46.「ゾルントラ」
ロヨダの空
ロヨダの空は灰色だった。
風が、瓦礫と影に満ちた人気のない道路をなでるように吹き抜けていく。
コゴラクは部下の前に静かに佇んでいた。その目つきは鋭いが、敵意はない——好奇心に満ちているようだった。
「お前たち……誰だ?」
沈黙が続く。
シラナギは息を吸い込んだ。一歩半前に出て、丁寧にお辞儀をする——こんな状況ではあまりにも丁寧な、そんなお辞儀だった。
「名前はシズラです。」
ソーニャはシラナギが仮名を使っていることに気づき、続けて声を上げた。声は小さいが、確かな響きがあった。
「わ、わたしはソーニャです。」
コゴラクはゆっくりと頷く。そして視線が落ちて——ソーニャの手に握られた赤黒のサーベルに停まった。
その視線は長く続いた。
「それは?」
「何を持っているんだ、娘ちゃん?」
ソーニャの体がこわばる。指がサーベルの柄をしっかりと締めつける。
シラナギは反射的にソーニャ、次にサーベル、そしてコゴラクの方へ目をやった。口が開いた……すぐに閉じた。
「それは剣で——」
静寂。
シラナギの頭は真っ白になった。思考が一つも働かない。
その瞬間——
頭の中に平板な声が響いた。
「答えるだけだ。」
「俺はおもちゃだ。」
「そして俺たちは迷子だ。」
「それだけだ。」
サタンの声は冷たいが……最後に妙な間が入っていた。
「まあ……俺も実は何て言ったらいいかわからないんだけどな。」
シラナギは凍りついた。
「……おもちゃ?」
唾液を飲み込んだ。
「そ、それは……」
「それは……おもちゃです。」
ソーニャはすぐに顔を向けた。目が大きく見開かれる。
「……え?」
シラナギは続けた。声はローバッテリーのロボットのようにボロボロだった。
「わ、わたしたち……この街で迷子になりました。」
サーベルの中で——
サタンは大声で笑った。口から出る声ではなく、精神を打ち抜くような笑い声だった。
「ハハッ——」
「あああ、シラナギ、なんでそんなにドキドキしてるんだ?」
ソーニャは反射的にサーベルの柄を叩いた。
「パクッ。」
「痛っ。」
サタンはすぐに静かになった。
コゴラクは目を細めた。
彼は……それを聞いていた。
眉根が上がる。
「……?」
視線はサーベルへと鋭く向けられた。
シラナギとソーニャはたちまちカタカタになった。
ソーニャは唾液を飲み込み、シラナギは息を呑んだ。
サーベルは……完全に静かだった。
コゴラクはそれを数秒間見つめ、そして長い息を吐いた。
「はあ……」
「幻覚を見てるのかもしれないな。」
二人はたちまち——
「はあああ~……」
全身で安堵した。
シラナギは半分死んだような不満な顔でサーベルを見つめた。サタンは平板なまま。言葉も出さず、反応もしない。
コゴラクは再びくつろいだ表情に戻った。
「で、ロヨダ市にどうして来たんだ?」
シラナギは反射的に答えた。
「この街に……遊園地があると思って……」
沈黙が戻ってくる。
コゴラクはまばたきをした。
「……え?」
「この街に遊園地があった歴史は一度もない。」
シラナギの内面はパニック状態に陥った。
顔は真剣なまま……目はソーニャに向けて速く信号を送っていた。
ソーニャは困惑した。
「なんで? どうしたの?」
その間——
サタンは動き出していた。
音もなく、前兆もなく。
彼らから遠く離れた高層ビルの屋上に、人知れずテレポートの円が形成された。
タイマーが作動する。
20秒。
シラナギは何も知らなかった。感じるのは……妙な重圧感だけだった。
コゴラクは一歩近づいた。
「どうした?」
「なんで黙ってるんだ?」
秒針は進む。
15秒。
シラナギの額に冷たい汗がにじむ。顔は平板なままだが、手が震えていた。
サーベルの中のサタンはにやりと笑った。
「面白いな。」
「マジで面白い。」
10秒。
コゴラクはさらに目を細めた。
「ふむ?」
「シラナギか……スクワッター・スネークのメンバーがこんな所に?」
シラナギの心臓が落ちるような気がした。
「内部紛争か?」
「解散したのか?」
「ちっ……哀れだな。」
5秒。
コゴラクはその場から消えた。
ソーニャは反射的に叫んだ。
「シラナギさん——!!」
シラナギは目を閉じた。
ブリンク。
強風が吹き抜ける。
空が開けた。
彼らはロヨダ市一の高層ビルの屋上に立っていた。
シラナギはすぐに気を失って後ろに倒れた。
半分走り出そうとしていたソーニャは……つまずいて倒れた。
