58.焔の都市と沈黙の悪魔
ロヨダ市、焔に揺れる
遠くから、轟音が空を震わせる。ロヨダ市の上空には、爆発の光が連鎖して広がり——
塵と瓦礫が舞い上がり、ゆらめくように宙を漂い、やがて亀裂だらけの荒れ地へと堕ちていく。
廃墟の上で、ソニアとシラナギは息を切らして立ち尽くし、爆発の方向を見つめていた。
一方、デーモン・エグアマの陣営では——
「……それは、ゾルントラ号だな」
炎の光に映える瞳が、僅かに煌めく。鬼外夜叉——禍月ユラの兄であり、現在の悪魔の指導者がそう囁いた。
「そして……四機のロボットに追われているようだ」
ニカが不確かな口調で付け加える。
「隠れた方がいいのでは?」
ヒノカの声には緊張が滲んでいる。
「不要だ」
ユラは平然と答え、視線を逸らさないまま続けた。「ここで静かにしていろ。起こるべきことは任せよう」
地面が鳴動しているのを見つめ、ソニアが呟く。
「サタン……安全な場所へ、転移させてくれ」
紅黒の刀身を持つその存在——サタンことザラビスは、短く頷いた。
そして、不気味とも可笑しいとも取れる奇天烈な仕草で、刀身に手をかけた。
気づかぬうちに設定された転移先は、デーモン・エグアマ五人が潜む隠し建物のすぐ側——突如現れたソニアたちに、彼らは驚きつつも依然として集中していた。
爆発の衝撃が、虎吼羅梅奈とその配下たちへと襲いかかる。
梅奈は言葉も発せず、遠くを見つめていた。巨爆が瓦礫を吹き飛ばす瞬間、その身体は力強く締まっていた。
ゾルントラ号が轟音を立てて墜落し、地面を揺るがす。塵と廃墟が再び空へと舞い上がる——
隠れ場所から光景を見たソニアとシラナギは、眉を顰める。
「……マジか、こんなに大きいんだ」
シラナギがつぶやいた。
その時、サタンの紅黒の刀身が光り輝く。
「今すぐ逃げろ。あのロボットはドラゴンバーストの総帥、サオ・バイの所有物だ。ここは危険だ」
言葉が終わるや否や、二人はサタンが用意した転移を利用して逃走を始めた。
対するデーモン・エグアマの五人——夜叉、ニカ、ユラ、ヒノカ、クロズミは、呆然と立ち尽くしていた。
サタンから突然に立ち上る圧倒的なオーラ。
瞬く間にその気配は増幅し、苛烈なまでの威圧感を放ち——彼らがその姿を目撃した瞬間、声は轟音となって轟き出す。
「アアアアッ!?!?! あ、あの……っ!!」
全員が気絶して倒れ込んだ。
シラナギとソニアは固まり、呆れたような表情を浮かべる。
「えっ……お前が言ったデーモン・エグアマって、こいつらなの? なんで全部女なんだよ」
ユラが先に目を覚まし、瞳を見開いて力強く語った。
「は、はい! 私たちです……そして指導者は禍月ユラです!」
ソニアとシラナギは刀身の方を見た後、微笑みかけながら柔らかく言葉を込めた。
「こいつ……お前たちの仲間だよ。悪魔で名前はサタンなんだ」
デーモンたちは顔を見合わせる。
「仲間? でも……この人間は?」
指導者ユラが真剣な眼差しで見つめ返す。
「ちょっと待て……これは間違いなく悪魔だろう?」
サタンは冷たい眼差しで相手を見つめ、短く答えた。
「……ア」
ニカが小さく微笑み、好奇心を募らせて尋ねる。
「え? 人間の姿にも変えられるんですね? 角はどこにしまってるの?」
無駄なことは言わず、サタンは再び奇天烈な仕草で姿を変えた。
外ではサオ・バイとゾルントラ号、そして黒牙がノロ軍の四機のロゼボール号と激突しているにも関わらず——
地面は絶え間なく揺れ、爆発がロヨダ市の全てを蝕んでいるのに、隠し建物の中のソニアたちとデーモン・エグアマは、外界の状況など気にしていなかった。
サタンが悪魔の姿に変わると——
シラナギとソニアは口を開けたまま固まる。
デーモンたちも目を見開き、感嘆に満ちた表情を浮かべる。
これはサタンの本来の姿ではないが、その風格は圧倒的なものがあった。
夜叉もユラも見とれていたが、サタンにとってそれは恋心ではなく、ただの敬意に過ぎなかった。——彼は「恋」を理解していないのだ。
遠くから再びロボット戦の爆発音が響き、心まで震わせる。
サタンは微笑み、悪魔たちに向かって問いかけた。
「分かっているな?」
五人は顔を見合わせ、しばらくして力強く頷いた。
「はい! 分かります!」
サタンは行動しやすいよう、再び人間の姿に戻す。呆れたような表情のソニアたちを見て、彼はくつろいだ口調で語りかけた。
「お前たちはここで休養せよ。さて……次は俺とこの五人の番だ」
そう言いながら、優しく二人の頭を撫でた。
ソニアは安堵の微笑みを浮かべ、目を閉じた。
「気をつけてね、サタン……」
「もちろんだ」
サタンは平然と応えた。
デーモンたちは既に剣を手に取り、強固なオーラが全身を包んでいた。
サタンは転移先をゾルントラ号とロゼボール号の戦場から少し離れた場所に調整し——
刹那、全員が転移し、戦いの準備が出来た。
「目を開けろ」
サタンが命令する。
開けた瞳に映るのは、彼の独特な能力の賜物だ。デーモンたちは感嘆に満ちた表情を見せた。
サタンは彼らにスタミナを補給しようとしたが、断られた。
「いえ、必要ありません。殿……あ、すみません、サタン様」
「殿?」
サタンは眉を顰める。
デーモンたちは恥ずかしそうに頬を染め、ヒノカが慌てて言いかけた。
「あ、あの……早速ですが攻撃に移りましょう!」
サタンは不気味な微笑みを浮かべた。
「いざな!」
もう待ったなどしない。全員が疾走を始め、足取りは力強く、動きは俊敏で——そのオーラが足元の地面まで震わせていた。
隠れ場所から様子を見守るシラナギとソニアは、見とれながらも安堵の表情を浮かべていた。一方、巨大ロボット同士の戦いは、計り知れない破壊をもたらし続けていた。
空気は緊張に満ちているが、闘志にあふれていた。
戦いはまさに頂点へと向かっていた。
その全てを見下ろすように、サタンは先を見つめ、僅かに微笑んだ。
「見ているか? これが本当の楽しみだ」
五人のデーモン・エグアマは、まるで生きる目的を見つけたかのように、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「次回更新:1月 5日 20:20 / 21:00」




