りたたまれているかのようだった。


「この廊下……」猛は息切れしながら叫ぶ。「どんどん長くなってるだろ!」


「長くなってるんじゃない」零次郎は答えた。「俺たちは回されている」


背後から、擦れるような音が再び響く。前よりも重く、ゆっくりとしている。そして……あまりにも静かだ。


何かが彼らを追っている。焦った様子もなければ、慌てている様子もない。


――別の場所、地下だがさらに深い場所で――


本物の猛撃ジャは荒い呼吸で佇んでいる。


全身に傷がまみれ、左の爪は半分折れており、黒い体液が存在そのものに刻まれた亀裂から流れ落ちていた。彼の前には、零次郎にそっくりな男――少なくとも見た目はそうだ――が立っていた。


「なるほど……」猛撃の声は枯れていたが、満足げに響いた。「力を隠していたのか」


相手は答えなかった。


顔も構えも、さらには根底のオーラまでほとんど同一だ。


だがその背中からは、黒い触手が伸びており、まるで独自の意思を持つ生き物のようにゆっくりと動いていた。触手の先は尖り、冷たく鋭い光を放っていた。


その存在は、人間とは呼べないほど大きく口を開けて笑った。


戦闘は再び幕を開けた。


触手が床、壁、天井を叩きつけ、猛撃は僅かな力で必死に防御する。彼は野蛮な攻撃で応酬し、数本の触手を打ち砕いたが、折れたものはすぐに新しいものに置き換わった。


「面白い……面白いな」猛撃は嗤いながらも、黒い血を口から流していた。「本気で死なせそうになった」


偽者の零次郎がやっと声を上げた。その声は平板で、不自然な多重響きが重なっていた。


「予想以上に長く持ちこたえたな」


その瞬間、猛撃は気づいた。


言葉ではなく、律動からだ。


この魔物の攻撃には感情的な隙がない。迷いもなければ、心理的なプレッシャーも存在しない。


本物の零次郎には必ず、人間としての欠けた部分があった。


「お前……」猛撃は半步、後ずさった。「彼じゃない」


その存在は動きを止めた。


初めて、触手が静止した。


「……遅すぎる」と言った。


猛撃は笑ったが、今度は無理やりなものだった。残り僅かな力を一点に集中させ――攻撃するためではなく、空間を切断するためだ。


小さな爆発が起こり、回廊の一部が崩れ落ちて僅かな隙間が生まれた。


「油断するな! 落ち着け、必ず倒してやる」猛撃は息を吸い込み、叫んだ。「逃げるぞッ!」


体がほとんど壊滅寸前でも、猛撃は尖った触手を支柱にしてその隙間から一気に逃げ去った。


――まさにその瞬間、零次郎と猛はある分岐点で急ブレーキをかけた――


そして正面から何かに激突した。


「――おいっ!」


強い衝撃で三人は転げ落ちた。


猛は反射的に立ち上がり、武器を構えたが――そのまま固まった。


目の前には猛撃ジャが立っていた。深手を負い、呼吸は荒く、目は見開いていた。


「……お前たち?」猛撃はつぶやいた。


零次郎も言葉を失った。現実を整理するのに、彼の脳はわずか一秒かかった。


「……本物か」と彼は小声で言った。


静寂が訪れた。


三者が互いに見つめ合う。


猛が緊張しながらも素直な反射で沈黙を破った。


「ちょっと……じゃあさっき俺たちがぶん殴ったのは誰なんだよ?」


猛撃は弱々しくにやりとした。「お前たちが聞くというなら……俺も騙されてたんだ」


まだ誰も動こうとしない中で――


回廊の奥深くから、これまでよりはるかに大きな何かの音が響いてきた。


擦れる音でもなければ、足音でもない。


むしろ低い唸り声のようで、まるで回廊全体が呼吸をしているかのようだ。


全てのライトが同時に消えた。


零次郎は即座に武器を構え、猛は唾液を飲み込んだ。


猛撃は初めて、笑わなかった。


「……あれは」と彼は小声で言った。「俺の手の届く範囲じゃない」


地下回廊は再び命を宿した。


そして今回は誰もが知らないもが知らない――


誰が狩人で――


誰が狩られるのか。

いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。


少し執筆スケジュールについてのお知らせです。

今後は、更新ペースを


「2日に1回・1話更新(1,000字以上)」

更新時間は【21:00】に変更させていただきます。


これまでより更新数は減りますが、

その分、一話ごとの内容と密度を大切にして書いていきたいと考えています。


物語をより良い形でお届けするための調整ですので、

ご理解いただけると嬉しいです。


これからも、無理のないペースで続けていきます。

引き続き、物語を見守っていただけたら幸いです。


どうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
物語がどんどん面白くなってきましたね!釘宮さん、書き続けてください。
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