「……え?」
顔を上げる。
ビル。
屋上。
空。
「……わ、わたしたち……生きてるの?」
手に握ったサーベルが小さく震えた。
「座標正確。」
「テレポート完了だよ!」
ソーニャは安堵して笑ったが、すぐに怒り出した。
「サタンーーー!!」
シラナギはちょうど10秒間、完全に気を失っていた。
下では——
コゴラクは固まったように立っていた。
目は大きく見開かれている。
部下たちも……完全に静かだった。
「……テレポート?」
「そんなに速いのか?」
彼は彼らが消えた方向を見つめた。
「普通の人間じゃない……」
目が細まる。
「ザガ。」
一人の影が前に進んできた。
「探せ。」
「シラナギの後ろにいた娘の情報を探せ。」
「それと……そのサーベルを。」
「了解します。」
タジュバは影のように瞬く間に消えた。
一方で……ロヨダ市のどこかで——
大きな車が街の路地をゆっくりと走っていた。
車の中には、ショウヤ、ハルナ、レイジロウ、ユカリ、タケル、ヨル、ジョウシロウがいた。
全員意識を失っている。
ヒダ・ハガネは前に座り、ジャ・モウゲキはそばに立っていた。
スクワッター・スネークのリーダーであるヘビ・クロキバは前を見つめ、表情は冷たかった。
「チョウエイ……死んだ。」
声は重い調子だった。
「ソーニャという娘に殺された。」
車内の空気は一気にこわばった。
「俺が直接、始末する。」
「シラナギも同じだ。」
ドラゴン・バーストのリーダーであるバイ・サオはそばに立っていた。
「気をつけろ。」
「彼らの近くに悪魔種の生き物がいる。」
「異常な力だ。」
「戦略が必要だ。」
車は停まった。
ドラゴン・バーストの本部。
地下に建てられた巨大な建造物。
鉄の扉。
果てしない通路。
「彼らを監獄に入れろ。」
「各セルに電気を通せ。」
「一人も逃がすな。」
「承知します。」
ハガネとモウゲキはその体たちを引きずり込んでいった。
サオは振り返った。
「準備を始めろ。」
「計画を進める。」
巨大な窓の向こうに——
何かが造られていた。
巨大な鉄。
機械の関節。
脈打つようなエネルギー。
「この計画の名前は——」
「ゾルントラ。」
「俺たちは全ての組織を滅ぼす。」
「ノロも……含めて。」
赤い光が点いた。
屋上に戻って——
シラナギはゆっくりと目を覚ました。
ソーニャはそばに座っていた。
「大丈夫?」
シラナギはゆっくりと頷いた。
「……もう少しで死ぬとこだった。」
サーベルは小さく震えた。
「安心しろ、お前たちは大丈夫だ。」
ソーニャはロヨダの空を見上げた。
遠く、高い空には小さな目のようなものが浮いていた。カメラのように。
彼らを再び監視している。
そしてその背後には、誰かが薄笑いを浮かべていた。ゴバンだった。
元々、ノロは一つも規則を作っていなかった。
王を指名もせず、法律を定めもせず、誰も支配もしなかった。
それがまさに彼の過ちだった。
コトラットの世界が崩れ始め、道徳が崩壊し、信頼が失われ、恐怖が日常の言葉になった時——人間は本能的に秩序を求めた。
善いからではない。
一人で生きることを恐れているからだ。
法律がなければ、生き残るのは強い者だけ。
正義がなければ、生き延びるのは狡猾な者だけ。
そうして人々は集まり始めた。
最初は小さかった。
地域を守るグループ、
生き残りを賭けるギャング、
暴力でお互いを守り合う人々。
そして大きくなっていった。
彼らは自分たちに名前をつけ、
現実よりも大きく見せたかった。
シンボルを作り、
メンバーに「居場所がある」と感じさせたかった。
リーダーを選び、
賢いからではなく、一番恐ろしいからだ。
そこに組織は誕生した。
スクワッター・スネーク、ドラゴン・バースト、ブラック・ヤニュエーター——
ノロが支配したから生まれたのではない。
彼らはこうして生まれたのだ。
権力の空白は、必ず人間によって埋められる。
そして規則のない世界では、
組織が法律の代わりになる。
彼らは地域を割り当て、
誰が生き誰が死ぬか決め、
自分たち流の「規則」を作り出した。
皮肉なことに、組織が強くなるほど、
コトラットの世界はかつての平和から遠ざかっていった。
ノロはその全てを見過ごしていた。
望んでいたからではない。
信じていたからだ。
「人間が生き残りたいのなら……
自分たちで道を見つけるだろう。」
そして知らず知らずのうちに、
人間が選んだ道は——
滅びへの道だった。




