56.崩れゆく空と、目覚める核心
空の彼方、陸地の上に割れ目がじわりと広がる。まるで戦いの重荷をもはや支えきれないかのようだ。
ゾルントラは未だ飛翔を続けていたが、かつての支配的な勢いは失われていた。
僅かに残された四機のローゼボアが、今や一体となって動いている。
速すぎるわけでもない。
遅すぎるわけでもない。
ただ、的確に。
サオは即座にそれに気づいた。
「変わったな……」
低い声がコックピット内に響く。
クロキバはディスプレイに映る機動を見つめる。
「個々に動くのではない……互いに死角を補っている」
四機のローゼボアは等間隔に散開し、一台の動きがあれば即座に他の機体が連動する。まるで同じ意思を共有しているかのようだ。
ゾルントラが前進するや――
一機が後退し、二機が側面から迫り、残る一機は距離を保つ。
ゾルントラが方向転換するや――
攻撃の軸が変わり、上下から同時に圧力が加わる。
華やかな攻撃などない。
劇的な空白などない。
ただ、絶え間ない追い込みが続く。
ゾルントラ、窮地に立つ
震動がコックピットの隅々まで伝わる。
クロキバは操縦桿にしがみつく。
「右側装甲の耐久値が低下している!」
サオは頷き、視線は一点に絞られたままだ。
「感じている」
ゾルントラが上昇を試みるや――
一機が即座に進路を遮る。
降下を試みるや――
二機が逃げ道を塞ぐ。
どこにも逃れる術はない。
サオは操縦桿を引き寄せ、ゾルントラを強引に回旋させて僅かな隙間を探る。一瞬、巨大な機動兵器は群がる捕食者の中に閉じ込められた獲物のように見えた。
その時、一撃がゾルントラの胴体に触れた。
強烈な衝撃ではない。
だが、十分な力だった。
機体はぐらつき、高度を失い始める。
「墜落だ!」
クロキバの叫びが響く。ゾルントラは自らの重量をかけながら空中を滑り落ちる。大地が刻一刻と近づいてくる。
サオは息を呑んだ。
――最後の選択
全てに抗おうとはしなかった。
むしろ、耐えることを選んだ。
ゾルントラは機体の姿勢を調整し、落下速度を緩め、致命傷にならないように胴体を回転させる。大地が轟き鳴り響き、厚い塵煙と長い亀裂が生まれた。
四機のローゼボアは即座に攻撃には出なかった。
ただ待っている。
まるでゾルントラが容易には再起できないことを確信しているかのように。
クロキバは顔を向ける。
「もし彼らが同時に攻めてきたら――」
「まだだ」
サオが言葉を遮る。
「確かめたいんだ」
ゾルントラはゆっくりと起き上がる。どの動きにも重みが宿っている。金属の胴体から塵埃が小雨のように零れ落ちる。
サオは顔を上げる。
「俺たちはまだ負けていない」
四機のローゼボアが再び動き出す。今や高度を下げ、距離も縮まっていた。
空と大地が一つになったかのような、重圧が全身を包み込む。
地底深く
――崩れ落ちたドラゴンバーストの本部、牢獄の空間の真下。
荒廃した地表面から遠く離れた地下には、暗き大きな渓谷が広がっていた。
貴族パーティーの夜、ハルナ、ユカリ、城四郎はその中へと降りてきた。
しかし着地と同時に――
彼らは散り散りになってしまった。
爆発もなければ、攻撃もない。
ただ、進路を分断する空間が存在しただけだ。
ユカリは地面に倒れ込み、立ち上がると周囲に誰もいなかった。
かすかな光が、途方もなく高い渓谷の壁を照らしている。
地上での戦いの音はほとんど届かず、僅かな震動が伝わるのみだ。
「夜さん……?ハルナさん……?城四郎さん……?」
震える声が響くが、応えはない。
ユカリは小さく一歩を踏み出し――
そして足を止めた。
何かが前にある。
肉体でもなければ、影でもない。
一つの瞳が。
途方もなく大きな瞳が、渓谷の壁にじわりと開いていた。
ユカリは息を詰まらせる。反射的に武器を掲げる。
「待、待って――!」
銃声が鳴り響く。弾丸は何か不可視のものに当たり、跳ね返って地面に転がり落ちた。痕跡さえ残さなかった。
ユカリは一歩後ずさる。
手は震えているが、逃げようとはしない。
瞳は彼女を見つめている。
静かに。
穏やかに。
そして声が聞こえた――
口からではなく、直接心の中に響く声だ。
「ふむ……ここに迷い込んだ少女か」
ユカリは体が固まる。
「……貴方は、話せるの?」
「聞くことも、見ることも、感じることもできる」声は答える。「そして貴女は……生きているようだ」
ユカリは唾液を飲み込む。
「私……私は迷い込んだんです。仲間に会いたいです」
瞳がゆっくりと瞬きをする。
「それならば」柔らかな声が響く。「まずはお名前を教えていただけますか?」
ユカリは一瞬黙った。恐怖は徐々に和らぎ、瞳には攻撃的な気配は見えなかった。
「笹目ユカリです」
答える声は少し落ち着いていた。
「ユカリって呼んでください」
瞳が黄金色に光り始める。
その光は眩しいものではなく、暖かい。
「ユカリ……」
「ここで自ら名前を告げてくれる人間は、久しぶりだ」
ユカリは目を細める。
「あの、貴方は?」
巨大な瞳がさらに輝きを増す。
「私はアクシス・ヴィタエだ」
声は静かに響き渡る。
「世界コトラットの核心。この世界を調和の保ったまま存在させる、自然の根源だ」
ユカリは呆然とし、目を見開いた。
「……アクシス・ヴィタエ?」
「それって……伝説じゃなかったの?」
「多くの者がそう信じている」アクシス・ヴィタエは穏やかに語る。「だからここまで辿り着く者はいないのだ」
ユカリは瞳を見つめる。恐怖と畏敬、戸惑いが入り混じる感情が胸に広がる。
まだ全てを理解しきれていない。
だが一つだけは確かだ――
自分が今、非常に真実な何かと対話していることを。
再び地上へ
――終わらない重圧
地上では、ゾルントラは依然として四機のローゼボアに迫られ続けていた。機体同士の距離はますます縮まっていく。
サオは深呼吸をする。
「完全なる同調か……」
つぶやく声に力が込められている。
「今度こそ墜落したら……再起は難しいだろう」
クロキバは頷く。
「だが……彼らも無闇には攻めてこない」
サオは目を細める。
「つまり……彼らも警戒しているってことだ」
四機のローゼボアが一斉に前進する。
大地が震える。
ゾルントラは胴体を掲げ、次なる圧力に備える。
戦いはまだ頂点に達していない――
だが世界コトラットは既に、その影響を感じ始めていた。
そして遥か地底で、
世界の核心が瞳を開いていた。
「次回更新:1月 3日 20:20 / 21:00」




